第5話 テンカオ!ライノ・シャーク最後の時!!!
ここでおさらいである。
サメは軟骨魚類。文字通り全身の骨格が軟骨で構成されている。しかし顎のみ、硬骨魚類のそれ以上に固い。よって噛みつき攻撃はシャーク・テロリストに共通する強力な攻撃手段といえるだろう。
忍之介は忍者の冷静な観察眼で敵の動きを確認するのみならず、その身体の構造をも推定していた。
サメとサイのハイブリッド。その骨格は一体どうなっているのか。二足歩行に進化した軟骨魚類が四足歩行の哺乳類の特徴を後天的に移植されたのなら、どのような体のつくりになるのであろうか。
未知の宇宙線によって二足歩行へ急速進化したシャーク・テロリスト達は、陸上で活動するためにまず軟骨の骨格を変異させたことだろう。恐らくは人間と同じ程度の密度・強度の骨格を得ているはずだ。それは戦いながら既に確認済み。
次に気にすべきは、後天的に獲得したサイの能力についてだ。
ライノ・シャークの突進は確かに脅威。まともに喰らえば忍之介とて生還は不可能だろう。サメ特有の噛みつきを行わず、銃器類も扱わず、あくまで突進に拘るということはそれがライノ・シャークにとって最大の威力を持つ攻撃手段であるということ。
一瞬。
死の暴風にも似たタックルが眼前に迫る!
忍之介の思考回路がフル回転する!
忍之介の! 忍者の! 右足が空間を駆けた!
“よいか、忍之介”
脳裏にじいちゃんの声が響く!
厳しかった修行の日々が鮮やかに蘇る!
ここで本来であれば熱い回想シーンを二万字ほど挟みたいところであるが読者のブラバを恐れてカット!
“安易なタックルには……”
そう!
見え透いたタックルを咎めるもの……わからせるものとは!!!
ライノ・シャークの突進及びツノによる刺突、その先端が忍之介の体に触れる直前!
忍者の右膝が跳ね上がった!
ドゴオッ!!!!
その技の名は──テンカオ!
ムエタイ必殺の膝蹴り!
「ギャッ!」
短い悲鳴! ライノ・シャークの顎が衝撃に上を向く!
カウンターで入った膝の威力に頸椎がありえない方向へ曲げられる!
ベギベギィ!!!
不気味な音が鳴る!
「ア、ガッ……」
焦点の定まらない目で宙を仰ぎ、ライノ・シャークはたたらを踏んだ!
「俺様が……地上……さい」
「タックルには膝。忍者の基本だな」
忍之介が言った。
「おぶっ!」
ぐちゃぐちゃに砕かれた顎から大量の鮮血を滴らせ、ライノ・シャークが倒れ伏す!
彼の敗因、それは骨格!
とりわけ頸椎ッ!
四足歩行の大型の哺乳類、特に日常的に同種との頭突き合戦を演じているサイの頸椎をもし、ライノ・シャークが搭載していたなら! 今のような膝の一撃で倒されることは無かったであろう!
惜しむらくは、人間と同程度の強度でしか無かった彼の頸椎の脆弱さ!
サイの突進力はカウンターとしてそのまま彼の首に全て返ってきたのだ!
あくまで自身の攻撃能力を過信し守りを怠ったが故に、地上最強を吹聴した四天王は今!
冷静沈着にベストなカードを切った忍者の前に敗北することと相成ったのであった!!!
格闘技とはマジックではない! そしてありとあらゆる格闘技の良いところを吸収して進化し続けてきた忍術もまた! マジックではなく徹底的にロジック!
決着は一秒にも満たない刹那。
しかしそこに至るまでには先人たちが悠久の時を経て培ってきた無数の技術が大河のように流れ、たゆたい、連綿と折り重なってミルフィーユ模様を描いていたのである!
「恐ろしい敵だったな……シャーク・テロリスト四天王、か。一体あと何人いるんだ?」
結局そこはわからないままの忍之介!
気を付けて先を進め!
次回へ続く!