七話 アルファン山の麓
王都から徒歩で4時間程歩くと目的のアルファン山…の麓の小さな街にやってきた。小さなと言っても王都に比べればという話でアルファンという街はそれなりに栄えていた。
「ふぅ。流石に日も落ちて賑わってますね…とりあえずギルド…アルファン支部に行きますか」
ギルドはどの街にもあるあるらしく呼び方としては王都はそのままギルド本部、支部が街の名前を付け足して〜〜支部と呼ぶとアラナさんが言っていた。
「すみません。こちらのギルドマスターはいらっしゃいますか?」
なるべく悪い印象を与えないように自分の容姿を最大限発揮して話す
「は、はい。ギルドマスターですね。連絡は入れてますでしょうか」
やっぱり簡単には合わせてくれないよね…
「王都からの使いです」
そう言いながら虹色のカードとそれと同じ素材で作られたであろう。1つで2つのギルド所属を証明するギルドカードを見せる
「そ、そのカードは…付いてきてください」
王都という言葉とそのカードを見せられて慌てて彼女はギルドマスターのいる二階の応接室に彼を通す
「よぉ、ワシはドランと言う。して、お主がワシらギルドマスターと同じ権限を持つ小僧か」
「いえ、同じ権限なんて…恐れ多いですよ。」
割と本気で権限があるだけで別に強い訳じゃないし。
「フンっまぁいい。要件は…ここの山のドラゴンのことか」
「ええ、念の為貴方にも討伐の許可を貰おうかと」
「なんでだ。何を企んでやがる」
何も企んでないんだけど
「企むなんて…ただ、貴方達の冒険者が討伐に行きたいというのなら先にお譲りしようかと思いまして」
「ほう?それで、ワシらが倒したらどうするんじゃ」
「どうもこうも僕は本部に古龍に進化しそうだから念の為って事で派遣されただけですし…例え進化して倒したとしてもどうもしません。僕は経験が積めそうだから受けたまでです。」
嘘は言ってない。ドラゴンを討伐する気になったのは経験値の為だ。それと、ドラゴンを目の前で見たかったからと言う子供の好奇心も少なからずあるだろう。
「成程な。倒せるなら倒しても構わんが倒せんならアンタがやるってわけかい」
と少しキツめに言葉を発するドランに負けじと強めに出る。
「ええ。ですが、チャンスは一度。死者を出してはなりませんので1人でも死にかけるものがいた場合は即横槍を入れますが宜しいでしょうか?」
流石に死んでは困る。別にどうということはないのだが日本人だからかそういう良心が抜けきれない。この世界は命など金より軽いと言うのにだ。殺しも正当な理由があれば殺しても誰も文句を言わない。街中でなければ尚更だ。命を狙えば自ずと自らの命を危うくする。そんな世界なのだと改めて理解する。
「…分かった。ワシとしてもここの仲間を失うわけには行かんからのぉ」
「では、至急ここに討伐参加者を呼び討伐隊を編成してください」
条件をドランに呑ませると、ハクトは焦りながらそう言う
「ぬ、どうした。そんなに焦って」
「ドラゴンの進化速度が本部の予想より早くなりました。多分最終段階に移行したのでしょう。それに、他人の力で強制進化させられている痕跡があるので古龍の様な知性は望まれないのでお気を付けて下さい。」
「何!?お主何故そんな事が分かる!」
「魔力の変動と異常な魔力の痕跡が街の外にありました。まさかとは思いましたが山頂付近にいるドラゴンの魔力も急激に増えています」
麓に近づくと明らかに歪な魔力の流れを感じた。それは明らかな悪意が混ざっており、殺意や怨みなど様々だがそれが無理やり魔力に混ぜられ、それを進化するために竜が吸収しているのだ。
「分かった。進化はいつ終わる」
ハクトの真剣な面持ちで冗談ではないと通じたのかドランも真面目にハクトに伺う
「進化自体はあと数時間。進化したら一目散にこの街を狙うでしょうから…リミットは今日の夜までですかね」
「なっ!?では、どうすれば」
「この街に障壁魔法や結界魔法を扱えるものは?」
「いる訳ないだろう!?そんな超高等魔法を覚えた魔導師なんぞ…数百名いるぐらいじゃい!」
「じゃあ、僕が張るしかないか…なら街の外で迎え撃つしかないですね」
「お主使えるのか!?」
「ええ、多分力を見せるコチラとしてはこれで驚かれると逆に困るんですど…」
「他にも使えるのか!?」
「まぁ。それより早く冒険者を集めてください。数時間しか時間はありませんよ」
「わ、分かっておる!」
*****
なんて事があって、絶賛知性のない古龍と戦っています。…この街にいた冒険者達がだが。ま、思ったよりも古龍が早く来たおかげでまだ明るく攻撃を案外よけれているのが唯一の救いだろう
