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第120章

 古老ジョーがネロ伯爵本人なのではないかとの疑いが、イグアナ族の酋長グレーが独自に調査を開始するのであったーーーー




ー☆ーー☆☆ー


 朝方ワットナンプラー駅近のいつもの喫茶店で思案していると、例の4人のアバターたちが向こう側の席から何事もなさげに密かにこちらを監視している。 


 そこで酋長グレーがカマをかけることにした。


 グレーは傍らに携えた家から持ってきたVRコントローラーを取り出すや、スイッチをOFFのまま話し始める。


「やぁ、ジョー、おはよう。ところで君のところで捜査した情報は如何なものかな?

 ん、そうなのか、あのアバターたちのせいで……それは大変だ。では、今からネロ伯爵のところに向かおう。」



 すると聞き耳を立てていた4人のアバター達が一勢にこちらを凝視する。



 先程までのコソコソとした監視などもう微塵もない。



 そしてそのリーダーと思しき男がこちらに向かってくるのでしたーーーー





ーーー***ー


 酋長グレーのネロ伯爵との会話でアバターたちの様子が一変すると、グレーにも彼らの緊張した様子がはっきりと伝わってきた。



 アバターのリーダーと思しき男が近づくと、グレーはゆっくりとVRコントローラーを持ち上げ、微笑みを浮かべてその男に視線を合わせた。



「おはようございます。」



 その男は冷静を装って話し始めたが、その声には若干の焦りが混じっていた。



「あなたがネロ伯爵のことをご存知だとは思いませんでしたので是非ともお話を伺おうと思いまして。


 失礼、我々はただの観光客なのですがね。」



  グレーは相手の目をじっと見つめながら言う。



「観光客がこんな早朝から駅前の喫茶店で私を監視する理由があるとは、誠に面白い話であるぞよ。」




 アバターの男は一瞬言葉に詰まり、しかしすぐに取り繕うように笑った。



「いや、監視なんてそんなことは……

 私たちはただ、ここで朝食を取っていただけです。」



  グレーは静かに頭を振る。



「嘘をつくのは賢明ではない。特に、イグアナ族の酋長の前ではな。


 ネロ伯爵が何を企んでいるのか、君たちがどう関わっているのか、正直に話してもらおう。」




  男は視線をさまよわせ、他のアバターたちに短い合図を送った。



 すると一人が席から立ち上がると、男の少し後ろに控える。



 リーダーの男は大きく息を吸い込んでから、低い声で話し始めた。




「実を申しますと、我々はネロ伯爵の部下です。


 失礼を承知で彼の指示によりあなたの動向を監視しておりました。」



  グレーは満足げに頷く。



「やはりそうじゃったか。ではネロ伯爵の目的は一体何なんだ?」



  男は一瞬ためらった後、答え始める。



「伯爵は古老ジョーが自分の身代わりになることを望んでいます。


 彼は影の覇者として生き続けるために、古老ジョーを利用しようとしているのです。」



 グレーは手元のVRコントローラーを手に取り、スイッチをONにする。



「ならば、私たちの戦いはこれからだな。ジョーを守るため、そしてネロ伯爵の計画を阻止するためにも。」



 するとリーダーの男はあからさまに驚いた表情を見せたものの、すぐに覚悟を決めたように頷いてみせた。



「貴方の意志を尊重します。実は我々も伯爵の計画には納得していませんので、協力しましょう。」



 イグアナ族酋長グレーは彼の言葉に思わず微笑んだ。



「よし、では共に戦おう。ネロ伯爵の野望を打ち砕くために!」





ー****ーーー


 その頃……


 グレーの策略であるVRコントローラーのスイッチがONになった事で、同様にコントローラーを持ち合わせているネロ伯爵が話の内容を全て聞いていたのでした。




 伯爵は悔しさのあまり思わず机にビールジョッキを叩きつけた。



「あの、グレーの奴、余計なことをアバターに吹き込みやがって!」



 ネロ伯爵は怒りの矛先をグレーへと変えたのだった。早速4人のアバター達を招集すべく通信する。



「アーアー、こちらネロ。今コントローラーから君たちの妙な会話が入ったんだが、あれってまさか本心ではないよね?」



「あ、あれは……云えません。」



「何を仰っているのかなぁ僕ちゃん達は?

