第6話 危険な白い粉を摂取しよう!!!
恐ろしいシャーク・テロリスト達が聖・権多呉学院を襲撃してから既に2時間が経過していた。最初の突撃の際に全校生徒の内90%くらいが死亡。また職員達もそのほとんどが殺されていた。これほどの凶悪犯罪は我が国の犯罪史を見渡してみても比肩するもの無く、間違いなく史上最大の殺戮劇、悪夢のごとし出来事であった。
しかし不謹慎な言い方ではあるが見方を変えれば、テロリスト達の無慈悲な銃弾を受けて即座に絶命した者達は人間の尊厳という観点からすれば、まだマシだったかもしれない。一部の、人質に取られた者達にはもっと悲惨な末路が待ち構えていたのである。が、詳細を書けば読者が前屈みになってしまうことは必定! よって詳細は伏す!
未知の宇宙線により遺伝子に変容をきたし急速進化したサメ達には、人間の倫理観は通用しない。彼らは目的の為ならばどのような残酷な事でも良心の呵責なしに遂行可能。今回、彼らがこのテロによって成し遂げようとしている目的とは一体何か……。
現時点では読者諸氏にまだお教えすることは出来ない!
忌まわしきジェノサイダー達の魔の手から辛くも逃れた生徒達は、広い校舎のどこかに身を潜め、恐怖と絶望に身を震わせていた。助けがいつ来るのか、あるいは永遠に来ないのか。それさえ分からない。
今回は忍者とシャーク・テロリストの死闘から一旦カメラを移し、苛酷な運命に怯えながらも勇敢に立ち向かう一般学生にスポットを当ててみたいと思う!
ここは女子トイレの個室!
「ケッ、やっぱりスマホが繋がらないよ、アンチクショウ!」
悪態をついてツバを吐く、脱色し過ぎてパサパサのセミロングヘアの女子学生。その名は漆原まどか! 先ほどから外部と連絡を取ろうとしているものの、何故か電波が繋がらない。
これはもちろん、シャーク・テロリスト達の電波妨害装置によるものである。なおテロリスト達はサメ特有の感覚器官、ロレンチーニ器官によって自分達の位置を確認し合っている為にこういう電波障害の起きている地域であっても問題なく相互の連携が取れるのである! 設定に隙が無い!
「んだよ、それじゃあこの学院は完全に陸の孤島じゃねぇかよ」
壁際にヤンキー座りをして舌打ちする男子はまどかのツレ! その名を宝蔵院胤乱という! ヤンキーというよりただの“ヤリチン”である! 下半身の槍捌きがうまい!
「もう、アタシこんな狭い場所にずっといたらBPM上がっちゃう!」
イライラしてまどかが貧乏ゆすり! ヤンキー座りからの貧乏ゆすりは意外と下半身が強い!
「まぁまぁ落ち着けや、いいもんやるからよ」
「ア? なんか持ってんの?」
片眉を上げて興味を示したまどかに対し、胤乱はポケットから透明なポリエチレン製の小袋を取り出した。中には白い粉末。まさか! そんな!? ここは学校だぞっ!!? 何という不道徳! 先生に没収されるリスクが高い!
「二つ、あんだよ。ヤるか?」
そう言ってポリ袋をまどかに渡す胤乱! まどかは目の高さまで小袋を持ちあげ、しげしげと眺めている!
「へー、これ、アレっしょ? ヤバいクスリ。あー興奮してきたし。BPM上がりそう!」
「直飲みが一番効くからよ。純度の高いやつは末端価格が結構するのよ。俺ぁセンパイのツテあるからよ、いいもんが割安で手に入るのよ」
袋を縛っていた輪ゴムを解き、そっと鼻を近づける胤乱!
「んんー、いい匂いだぜ。これ飛ぶぜ?」
「マジ? アタシ、ヤッたことないんだけど」
「こういう時は一発キメて頭と体をシャキッとさせてから行動するもんよ。飛ばそうぜ?」
胤乱は顔を上に向け、口を開く。そして小袋から白い粉を舌の上に落そうと……
その時!
「ぁん?」
チラリと見た天井。何か、何か動いた気がした。
「あぁ……何だよ、見間違いか?」
だが、何もない。目を凝らしてみても天井はただのクリーム色の天井でしかない。
「どうしたんだよ?」
まどかが怪訝そうな表情。
「いや、何でも。へへっ……飛ぶぜ?」
胤乱は顔を上に向け、口を開く。そして小袋から白い粉を舌の上に落そうと……
「っ!」
まどかが急に頭を振った。
「ぁん?」
そして不快そうな顔で己の頬を指でなぞる。
「んだよ、冷てぇなぁ。雨漏りかぁ~?」
指先を摺合せ、眉根を寄せるまどか。妙に、ヌメヌメとした感触。
「何だよ……水、じゃねぇよな」
「ア? 何だよまどか」
「何かネチャネチャしたんが顔にかかったんだよ」
「ネチャネチャ?」
胤乱はクスリをキメるのを中断し、まどかの方へ顔を寄せて確認しようとした。その彼のすぐ近くで、
「ヒヒッ」
押し殺したような笑い声が、聞こえた。
「ア?」
と同時にまどかが突然、凍りついたような表情!
