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第99話 沈黙のエイトフラッグ号 -Eight Flag Under Siege- 前編


 エイトフラッグ号がボル族のテロリスト達に占拠される事件の少し前に戻る。


 アルバはここのところ、軍港に停泊している一般開放したエイトフラッグ号の食堂で湾口労働者や海兵向けの料理を提供していた。


 ナカジマからボル族の動向を探るためだと聞かされていたアルバだったが、宿屋を営んでいていた経験もあり、研究した料理を作っている状況を楽しんでいた。


 アド総統からの善意で帝国兵が百人ほど、エイトフラッグ号の警備に就いているおかげで、目立った諍いも起きなかった。


 アルバは金物の鍋で、食べやすい大きさに刻んだ肉と野菜が沢山入ったスープを味見する。

 

 キューから教えてもらった日本の料理だそうで、試しに作ってみたら中々の美味だった。


 しかし、どうやら暑い夏に作るものでは無いらしくナカジマとトオルに出したら味は評価されたが不評だった。


 だが、今回は違う。


 祖熱を取り、氷で冷やした夏用の試作品である。


 そんなボル族の動向を探るよりも、料理を提供することが目的となりつつあったアルバにも分かる異変が起きたのは、湾口労働者やアド総統の命令で派遣された帝国兵が食堂にやってくる昼頃であった。


 アルバは、食事を運ぶ円柱型のロボットの上に料理を載せていく。


 いつものように、料理を美味しそうに食べているすっかり馴染になった湾口労働者達や帝国兵達の嬉しそうな顔を見ていると、あることに気が付いた。


 三十名ほどの初めて見る顔が、食堂へ入ってきたのだ。


 服装や顔つきを見るに、服装こそ湾口労働者のような機能性に優れた作業服だが顔つきは戦士のように鋭さを帯びていた。


 アルバもまた、宿屋を今は亡き妻と営む前はアネシア王国のロネの街を守る騎士として一線級の訓練を受けていた。


 近隣の街や小さい村が起こす騎士が出動するほどの諍いに派遣されたこともある。


 といっても、ホプリス族の戦いはどこかゆったりとしていて、このような武力衝突も死人が一人、二人出るか出ないかといったものだった。アネシア王国の歴史の中で、酷い戦いと呼ばれた戦争でも二桁の死人が出るか出ないかのものだから、人類や帝国と比べて特異である。


 この平和な戦争をやってきたアネシア王国に、ヴァイツ族がやって来て小銃が提供されたことで、一気に騎士の存在が消え失せることになる。


 その直後に起きたゲネシスとの対外戦争の際には、アネシア王国の領主達は収める領地に引きこもって国を守ろうともしなかったのは平和な戦争を行ってきたホプリス族だからこそであるともいえた。


 しかし、変わった者もいた。


 各領地に少数ながらも、家族や親友を守るために立ち上がった自警団や義勇兵である。


 彼ら自警団や義勇兵は、アネシア王国の領主達が積極的に使おうともしなかった帝国から供与された小銃や半自動小銃で武装し戦った。


 その元騎士であり、近代的な装備で対外戦争を経験したアルバだからこそ、食堂に入ってきた三十名の新顔が戦士であると直感的に解った。


「あんたヴァイツ族じゃねえな? その紫の髪と目はホプリス族か」


 アルバの前に立つ頭を剃りあげた男は、ナカジマが動向を知りたがっていたボル族だろう。


 ヴァイツ族と見た目の違いは左程ないが、男の奥底に見え隠れする感情がボル族だとアルバに教えた。


 宿屋を営んで色々な人の顔を見たアルバにとって、人間観察は得意技であった。


 見ただけで大よその人柄は分かる。唯一解り難かったのは、キューやセーズの二人だ。二人とも感情のようなものは見えるが、アルバには人とは違って見えた。


「ああ、アネシア王国で雇われたんだ。コックとしてな。あんたも食べていくかい?」


 アルバは笑ってボル族の男を見る。


 ボル族の男はアルバを見下すように笑うと厭らしい目つきをする。


「あんたのことを知ってるぞ。確か綺麗な娘が一人いたよな。散々楽しんだ後に殺したくなるような綺麗な若い娘だ」


 ボル族の男は下品な笑顔を浮かべてアルバを挑発する。

 