 このネロ様のお言葉が聞こえなかったのですか〜ッ?」



「えっと……一応聞こえてきます。」



「な、なんですとぅ〜っ一応って?」



「と申しますか、正直聞きたくありません。」



「ケッ!そりゃ困ったね。


 僕ちゃん達はもう少し大人にならなくちゃいけませんねえ~


 よーく耳の穴をかっぽじって聞きなさ〜い。


いいかい、お前ら今日から全員クビ。」



 すると、無線はアバター達の方から勝手に切られた。



 これには流石のネロもプンプン黙っては居られない様子で、今度は酋長グレーのVRコントローラーに送信する。



「やぁ、こちらネロ。御機嫌よう。


 先程の会話の内容だけど、お前はワシの事を嫌いなのかい?」



 すると酋長グレーは間髪入れず、



「嫌いです。」



とだけ言い残すとコントローラーのスイッチをOFFにした。



 これには周りのアバター達もクスクス笑い転げる。そして、



「グレーさん、今日から私どもも仲間として一緒にあのネロ伯爵退治に、ぜひとも参加させてください!」



 酋長グレーはその言葉に対して頷くと、一行は作戦を練るためにと昨日お邪魔した施設にいるジョーに会いに行くのだった。





ー**ーー*ー


  酋長グレーとアバターたちがジョーの入所していた施設に到着すると、昨日の担当が迎えてくれた。

 



