第136章
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主治医ミケロッティ伯爵「たった今奴らは城の裏門から脱走を図りました!如何致しましょう、王様!チッ。」
VRコントローラにて王様に早速通信し情報提供する主治医ミケロッティ。そしてその様子を傍らで見ているクラリ。
給仕クラリ「それにしてもお母様はどちらに向かわれたのかしらね。まさかあんなに簡単に脱走出来るなんて……よっぽど事前に門番に裏工作しておいたのでしようね。馬車までチャーターしてあるなんて。」
主治医「それにしても王様に呼ばれた仙人フォーまでグルになって脱走を促すとは、なんたる不届き者なんだ!もしかして彼らは王様の正体の事を知っての行動なのだろうか?」
クラリ「きっとお母様の口添えがあったのよ。王様の悪口をあること無いこと吹聴して手伝わせたに違いないわ!でも、あの人のことだから大体行き先は見当がつきますからご安心を。」
間もなくして王様からの通信が入る。
王様「クレソンが……それはまことか?しかしあんなに大事に公職もさせずに彼女のわがままを聞いてやっていたのに何故なんだ……」
主治医「左様で御座います。やはりご病気の症状の一つなのでしようか。しかしクラリ様が行き先の見当はおつきになられるとのことでして、どうかご安心を。」
王様「君がそう言うなら様子を見るとするか……やはり今回あろうことに不仲だった仙人フォーをワシが呼んだのがマズかったのかもしれないな。
御老体でそろそろ落ち着いたものかと思っていたのだが、まさか妻の脱走を手伝うなんて……それよりも大事なのは、彼らにワシらの本当の正体はバレてはおらんだろうな?」
主治医「は、はいっ、おそらく……しかしフランク伯爵は「王様の声は宗谷にそっくりだ」と、薄々気づかれた可能性も無きにしもあらずですが。」
王様「そうか……何とかVRを駆使して奴らの目を誤魔化す方法を考えなければならんのう、チッ。」
王様からの通信が切れる。二人は王様の言うVRを駆使しての方法について話し合い試行錯誤するのであったーーー
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クレソンのチャーターした四頭立ての馬車は、丘を下り続けて城下町の先にある砂浜目指して尚も突き進むのでした。暫く振りの外の世界に脱出したクレソンといえば、景色の何もかもが目新しく映るのでしたーーー
クレソン「あら、こんなに変わってしまったなんて、これじゃあ私は井の中の蛙だったんじゃないのよ!それもこれもあの男のせいなのよ、宗谷のヤツ、許さ〜んっ!」
フランク伯爵「ん、今何と仰られましたか?私の耳が確かならば「宗谷」と申されたようで、まさか……」
クレソン「ええ、言ったわよ、私の旦那「宗谷」って。もしかしてアンタ達、王様がツアコン宗谷だってこと知らなかったの?」
フランク伯爵「それは本当の話で御座るか?こりゃ驚いた!」
仙人フォー「フランクや。まぁ無理もないな、ワシも王様の正体は黙っていたからな。
何せこのVRツアーを企画した張本人が王様だとドアーフ役の皆が知ってしまったらこんなVRゲームなんて成り立ちっこないからな。
それにワシは本心お前のことが嫌いだから教える必要ないし。」
フランク伯爵「な、なんだふざけんなよこのヘボ魔法使い仙人があッ!あんなにワシの城まで住まわして悠々自適に過ごさせてやったって言うのに、お前はこの恩知らずがあッ!」
クレソン「ちょっとやめなさいよ、ジジィ達の喧嘩なんてダサくてみっともないから、やだわ口から泡吹きながら必死ね、フフッ!」
フランク伯爵「な、ナンジャとぅ、そう言うお前さんだって立派なババァのくせしてスカしてんじゃねぇよ、この老いぼれ女がぁ!」
クレソン「な、なんだって?よりにもよってこの王妃を捕まえて老いぼれ呼ばわれなさるの?アンタなんか旦那に言ってこのゲームメンバーから追放してあげるから憶えてらっしゃい!そして他のゲームメンバーにもチャットで拡散しちゃうんだから、あんたなんか炎上して燃え上がってしまえぃ!」
