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異界「ダンジョン」攻略物語  作者: 地雷原のチワワ
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第1話 -駆け出しの探索員- 1-2

 鉄の扉が開いく。


 鉄格子で遮られた道を進んで行ってバリケードの扉を開けたら外に出られる。大宮異界の出入り口はとても厳重なつくりとなっていて、異界から地上に魔物が出ないように作られている。


 そこから、大通りを渡り大宮異界から大宮駅方向へと歩く道中にFamiliar Marketファミリアマーケットと書かれた看板が見える場所へと着いた。


 某コンビニ店との差別化のためにつけられたファミリマという略称のあるお店は、魔物や異界の素材買取や異界探索員の武器防具、道具を売る専門店だ。


 ここファミリマ大宮店は、店主の趣味全開と言うような感じの内装で昔のギルドを模したようなとてもお洒落な造りになっているのが特徴だ。


 雰囲気は良く。古めかしい重たそうな木でできた両扉を開けてカランカラン! と鈴の音を響かせ入店した。店内は、探索帰りの異界探索員でそこそこ込み合っている。


「今日の得物は、上々でさ! 一日で20万円も儲けちまった」

「そう、そこで俺はあの化け物を一刀両断にしたってわけよ」

「疲れたぁ」


 そんな探索員達の一喜一憂とした騒がしい声を聴きながら素材買取コーナーへと歩いて行く。


 なぜにそんなにぎわっているのかと言うと、ここファミリマ大宮店では探索員の道具を売るコーナーと素材買取コーナーがあるのに加えて店主の趣味で始めたという酒場がにぎわっているのだ。そして、その奥では外部の仕事の受注も請け負っている。


 もうなんでもやるお店だ。


 買取コーナーへと行くと濁声が出迎えてくれた。


 「いらっしゃい! おお、刀のあんちゃんじゃないですかい。今日の得物はどうだったかい?」


 ノリノリで話しかけてくれた中年の男。背丈は俺よりやや高く。つるっつるの頭部が特徴でお店の照明に照らされた頭から反射する光が眩しい。


 とてもきれいにそられたスキンヘッドだ。


「得物は変わらずのアラネアですが、今日は3匹狩れました!」


 周りと比較されれば少ない数ではあるけれど────


 「おお! 3匹も狩れたのか。刀のあんちゃんは、徐々に進歩していってるねぇ。おじさんは成長がみれてうれしいや」と褒めてくれた。


 なんだか少し照れ臭い。たった3匹、他の異界探索員からしてみたら少なすぎて涙が出ると思う。


 だけど、一匹倒すのに苦労していた自分にとって、3匹倒せたのはとてもうれしいことなのだ。


「さてさて、今から査定するから番号札を持って待っててくれな!」


 8番の番号札を渡されて木でできた床をギシギシ言わせてお店の中を見て歩く。


 ナイフや剣、メイスに槍、盾や斧、杖まで取り揃えてある。ここにある武器は様々でショーケースに飾られた武器まであるときた。


 そこに並べられた武器はどれもとても煌びやかに光輝いており、いつかそんな武器を手に探索に出るのは一つの夢ではあった。


 しかし────


「このナイフ……1本20万かぁ」


 次元が違う。ナイフ1本が20万円って社会人として働いていたころの手取りより全然多い。


 そう、ここのショーケースに飾られている武器たちは次元が違うのだ。


 異界で採れた素材で武器を作る。より下層で手に入れたものほど強い力を発揮しより強力な魔物と対峙する。


 これが異界探索においての魔物との戦闘の基本だ。


 つまり、より下層で採れた素材を使うことによって武器の値段は、かなり跳ね上がるためナイフ一本をとっても20万円という金額は妥当なのだ。


 そして後ろの列に見えるのは防具の陳列棚だ。胸当て胴当て、脛当て手甲、探索員として命を守るのに絶対必要な防具。


 対して自分の着けている防具はというと……ユニークロールというアパレル店で買ったパーカーとボトム、冬なのでダウンを羽織っているし防具という防具なんてつけていないに等しい。