 グレーがジョーの部屋を尋ねると、看護師は困った表情で言った。




「申し訳ありませんが、ジョーさんは今朝退所されました。」




 アバターの一人が驚いて担当に聞き返す。



「退所って……こんなに早くですか?」



 すると担当は頷きながらカルテを確認した。



「はい、彼の容態が急速に回復したので、自宅療養が可能と判断されたのです。」



  グレーは一瞬考え込み、次に行くべき場所を決めた。



「自宅療養と言いましたが、彼の家はどこですか?」



 ジョーの担当者は住所を書いた紙を手渡す。



「こちらです。でも、今彼が本当にそこにいるかは分かりませんが。」




 一行は早速その住所のマンションに向かうことにした。




 道中、アバターの一人が不安そうに話しかける。




「グレーさん、もし古老ジョーがネロ伯爵に捕まっていたらどうするおつもりですか?」



  グレーは決然とした表情で答えた。



「その可能性も考えている。だが今は彼を信じるしかない。

 そして彼が無事であることを祈ろう。」



 ジョーの家に到着すると、ドアは少し開いていた。



 グレーは慎重にドアを押し開け、中に入った。



「ジョー、いるか?」



 グレーが声をかけると、部屋の奥からジョーの声が聞こえた。



「ここだ、グレー。」



 一行が奥の部屋に進むと、ジョーが椅子に座って待っていた。



 彼は微笑んで、来訪者を迎え入れた。



「退所したって聞いて驚いたよ!」



とグレーが言うと、ジョーは頷いた。



「ああ、ちょっと事情があってね。君たちもネロ伯爵のことを追っているんだろう?」



  アバターの一人が熱心に話し始めた。



「そうです、ジョーさん。私たちも協力したいんです。ネロ伯爵の計画を止めるために。」



 ジョーは真剣な表情でグレーとアバターたちを見渡した。



「わかった、君たちの協力は心強い。ネロ伯爵の拠点について重要な情報がある。

 だが、まずは安全な場所で話をしよう。」



 グレーは頷き、全員でジョーの話を聞くために安全な場所へと移動する。





*ーー**ーー


  一行は古老ジョーの案内でマンションのエレベーターで階下を目指すのだった。



 するとB3Fに辿り着いたところで止まるとドアが開く。



 すると薄暗い通路が真直ぐに奥へと続いている。



 両側には無数の自動扉が設えてある。



 ジョーはどこまでも続く長い通路を暗闇で見渡せない先へ先へと案内する。



 一行は黙って恐る恐る向かっていた。するとジョーが立ち止まり懐中電灯を左側に照らすと、自動扉があり、ジョーはカードキーをかざすとスーッと音もなく開く。



「さぁ、どうぞ中へ。」



 古老ジョーの案内で一行が中へ入ると会議室のようなテープ席に通された。



 一行は着席するとジョーが呟き出す。



「かつてネロ伯爵は王家へのルートを探して航海旅行をしていた。

 そしてその船は不遇にも嵐の夜に難破してしまったのさ。」



 イグアナ族の酋長グレーが身を乗り出して聞き入る。



「確か幸恵からもそんな話を聞かされた事があったような……それから?」



「彼はよほど恐ろしい思いをしたのであろう、乗組員の多くのゾンビ達を犠牲にしながらも、命からがらこの島に辿り着いたのさ。


 それから暫くの間は誰に対しても怯えるような態度であったが、徐々にこのアバターと打ち解け、彼らの協力の元ここにある「スパイラルワールド」が完成したのだった。」



 古老ジョーの話を聞き入る一行。するとアバターのリーダーが質問する。




「なのに貴方は何故にそんなネロ伯爵の策略に同意できなくなってしまったのですが?」



 するとジョーは急に悲しげな表情に変わると、呟くように云う。




「人は、変わる生き物なのだよ。そして彼は当初掲げていた「幸せな未来の地下都市構想」から、今や程遠く離れた「独裁的監視社会」へと変貌するにつれ、彼も変わっていったのさ。


 ネロ伯爵は幾つもの未来都市構想を成功させ、人々から崇められてゆくと、独善的な采配でエゴの塊となっていった。


 それに連れて人々からの支持率も低下してゆき、遂には彼はストやボイコットを起こされて、やがて幽閉されたのだ。


 そして彼はその収容所から脱走を図ると、この島から出ていったのだった。」





 するとイグアナ族の酋長グレーが呟く。




「なるほど、事情は風の噂で私もかつて耳にしたことがあります。


 しかし彼はこの地からある意味、ボイコットされた恨みで再びこの「スパイラルワールド」で独裁者として君臨しようと企んでいるのではないかと危惧しています。

 ジョー、君はこの状況をどう見ているのか?

 彼が再び独裁者として君臨するのではないかと心配しているが。」




 ジョーは一瞬黙り込み、深い溜息をついた後、突然高笑いを始めた。




 その笑い声は薄暗い会議室に響き渡り、一行は驚きと不安に包まれた。




「何がそんなにおかしいんだ?」




 とアバターのリーダーが険しい表情で問い詰めた。




 ジョーは笑いを収め、冷たい眼差しで一行を見回した。




「実はね、皆さん。私がそのネロ伯爵なんだよ。」






ーー***ーー


  一同が驚愕し、動揺が広がる中、ジョー、いや、ネロ伯爵は続けた。




「この姿を変え、君たちを騙すことで真の意図を隠し続けていたんだ。


 君たちが私を止めるつもりなら、もっと賢くなければならない。」




  酋長グレーは冷静を保ちながら問いかけた。




「何故、ここまでの嘘を?」




  ネロ伯爵は肩をすくめた。




「私の計画を知った者たちが協力するか、または排除するかを見極めるためだ。

 そして、君たちは残念ながら後者だ。」




 アバターのリーダーが拳を握り締めながら前に進み出た。




「ネロ伯爵、私たちは君の独裁を許さない。

 君がどれほど計画を練っていようと、我々はそれを阻止する。」




 ネロ伯爵は冷笑を浮かべた。




「ならば、私を止めてみるがいい。だが、このスパイラルワールドで私の力は絶大だ。

 君たちが勝てるとは思わないことだ。」



  グレーは決然とした表情で立ち上がった。



「ネロ伯爵、君の野望を阻止するために私たちはここにいる。


 どんな困難が待ち受けていようと、君を倒すために全力を尽くす。」



  ネロ伯爵は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷酷な笑みを浮かべた。



「それは見ものだな。だが、君たちはまだ私の本当の力を知らない。」




 その時、突然部屋の照明が明るくなり、自動扉が閉じられた。




 ネロ伯爵が一行に対して独裁プランを企む中、一行は緊張感を持って次の行動を考え始めた。



 いよいよ新たなるミッションの火蓋が今、切られようとしているのだったーーーー







///to be continued!!!☆☆☆


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