「グルルルルルル…」
ガキンッ
「く、クソっ!なんつー硬さだ。鉄の剣でもビクともしねーぜ」
「流石古龍と呼ばれるだけありますわね。私の竜殺し付与の魔法も聞きませんわ」
古龍と言っても進化したばかりのそれこそ他の古龍種からすれば少しヤンチャな赤子なのだが…
「あまり無理しないでよね…私が回復してるからっていつまでも持たないよー?」
と、ピンチな状況である。しかも古龍種はどこぞの滅龍魔導師でなくては無理なのでは?と言うか古龍相手に竜殺しのエンチャントっておかしいだろう。せめて滅龍の付与をしなくては話にならない。あ、なり損ないが翼を大きく羽ばたかせる。これは逃げる為ではなく攻撃するためだろう…俗に言うウィンドなんたらという奴だ
「キャッ!」
「グオォォォ!!!」
「カリンっ!うわっ!?」
「ガリュー私は大丈夫だから…少し吹っ飛ばされたくらいで…くっ…」
「ちょっとまってて今回復を…」
「ミナ!カリン!危ない!」
パーティの1人が回復魔法を使おうとするとそれを邪魔するかのようにドラゴンが口を開けブレスを繰り出そうとする。それに気づいたガリューという青年が彼女達の前に立つ
「ちょ!?ガリュー危ないわよ!」
「私はいいから二人とも逃げて!」
など、歯痒いセリフを吐きまくる討伐隊の最後の冒険者パーティ。他の奴らはそこら辺でくたばっている。死んではないが
「はぁ…全く。なってないな」
見かねてハクトはガリューの前に行く
「ちょ、君!危ないよ…早く逃げなさい」
急に子供が前に現れたのだ。驚くのも無理はない
「そう思うならオニーサンこそ逃げないの?ほら、ドラゴンは本気で放つ為に空で魔力を溜めてるよ?」
ドラゴンは自然にハクトの力の差を感じ、このままでは負けると感じたのか自分の持ちうる全てをブレスに変えて放つために地から離れ空中で留まりブレスに集中する。
「くっ…流石に…無理か」
ガリューも本気を出していない竜の息吹なら耐えれたかもしれないが今ドラゴンが放とうとしているのは人殺しの付与が付いた対人特攻の攻撃なのだ
「せめてこの子だけでもどうにか…」
ガリューはそう口にするが何も思いつかない。子供より年上の自分たちがタダじゃ済まないのだ。どうしようがどうにもならないだろう
「なんで?」
だが、目の前の少年は不思議そうに聞き返す。
「私達は冒険者なんだから一般人…ましてや子供を巻き込むなんて嫌なのよ!」
本音と嘘を交えながら彼女は言った。これで傷ついて逃げてくれればいいそして少しでも遠くへそんな淡い気持ちを抱いて…しかし彼は違った。笑っていたのだ、笑ってこう言い放った。
「それなら、安心していいよ。僕だって冒険者だから」
冒険者だから…それで彼らの少し気が晴れる。冒険者とは死と隣合わせの職業だ、もちろんこの子もその覚悟があるのだろうと思いながら諦めの言葉を零す
「だからってもう…」
何を安心するのと愚痴をこぼそうとしたとき
「本当は誰にも見られたくないんだけどオニーサン達には特別に見せてあげる」
そう、自慢げに何処か自分なら勝てると言わんばかりの自信満々の声で言い放ったのだ
「「「何を?」」」
3人はもうどうにでもなれと思いながら聞く
「まぁ、見ててよ。オニーサン達の命は保証するよ…スキル発動【文字魔法】…【結界魔法】…【完璧な立方体】」
3人は信じられないものを見ただろう。まだ12歳になったであろう小さな体からは想像出来ないほどの魔法が繰り出されたからである。完璧な立方体とは防御系スキルでも上位の魔法だ。これは名の通り立方体の結界を作るもので基本的には自分を守るために使う魔法なのだが、彼は相手を閉じ込めるために使ったのだ
「うん。成功だ。これでドラゴンブレスを吐けないね…」
あたかも今初めてやったように言う。それもそうだろう彼は普通のパーフェクトキューブですら使ったことがないのだから
「…ねっ!言ったでしょ?命は保証するって…どう?驚いた!?」
イタズラが成功したような笑顔で無邪気に笑うその顔が少年があの魔法を発動したのだと3人は改めて思い知らされる。
「な、なぜ君のような子供がこんな魔法を」
「それに魔法を1度に複数発動していました。聞き取れませんでしたがその結界が発動する為の前踏みとして2つ…どういうことでしょうか?確実に今のは無詠唱いえ詠唱破棄…こんな子供が扱えるわけ…いやしかし」