 おまけに靴はというと、Kusanoのランニングシューズだ。実に動きやすい。


 店主から「おいおい、そんな装備で大丈夫だったのか?」って笑われたのは懐かしい記憶だ。


 といってもこの大宮異界に来たのは4日くらい前なんだけどさ。


 いつか、異界の鉱石でできたきらっきらの防具を着て探索したい。仲間とかたくさんできちゃったりしてね。


 今は一人だけど、いつかは……


 異界は常に命をかけた危険な場所だ。一攫千金目的、夢を追いかける人々、仕事がなく渋々ついた人、趣味で始めた人。


 なにより異界探索員は国家資格だ。正式名称、対魔物討伐許可等異界探索員とちょっと長い。


 けれど、ちょっとお高めの受験料で筆記試験、能力試験を受けてパスさえすればなれるから案外簡単だ。


 国が定めた国家資格。


 特別な許可をもらう人以外に異界探索員のみが異界へと入ることを許可された職業。


 大多数の魔物は、異物を排除するかのように人を襲って喰らうそんな命の危険が常に付きまとう過酷な世界。


 だから、異界へと入るときは、チームを組むのがセオリーなのだ。お互いが、お互いの足りないところを補いながら進んで行く。


 とてもいいものなんだろうな。


 周りを見ると酒を囲んでいる男女の大半は、きっとチームを組んでいる人達だ。


 チームを組むのは、異界探索員になった時に公式ホームページとiFunのアプリで異界探索員IDとパスワードでログインできる専用のサイトがある。


 探索員どうしの連絡版や魔物図鑑、異界図鑑等々、異界探索員にとって重要な情報と事前情報を掴むことができる必需品だ。


 その中にチームメンバーを募集するという項目があるのだが。


 地域と探索したい異界、報酬条件でマッチできるサービスなのでやり方は簡単だ。


 それに国が運営しているからなのか、どれも探索員であれば無料でサービスを受けられる。


 のだが……俺はチームメンバーとして他のところに加わることはできなかった。


「刀かぁ……駆け出しが近接戦闘でしっかり戦える?」


「うちは、前衛が揃ってるし遊撃手は取らないでいるんだ。刀を使う人見ないけどどういうポジ?」


「防具を御装備されていない?! アイテムは持ってるだけじゃ意味がないんだぜ?」


「うち週7で潜れるひとじゃないとだめだから」


「男はいらん女だ!」


「魔物相手に刀って初心者には扱いが難しいけど大丈夫? やっぱり大剣とかもってる人のがいいねぇ」


「あ、ちょっと用事思い出しちゃった。また今度!」


 等々……防具無いのはお金のない自分のせいだからしょうがない。


 しかし、募集しているところに入れないのならば、逆にチームを作ってしまえばいいじゃない?って思ったのだ。


 我ながら悪魔的ひらめきでありいつになくボッチとして生きてきたボッチ根性が花を開く瞬間を作れたと思う。


 そう思っていたんだ。

 

 それからあれこれと考えてチームを作った。

 募集をかけてずっと待ってみた。


 異界探索員、報酬は等分、大宮異界1~5階層を探索。駆け出し大歓迎、私も駆け出しだから! なんて内容で条件も悪くないと思う。多分────


 結果……


 来なかった。


 うん、一人も来なかった。


 相談もなかった。通知があったといえば、掲載日数が終了したため募集を取り下げます。というシステム通知だけだったのだ。


 心の中で呟きました。


「なんでだあああああ!」と。


 ああ、昔からそうだ。昔からそうだったんだ。


 思い返せば小学校低学年時代。


 「お友達とペアを作ってね」という先生の言葉から始まるバトルロイヤル。


 ここで残ると確実に自分は取り残されるのを本能的にいち早く行動したにもかかわらず当時比較的仲の良かった友達はすでに完売。


 刻々と迫るタイムリミット。

 そして運命の時が来た。


 さあ、一人だ。


 どうする? と考えている幼い自分を前に先生からタイムアップであると皆に告げられた無慈悲な台詞。


「そろそろペアできたかなぁ?」


 できなかったと一人机に着いた。それに気が付いた先生がこちらへとやってくる。


 わかっている。きっと先生はこう言うだろう。『先生と一緒になってやろうねぇ』と! ボッチを作り出さないための救済手段を取ってくれるに違いないと考えていたその時だった。


「ああ……ごめんね。シラヌイ君、もう一人お友達がいると思ってレッスンしてね!」


 さあ、予想を超えた。


 子供の想像力をはるかに超える出来事に直面した自分は固まった。架空の人物を作り出すことによりボッチを回避できるということにだ。


 それが今でも忘れない当時の出来事として今なお記憶に残り続けている。そんな昔ばなしだ。


 友達は少なかった。というよりいなかった……


 それからも一人で遊ぶことに慣れてしまい一緒に遊んだことのある友達といえば弟を数えれば5本の指に収まってしまうんじゃないだろうか。


 数えるのが怖い。


 大学時代もとくに遊んだ経験はない。ましてや彼女とかいう究極不完全幻想生命体にうつつを抜かすのは、武士として名が廃る。


 武士じゃないけどさ。


 てか俺の武士のイメージって一体何なんなんだろう。心に一本の刀を持ってたみんな武士だろうな。


 我一人、故に我有りと思ふ。真なる強さは己が心の中にある一本の刀にあり。さすればボッチもまたタノシ。


 とかなんとか意味の分からない台詞が脳裏を駆け巡る。


 乾いた笑いが出た────気がした。


 あれやこれやと今後の展望について装備を見ながら考えをめぐらしていると8番査定終了という文字が壁掛けの電光掲示板に映し出されていたのでカウンターへと向かう。


 今日の探索の報酬を受け取るために、向かう。「よぉ、またせたな!」濁声の店主が迎えてくれた。


店員は他にもいるけど査定は店主がやっているため、よく店主と話す機会が多い。


 チェーン店であるファミリアマーケット社の規約に反した店だから毎回叱られてるって嘆いていたけど売り上げが他の店よりも出てるから強くは叱られてないみたい。


 逆に一部からはもっとやってみろというお達しが出たくらいのようだ。


「今日は速かったですね」


 鼻を鳴らす店主はなんだか得意げに言う。


「いやなに今日は待ち客も少なかったし何より刀のあんちゃんの持ってくるものは、いつも数が少な────いやいや、状態の良いものが多いからな! 早く終わるのさ」


 今、ぽろっと本音みたいなの言ったぞ。この店主。


「そ、そうなんですね」


 ここでさらっと受け流すつもりが受け流しきれていなかったのは触れられたくない出来事だ。


 そして、気になる査定額は、1540円だった。最低額よりちょっと高めで良い日だ。


 異界探索員になった時に契約した電子マネーカードに報酬を電子マネー化してカードにチャージする。


 するとポイントが1000円ごとに5ポイント付くのでちょっとお得だ。お得なんだと思う。


 換金したら明細を受け取っていつもの「毎度あり!」と店主に見送られて店を出る。これがいつもの素材買取の流れだ。


 この後は、いつも通りの換金が終わったのでそっと周りが楽しそうな中。外へと出るのだった。

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