第1話 壮絶なるイジメ!ストレスフルな展開は酸鼻を極めた!!!
キーンコーンカーンコーン!
「え~皆さん、おはようございます。今日も爽やかな朝から一日が始まりましたね。張り切っていきましょう。朝食はちゃんと摂りましたか? ドアのところに黒板消しトラップを仕掛けたのは誰ですか? 教壇に先生の不倫現場のスクープ写真を置いたのは? 先生怒らないので後で名乗り出なさい。放課後、殺します」
ここは聖・権多呉学院。全校生徒300名。都心部のベッドタウンとして開発された快適市の真ん中くらいに建っている、ごく普通の偏差値の私立校だ。
「じゃあ早速授業を始めるぞー。廊下でサッカーしている君達、教室に戻りなさい。あーそこそこ、教室でろくろを回すのは止めなさい。そこの君も、BL本を仕舞いなさい」
本日もごく普通に授業が始まりそうだ。
教室の一番後ろ、窓側。地味な色合いの忍者装束を身に纏い、いじめっ子達によって七色に輝く派手派手なゲーミング仕様に魔改造された机に座り、いじめっ子達によってドゥンドゥンと重低音が心地良いウーハーを背中に張り付けられたド陰キャ生徒が、数学の教科書を開いている。
彼の名は甲賀忍之介。この物語の主人公である。
一見何の変哲もないただのいじめられっ子だが、彼にはとんでもない秘密が隠されているのだ。
「おい甲賀、普通に登校してきただろ、お前、今朝?」
ドン!
隣の席からメリケンサックを装備して肩パンしてくるいじめっ子、剛力腕太郎。甲賀の肩が危ない!?
「う、うん。そうだけど……」
「校門から教室までバク転で入ってこいて言っただろうがよ、昨日、教室で、俺は!」
理不尽! なんたる理不尽! 学生の基礎体力の低下が嘆かれる昨今、そんな事は常人にはまず不可能! 悪魔のいじめっ子と言っても差し支えないだろう!
「う、うん。そうだけど……バク転したい気分じゃ無かったんだ」
気分の問題なのか!? 返事の仕方が下手!
「して欲しい気分だったんだよ、今日、お前に、俺は!」
肩! 肩! 肩! 追加の肩パン、3発!
「ごめんね。いじめないで欲しいんだ」
「愛情、これは。わかる?」
何という凄惨な日々なのであろうか。読者諸君、想像して頂きたい。普通に登校してきただけで罵倒され、肩パンされ、嘲り笑われる日常を。おお、彼に救いは無いのだろうか!?
少しストレスフルな解説になってしまうがご容赦頂きたい。
見るからに陰キャ街道まっしぐらなルックスをしている忍之介は、その引っ込み思案っぽい性格も相まって日常的にこうした過酷なイジメを受け続けていたのである。
ある時は! 遊び半分で校舎の屋上から突き落とされ五転接地着地で辛うじて無傷で生還! あわや大惨事! いじめの主犯格の生徒は謎の力によってベーリング海沖のカニ漁船に送られた! 冬の海は冷たい!
またある時は! 違法改造したモデルガンで遊び半分に撃たれギリギリのところで弾丸を掴み取って生還! あわや大惨事! いじめの主犯格の生徒は忍之介が指先で弾き返した弾丸が股間に命中して女になった!
更にこんな事も! 忍之介のお弁当がいじめっ子によって故意に奪われ食べられてしまった! あわや昼飯抜き! 忍之介のお弁当を食べたいじめの主犯格の生徒は加熱が足りなかった豚肉を食べて食中毒を起こしお腹が下痢下痢になってお漏らし! 逆にみんなからいじめられる立場となった!
かように忍之介は常にいじめっ子のターゲットとされ、たいへんに不本意ながら苦しい学生生活を送ることを余儀なくされてきたのである。その辛さ、苦しさたるや……。
そして今もなお! 愛情と称した肩パン連打を受けて忍之介は「いじめないでくれ」と心の底から嘆願しているのだ。
普段通りであればこのまま、忍之介はいじめっ子のオモチャとして扱われ艱難辛苦なるところであった。しかし、この日、彼を待ち受けていた運命はいじめなんぞよりも遥かに絶望的で困難に満ちたものであったのである。
典型的なパワー系いじめっ子、剛力腕太郎が“かわいがり”を継続しようとした矢先の事であった。
突然、教室の窓ガラスが同時多発的に砕け散った!
GASYAAAAAAAANNNN!!!
それこそが終わりなき悪夢の始まりを告げる音であった!!!!!!!!