 アルバはその男の挑発に、何かが頭の中でブチ切れる音がした。


 ここまで怒り狂いそうになるのは初めてかも知れないアルバは、腰の後ろに下げた牛刀で、男の首を刎ねる一歩手前まで殺意が湧きたっていた。


「ははは。そう怒るなよ。褒めただけさ。親なら喜ぶべきだ……そうだろ?」


 ボル族の男がアルバの肩を叩く。


 アルバの怒りのボルテージが上がり、鍛え上げられた筋肉に力が籠った。


「あんたにお詫びといっちゃ何だが、一つ教えてやろうか。今すぐ後ろの冷蔵庫に入ったほうがいいぞ」


 ボル族の男がアルバに言った直後、彼の仲間がおもむろに手を前にかざして食堂の利用客に命令した。


「お前ら! 俺達の命令通りにここを出ろ! でなければ殺す!」


 食堂の利用客が、隣の席の者と顔を見合わせて笑う。


「ぶははは! そこのお兄さんが俺達を殺すってよ! 何にも持ってねえじゃねえか! まさか褒め殺しでもしてくれるってのかよお! ……ぶっははは!」


 食堂が爆笑の渦に飲み込まれ、食堂の入り口を警備していた二人の帝国兵が何事か確認しに入ってきた。


「おい、どうしたんだ? 殺すってのは穏やかじゃ――」


 帝国兵が殺すと宣言した、モヒカン頭のボル族の男に近づいた瞬間、胸に風穴が開いた。


 向こう側が見えるほど綺麗に開いた穴から。時間差で遅れて血が噴き出し、凄惨な光景に食堂が静まり返った。


「こいつ……!」


 もう一人の帝国兵が素早く拳銃を抜くが、いつのまにか背後に回っていたボル族のロン毛の男にナイフで背中から刺され死んだ。


 彼らボル族の手首には透明な籠手のような物が装着されており、血液の入ったシリンダーが装填されている。


 そして彼らは、武装親衛隊が見せたような力を使っていた。


 アルバは先ほどアルバの前にいた男の拳を喰らって昏倒し、目が覚めた時には冷蔵庫の中だった。


 ナカジマ達に緊急の案件で通信したのは、冷蔵庫に入れられ目が覚めた時である。


 冷蔵庫の外から銃声が聞こえる。


 銃声が聞こえては止み、ボル族の男達の下品な笑い声だけが響くのを先ほどから繰り返していた。


「ナカジマから食堂の冷蔵庫には緊急用の、通路へ繋がる避難経路があると聞いたことがある」


 アルバは冷静に、先ほどのボル族の男の言葉を思い出さないようにしながら、通路へ繋がる避難経路の自動ドアを開けた。


 通路へ顔だけ出して前後を見渡す。


 艦橋へ繋がる前方の通路にボル族の男が二名いる。


 二人とも帝国兵から奪った自動小銃で武装をしており、勝った気でいる顔だった。


「なあなあ、ズックよお。聖女から貰った籠手があれば俺達無敵じゃねえか?」


 ボル族の若い男がバディを組んだ仲間からの返事がないのを不思議に思い、後方を振り返る。

 

 アルバが若い男の仲間の口を塞ぎながら、首を牛刀で切り裂いていた。


「ズック!」


 ボル族の若い男が自動小銃をアルバに向けるが、アルバは素早く一歩前踏み出して左腕で向けられた銃口を外側にずらし、前に出る勢いのままに逆手に持った牛刀で若い男の喉笛を裂いた。


「……トオルから教わった戦い方がこうも易々と相手を殺せるとはな」


 アルバは若い男の身に着けている籠手を奪い、自分の太い手首に嵌めた。


 驚くべきことに、この籠手は装着者の手首の形状に合わせて変形しぴったりとアルバの手首に装着された。


「これがナカジマがボル族の動向を知りたがっていた理由……何だよな? てことはラナリみたいな力が誰でも使えるってことなのか?」


 頭の出来が大して良くないアルバでも、この籠手がボル族の男達が使っていた力の源であると分かる。


エイトフラッグ号の艦内は静まり返っている。無人のように沈黙した艦内を、娘を侮辱された怒りを明確な殺意に昇華させたアルバがゆっくりと進んで行く。

 

「あのハゲの男だけは絶対に殺してやる……!」


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