第67章
「ねぇ、エリアナ。あなたは一体何処へ向かって居るの?」
クレソン女史の傍らで豪華客船の舵を取るエリアナが、青く美しいガンダル大陸を目前に到着しようとした矢先、面舵一杯回して遠ざかろうとしているのを止めにかかった。
「クレソン女史、貴方のご意向で此処まで参った次第ですがもう駄目なんです。
何故ならばこのガンダル大陸の美しすぎる自然の中で私は幼少期を過ごしました。
ある日それは突然起こったのでした……嗚呼、もう私、これ以上私には話せません……」
号泣しその場にしゃがみ込むエリアナにそっと手を差し伸べるクレソン女史。
「そうなの、私には貴方の過去について知るすべもありませんが、きっと悲しい思い出の場所なのね…
解りました。もう理由など聞きません。私達が王家の城まで向う事が可能であれば何も言いません。それでは貴方の希望の方角に向かいましょう!」
そう言い残すとクレソン女史は操舵室を後にするーーーー
ー*ー*ー*ー
翌日クレソン女史とエリアナは話し合いの結果、再び豪華客船をガンダル大陸に向けて進めました。
船は青々とした海岸線に覆われた島々を幾つも通り過ぎ、美しい湖と川が輝く大自然が見えてきました。
クレソン女史はエリアナに微笑みかけ、言いました。
「エリアナ、私たちは貴方の過去に触れることなく、貴方が望む場所へ向かいます。どこに行きたいのか、教えてください。」
エリアナは感謝の表情で答えました。
「クレソン女史、私はガンダル大陸の中にある、特別な場所へ行きたいのです。
それは私の幼少期の思い出が詰まった、小さな家がある湖畔の村です。あそこで過ごした日々は私にとって宝物です。」
クレソン女史とエリアナはようやく岸辺に辿り着くと船を降り、その特別な場所へ向けて出発しました。
湖畔の村に近づくにつれ、エリアナの心は喜びで満たされていきました。
村の美しい風景が目の前に広がり、エリアナは感極まって涙を流しました。
クレソン女史は優しく言いました。
「エリアナ、これが貴方の故郷ですね。どれだけ時間が経とうと、特別な場所は私たちの心の中に永遠に残ります。」
エリアナは微笑みながら答えました。
「ありがとうございます、クレソン女史。この場所に戻れて本当に嬉しいです。」
二人は船を停泊させ、エリアナは湖畔の村を歩き回り、幼少期の思い出に浸りました。
そして、新たな冒険へ向けての力を取り戻しました。
クレソン女史とエリアナは共に未知の未来に向かって進み、ガンダル大陸の美しい自然と共に新たな夢を刻んでいくことを決意しました。
「ところで一つだけ貴方に質問があるのよ、エリアナ。貴方は確かこの大陸で幼少期を過ごしたのでしょ?
もしかして、本当は貴方にとって大事な人に会いに来たのではありませんか?」
クレソン女史の言葉に、何故か戸惑った様子を見せるエリアナではあったが、遂に封印していたはずの本心を話し始めるのだった〜〜〜
「実は、この島には私の父上が住んでおります。名前はネロ伯爵と申しまして、かつては貿易商としてこの大海原を股に掛けて世界中を航海しておりました。
しかし私はある日、母に連れられて遠くの島までゆくことになったのです。それもこれも海賊達の仕業に違いありませんが〜〜〜」
「え、なんですって!」
エリアナの話を聞くや、クレソン女史は青ざめる。
ネロ伯爵といえば我が夫。もうとっくに死んだ筈、そう風のうわさで聞かされていた……
そして私と彼との間には、子供はいない。
しかしこの島で出逢った誰かとの間に出来た娘が、今、私の眼の前に居るというの?これは一体……
すると再びエリアナが呟く。
「父には別の場所に奥さまがいることを承知で、母は私を身ごもりました。
しかし私の胸中として、そんな父には不信感しかありませんでした。
そんな折に海賊によって私達が引き離された事は、私にとっては好機となりました。
なので、私にとってこの青く美しいガンダル大陸には良い記憶が無いのです!」
クレソン女史は驚きと混乱の中で、エリアナの話を聞いていました。
彼女は自分の夫が別の場所で別の家庭を持っていたこと、そしてエリアナがその関係から生まれたことを知りました。
心情的に複雑な状況に直面し、言葉に詰まりました。
エリアナは深いため息をついて続けました。
「クレソン女史、私は本当のところ…この場所で父に再会するつもりはありません!
むしろ、これからは新しい冒険に向かい、自分の人生を切り開いていきたいのです。」
クレソン女史は少しだけ落ち着きを取り戻し、エリアナの決意を尊重しました。
「エリアナ、私は貴方の選択を理解し尊重しますよ。
私たちは共にこの大海原を航海して、新たな可能性を見つけることができましょう。
何か助けが必要なら、いつでも頼ってくださいね。」
美しい湖のある森を抜けて再び豪華客船へと向かう二人。
すると眼の前に1台の4頭建ての馬車が止まると、シルクハットにグレイヘアの紳士がステッキを突いて降り立つのだった。するとこちらに向かって歩き出す。そう、それは……
「おい、クレソンなのか?そしてお前は……エリアナ?」
それは間違いなくネロ伯爵そのものであった。
☆☆☆to be continued!!!///