フランク伯爵「そ、それだけはご勘弁を。そんな事されたらこの私が何十年もかけて築いてきた功績が全て消し飛んでしまうではないか……
私の城、私の広大な畑や領地、全て誰にも渡すわけにはいか〜んッ!」
仙人フォー「その辺は心配いらんよフランク君、ほれここに居るこのワシがぜ~んぶ綺麗さっぱり引き継いでやるからなあ、プヒッ!」
フランク伯爵「お、お前なんかに取られてたまるかぁ〜ッ!そしたら次期王様はお前がなっちまうかもしれないじゃんか!」
仙人フォー「それは君が心配することではないぞよ。どうせ君はこのVRツアーゲームから追放された後の事なんだからな、ピヒッ!」
折角仲間になりかけたと思っていた矢先にとんでもない仕打ちを受けるフランク伯爵は、クレソンに馬車を停めさせて一人落胆した表情で去ってゆくのであったーーー
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その日からフランク伯爵はというと、いつ追放されかねないこのVRツアーゲームの世界の中を彷徨い続ける日々を送ることになるのであったーーー
来る日も来る日も食事を取るわけでもなく、ただひたすらに馬車から降ろされた海岸線を辿って北へと痩せこけながら向かっていたのでした。
するとそこにどうしたというのでしょう、なんと見知らぬドラゴンちゃんとミニドラゴンちゃんが舞い降りてくるではありませんか!
この親子連れのドラゴンちゃんは頭ボッサボサ、ヒゲ伸びまくりの痩せこけて汚らしいフランク伯爵に何故か興味津々の様子。そして何やらフランク伯爵に向かって話しかけますーーー
ドラゴンちゃん「おい、そこの汚らしいお爺さん。昨日も見かけたけどアンタ一体何処へ向かっているんだい?」
興味津々のお母さんドラゴンちゃんが物珍しげにフランクに質問する。その子どものミニドラゴンちゃんはフランク伯爵を嗅きまくったせいか、足下がふらついている様子。
ミニドラゴンちゃん「おいちゃんくっせぇなぁ、たまには水浴びしなよ。そうだ、今から一緒に水浴びしに行こうぜぇ!」
お母さんドラゴンちゃん「そうねぇ、それは名案ね。ならそこまでひとっ飛びで連れてってあげるからアタシの背中に乗っかんなさいよ!」
無気力なフランク伯爵はお母さんドラゴンちゃんに言われるがままに背中によじ登ると、ドラゴンちゃん達はふわりと離陸して上空高くを目指すのでした〜〜〜
ミニドラゴンちゃん「ママ、あそこに小川が流れてるよ!あそこにしない?」
お母さんドラゴンちゃん「あらほんと、良さげね。ではそうしましょう!」
2頭のドラゴンちゃん達は弧を描きながら徐々に高度を下げてゆく。そしてようやく小川のほとりまでたどり着くのであった。
ミニドラゴンちゃん「アレッ、この小川温かいよ!」
お母さんドラゴンちゃん「どれどれ……あら、丁度よい湯加減じゃないのよ!私達ついてるわね。」
久方ぶりに入った温泉の小川に癒されたことで、ようやくフランク伯爵の表情も柔らかくなり始めた。そして呟くのでしたーーー
フランク伯爵「この度はまことにありがとうございました。老いぼれで汚らしいルンペンなこの私に愛の手を差し伸べて頂けた事に、言葉では言い表せないほど心より感謝しております。」
お母さんドラゴンちゃん「いいのよ、お互い様だからこのくらいの事なんて。それより一体どうかなさったの?こんなにやせ細っちゃって、これじゃあ骨皮筋衛門ではありませんか……」
フランク伯爵「ハハッ、上手いこと仰って。」
ミニドラゴンちゃん「おいちゃんそろそろお腹空かない?僕達今から里芋掘りに向うけど、一緒に行こうぜッ!」
フランク伯爵「それはそれは、実は私も里芋の煮っころがしが大好物でしてね。」
お母さんドラゴンちゃん「なら決まりね。それでは早速上へ参りますのでご搭乗下さ〜いッ!」
小川の温泉で身軽になったフランクはひょいとお母さんドラゴンちゃんの背中に飛び乗ると、もうすっかり真っ暗闇になった夜空の星々の中へと飛び立ってゆくのでした〜〜〜
///to be continued!!!☆☆☆〜〜〜