そして!
「キャアアァーーーーーーー!!!!」
絹を裂くような悲鳴!
わけがわからないままぎょっとして横を向いた胤乱が見たものとは!
「俺とも遊んでくれやぁ」
ニタリと笑う、サメ人間の顔! だがいつの間に! 今までこの場には二人しか、二人しかいなかったはずなのにっ!!!
ぐにゃりと、サメ人間の像が歪む。まるで保護色を扱う動物のようにその姿が風景に溶け込んでゆく。これはまさかっ!?
ガバッ!
サメ人間の手が伸び、胤乱の顔面を鷲掴みにした!
爬虫類、とりわけヤモリに代表される“掌で壁に張り付く力”、分子間引力の圧倒的ナノメートルサイズ凸凹吸着力が胤乱の顔面を強烈に引き寄せその生皮を、
ベリベリベリッ!
引き剥がした!
「ギャー!ゴボゴボゴボゴボゴボゴボッ!ブバッブバッ!ブビュルルルルルルルッ!!!ビュッパアアアアアアアアアッッッーーーーーッ!ビュルルルルルルルウウウウウウゥゥゥーーーーーーッ!!!」
悲鳴に続いて鮮血が肉片と共に弾け飛んで胤乱は全身を痙攣させて奇妙なタップダンスを踊る!!!
「イヤアァァーーーーー!!!!ゴボゴボゴボゴボッッ!!!オゴゴオオオオオォォーーーーッッ!!!」
あまりの惨劇にまどかは泡を吹いて吐瀉物を撒き散らしおしっこを漏らした!!!
ダァン!
無造作に胤乱の頭部を便器に叩きつけ、その後頭部に強烈なストンピングを見舞うシャーク・テロリスト!
グッシャアッ!
簡単に首がへし曲り、力の抜けた胤乱の体が崩れ落ちた!
全身を奇妙に体色変化させながら、それぞれが別個に動く両の瞳の焦点をまどかへと合わせるサメ人間!
そう、もはや説明するまでもないだろう! これはカメレオン!
恐るべきシャーク・テロリスト四天王第二の刺客! 擬態の達人にして掴んだものを絶対に離さぬ生物界最強クラスの“握力”を持つ強敵!
その名は、カメレオン・シャーク!!!
「女、旨そうだな。この俺の相手をしてもらおうか」
おもむろにまどかの胸に手を置くカメレオン! セクハラ!
「胸、揉むぜ」
ギチュウウウウウゥゥ!!!!
強烈なナノメートルサイズ凸凹吸着力がまどかの服を……否! 服のみに非ず! その下の表皮を……否! 表皮のみに非ず! その下の筋肉を、肋骨を……否否ッ!
ボッゴォン!
心の臓を引っこ抜き!
ドクンドクンと未だに動き続けるそれを掴みとりながら、カメレオンは高らかと笑う!!!
「ギャハハーッ! ほんの少し“おさわり”が激しすぎたかなァー!!!?」
無残!
胸に大穴が空いたまどかは絶望の表情のまま死亡!
こんなの……酷過ぎる!!!!!!!
「クックックッ! 人間なぞ脆い! あまりにも! 我が地上最強の隠密術とこの両手の破壊力をもってすれば、いかなる相手とてゴミクズ同然よ!!!」
トイレのドアを蹴りで破壊し、舌なめずりをしながらカメレオン・シャークは動き出した。次なる標的はもちろん、同胞達を破竹の勢いで撃破し続けている忍者……甲賀忍之介である!
「楽しみにしていろ、忍者のガキ! この俺とお前、どちらがより優れた“忍”か、すぐにはっきりとさせてやる!」
カメレオン・シャークの姿が陽炎のようにゆらめく。その一秒後には、彼の全身は風景へと紛れて全く見えなくなっていた!
息つく暇もない激闘の予感!
忍之介よ、気を引き締めろ!
次回へ続く!
【補足】
ちなみに実際はヤモリとカメレオンの手の形状は全く別物で、カメレオンは普通に指で枝を掴みます。壁にも張り付けません。
ですので、カメレオン・シャークはカメレオンとヤモリの遺伝子を両方組み込んだサメだと思ってください。思わなくてもいいです。
あと、作中に登場する白い粉はクエン酸粉末です。
(疲労感が)飛ぶぜ?
スペシャルサンクス:馬路まんじ先生