第8話 遂に白い粉に手を出してしまう忍者!!!
(クックック……まさかこの俺の奇襲をかわすとは驚いた。だがしかし所詮はマグレ避け。次はこうは行かないぞ。確実にその頭をカチ割ってくれる!)
カメレオン・シャークは余裕の笑み。その胸中ではほぼ勝ちを確信し、ほんの数秒後には脳漿を撒き散らして倒れ伏す忍者の姿を思い浮かべ悦に入っていた。
相手の頭上を取った上で、気配も完全に殺し、後は攻撃するタイミングを計るのみ。完璧な作戦だった。
忍者が教室へ飛び込んだ直後、カメレオン・シャークもまた割れた窓から教室内へ侵入を果たしていたのだ。そして素早く壁を這って天井へのぼり、そこで息を潜めていた。
壁に張り付きながら移動していた為に、足元のガラス片を踏むことも無ければ障害物に邪魔されることも無かったのである。
「……って、やっぱり相打ち上等のやり方は性に合わないな」
と、突然、忍者は構えを解いた!
忍之介は脱力して、ポケットから何かを取り出す!
「ッ!」
カメレオン・シャークは攻めかかろうとしたが、気勢を削がれタイミングを逸する!
「やっぱり姿が見えないんじゃあ、めんどくさいよなぁ。僕はじいちゃんほど達人でもないし」
ブツブツと呟く忍之介の右手にはなんと! 女子トイレで偶然拾った白い粉!!!
待て! 待つんだ! 忍之介!!! 早まってはいけない! 小さな子供たちもこの小説を読んでいるんだぞ!!!!?
「やってみるか」
そう言って忍之介は右手に持った小袋をおもむろに、空中へと、放り投げた!
と同時に一気に飛び退って手裏剣を投擲!
な、何をするつもりなのか!?
パァーン!
手裏剣は小袋に見事に命中して袋の中身を大気中にばら撒いた!
きめの細かい白い粉末が教室中に舞う!
そ、そうか! そういうことだったのか!!!
自暴自棄になって白い粉に手を出すつもりなのかと全読者が誤解したであろうこの場面、実は忍者は極めてクレバーな方法でステルス迷彩を操る敵に対する効果的な一手を繰り出していたのである!
「ぬうっ!?」
思わず、カメレオン・シャークは驚嘆の声を漏らしてしまう!
もわもわと舞う白い粉は、爬虫類と魚類のハイブリッドであり濡れた表皮を持つカメレオン・シャークの体に張り付いて、うっすらとその輪郭を浮かび上がらせていたのだった!
「やっぱりね、カメレオンか」
忍者がカメレオン・シャークを指差し、ニヤリとした。
「チ、チクショウォ!!!」
天井を蹴りカメレオン・シャークが忍之介へ飛び掛かる!
だがその行動はあまりにも短絡的! 真っすぐ過ぎた!
「じいちゃんが言ってたよ。忍者たるもの、頭を使えってね!」
忍者の両手が瞬く!
空間を裂いて飛ぶ無数の手裏剣がカメレオン・シャークの全身に次々と突き刺さってゆく!
ズブズブズブズブズブッッ!!!
「がああぁーーー!!!」
痛みに悶え着地に失敗し、カメレオン・シャークは地面に激突してのたうつ!
「こ、このカメレオン・シャーク様がこんなガキにっ!!!」
血まみれになりながら飛び起き、その両手を伸ばすカメレオン・シャーク!
しかし空を切る!
忍者は既に、彼の背後に!
「なかなか見事な隠密行動だったよ。参考にさせてもらうね。あ、それと……」
振り向き様、カメレオン・シャークが見たものは、忍之介の背中!
ベッギョオオオオォン!!!
次に襲ったのは衝撃! 後ろ回し蹴り! バックスピンキック!!!
サメの首が480度回転した!!!
「においまで完全に絶つとは驚いたよ。デオドラント・スプレー?」
「む……こう……りょう……ゴフッ!」
ドサッ!
カメレオン・シャークは、糸が切れた人形めいてその場に倒れ、二度と起き上がることは無かった。
シャーク・テロリスト四天王第二の刺客は、忍者の策によってステルス行動を阻止され、成す術もなく倒されたのであった!
「とは言え、薄氷を踏むような勝利だったな。この白い粉を事前に入手しておかなかったら、打つ手無しで負けていた可能性もあるなぁ。やっぱり落ちてたものはとりあえず拾っとくべきだね」
忍之介は自戒を込めてそう言った。そんな彼の視界の端、折り重なる死体の下のほうから声が聞こえてくる。
「甲賀くん、たすけて……」
「君は……生きていたのか!? バレリーナ!」
「ちゃんと名前で呼んで……私は明日葉さゆりよ……」
「ごめんよ! いつまで経っても人の仲間を覚えられない病なんだ! そんなところでどうしたんだい? 芥場さん」
「芥場じゃないわ……明日葉よ……二度と間違えないで……そんな事よりここから出して」
「ごめんよ、すぐに助けてあげるね」
ビックリするくらい代官山か青山か巣鴨あたりにいそうなシュッとした美貌とスラッとしたモデル顔負け17頭身の明日葉さゆりを助けた忍之介。
「ありがとう。あなたって意外と強いんだね。その忍者のコスプレ、単なるイタい奴だと思ってたわ。ごめんなさい」
モジモジしながらさゆりが言う。上目使いに忍之介を媚びた瞳で見詰めている。これは! 吊り橋効果!? ドキドキを共有すると、それがたとえ恐怖から来る情動であったとしても認知処理のミスにより恋愛によるドキドキだと脳が錯覚しちゃうラッキーな効果!!
「ねぇ、私こんなところで死にたくないの……守ってくれるよね?」
ハキハキとした口調で言いながらさゆりが忍之介に体を預けてきた。
「ねぇ、誰も見てないし……この私を、忍之介くんの好きにしていいよ?」
「なるほど」
「私の事、さゆりって呼んで?」
「うん、さおり」
「惜しいわね……さゆり、よ。さ、ゆ、り!」
セクシーなウィスパーヴォイスで18頭身のスーパーモデル顔負け美少女が忍之介を誘惑!
「ねぇ、この私をどうしたいの?」
「うーん、じゃあ、セックス!」
「もう! はっきり言う人ね! 逆に好きよ、そういう男! さゆりって呼んでね」
「分かったよ、よしこ!」
パンパンパーン!
その場の勢いで一発ヤラせてもらい、忍之介はシャーク・テロリストの野望を打ち砕く為、次なる戦場へと向かうのであった! そろそろ人の名前くらいちゃんと覚えよう!
次回へ続く!