先程も言った通りハクトは本来完璧な立方体は疎か結界魔法なんて使った事ないし、持ってもいない。今回のは、まず文字魔法で結界魔法を発動したあとに結界魔法を文字魔法から独立させて結界魔法の完璧な立方体を作り出したのだ。しかも、2つ段階を踏んでるとはいえほぼ詠唱破棄している。それに驚かれるのも無理はないだろう、この国では詠唱破棄など名のある魔術師を集めて100人いるかいないか…しかしその誰もが頷ける実力者の持ち主だ。それがどうたこんな子供が使うのだ、驚かずにはいられないだろう。
「というか、あのドラゴン暴れたりしないんですか?」
パーティメンバーのミナは冷静に意見を言う
「そこに関しては大丈夫。まだ体になれてないおかげか本気を出そうとして無理あり引き上げた魔力の反動が来てるはずだよ。」
そう、本来の力を発揮した古龍種ならばこんな子供が発動した真似事の結界など容易く破るだろう。まぁ…彼が本気を出さなければの話なのだが
「成程…それで、このあとはどうするんだ?」
捉えたからと言ってそのままというわけには行かない。ましてやこんな子供がドラゴンの価値を知っているかといえば知らないのが大勢だ。
「えっと、滅龍付与の魔法でグサッと」
「え!?君竜殺しの上位付与使えるの?」
「まぁ…かと言ってどうやるかコツとかは言えませんよ。僕も見よう見まねですから」
「残念…」
というのも彼の滅龍付与も文字魔法と付与魔法の複合魔法だからだ。まだ取得して時間も経ってないのに滅龍の付与なんて出来るわけがないからだ。それ以前に何故使えるのか聞かないのは麻痺しているからなのだろう
「まぁ、グサッと言っても直接攻撃はしませんが」
3人もハクトのセリフに?を頭に浮かべるがすぐに理由が思いついたのか納得した顔でいる。
「…成程、古龍の素材は高いからな」
「血の一滴や鱗の1枚まで貴重な品ですからね」
それもそうだろう。古龍の素材の殆どがエリクサーに必要だからだ。他にも鱗は魔法薬の素材や鎧に使えるし、爪や牙は剣や槍などの武器の素材としても使えるからだ。肉も超高級品として殆どが上位貴族に流れるため古龍種の素材は捨てるところがないので、傷をつけないで狩り全て売れば一躍大金持ちだろう。まぁ、ハクトはそんな事微塵も大金持ちなろうとは思っていないだろうが
「と、なると…魂を刈り取るしかないか」
「魂を…ですか?」
魂を刈り取ると言われて驚かないのはこの子供なら出来ると確信できるからだ。何故と言われれば分からないの一択だろうが
「まぁ、簡単ではないけどね…」
と、言ってもユキくんの力を少し借りるだけなんだけどね…死神と似たようなもんって言ってたし使えるでしょ
「…【貸出】発動…安らかに眠れ…【死神の大鎌】!」
「グォォォォォ…」
「ど、ドラゴンが…」
「死んだのか?だが外傷が一切ない…まさか本当に魂だけを」
嘘でないと分かっていたが目の前で傷がついていない絶命したこのドラゴンを見るまでは誰も信じないだろう。たとえあったとしても極小数…それ程すごい事なのだ
「さてと、急ぎで帰らないといけないか僕は帰ります。ドランさんに伝えてください。ドラゴンは僕が倒したので持って帰ります。別れの挨拶もなしにすみませんって」
「ああ、分かった。だが、こんな大きなドラゴンどうやって」
「【収納庫】発動」
シュルルルル
「き、消えた…これも魔法なのか」
「微量ですが魔力を感じます。多分マジックバックとかの類だと思います」
「まぁ、また会えたら会おうね。オニーサン達。【転移】」
そう呟いて、ハクトは王都にあったギルドの…自分が借りている場所に転移する
「ま、まさか転移魔法まで使えるとは…」
「転移魔法って手紙を送る時に使うあれか?まぁ、あれは手紙を瞬間移動させるが…あれで人が瞬間移動するって言うのか?」
「ええ。それに転移魔法は元々人用として研究されてきたわ。そして完成した…でも、大きな欠点があったの」
「大きな欠点ですか」
「魔力と関係あるんじゃないか?」
「ええ、ガリューの言う通り魔力が尋常な程必要なのよ。私が知ってる中で転移魔法を使えるのは王都にいる二人の魔導師だけよ」
「そんなに…」
「私達…もしかしなくてもすごい人にあったのね」
なんて話をされていたと気がつくのは彼が青年達に再開した時だろう。そして、あの時ドラゴンから刈り取ったのが魂だけでなく数千年という寿命も一緒に刈り取ったのだがそれが彼に与えられたと知るのは随分先の話になるだろう。
ブックマークありがとうございます。オチもロクに考えてない小説ですが、何年掛けででも飽きない限りオチは付けさせるつもりなので気長に待ってくれると嬉しいです。
意見や誤字脱字など見つけたらビシバシ言ってください。
口調がおかしいのは平常運転なので落ち着くまで暖かく見守ってください。