表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/154

第98話 沈黙の


 危険を顧みず仲間を見捨てない行動は、兵士ならば理解できるが一般人には、自己犠牲の精神は理解されないということをスレクトは言いたかったらしい。


 だがどうにも、それだけでは無いような気がする。


 そして、トオルは現状のエイトフラッグ号内での、気不味い雰囲気を打破するためにラナリの部屋へ突貫した。

 

 トオルはノックする。昨日はトオルと分かった時点で、ラナリは返事をするのを止めたが、今日はすんなりと扉を開けてもらえた。


 長い沈黙の後、ラナリは感情を押し殺したような顔をする。


「…………何?」

 

 いつもは綺麗な紫の目だと思っていたが、今日だけは宿っている物が恐ろしく感じられた。


「……す、少し話をしないか?」


 柄にもなくどもったトオルを、ラナリが溜息で答えて「分かった」と渋々承諾した。


「それで話というのは何でラナリが怒って――」


「怒ってるけど、怒ってない」


 ラーニングチップが外部に弄られ過ぎて遂に壊れたかと、トオルは後頭部を掻いた。


 近未来的なベッドの上に座るラナリの横に、トオルは腰掛ける。


「……トオルがあの時、私に大勢を守れって判断は正しいと思うけど」


 あの時、四日前に起きたビオベージャの森の戦いでのことだ。


 大抵の攻撃なら防ぐことの出来るラナリの力を使うとしたら、予想以上にグリセロス兵の勢いに押されシビアな後退になってしまった、あのタイミングに置いて他は無いと判断したからである。


 あの戦いは、結果的に四〇名のアールブ兵が死傷した。


 もし、ラナリがトオルの傍を留まっていたら被害はもっと増えていただろう。


 身内に被害が出る可能性さえあった。


「そ、そうか。それなら何で」


「私がトオルを助けたいって決意はあの時から変わってない」


 トオルは、ラナリのいうあの時のことをすぐに思い出せなかった。


「いつの話だ? そんな約束をした覚えは……あ、いや……」


 トオルはハッとして口籠ったが、ラナリは酷く傷ついたようで唇が小さく一瞬震えた。


「……忘れたの? トオルが乗ってきた船が壊れて途方に暮れてた時だよ。あの時から私は変わってない。……少し変わったかも知れないけど」


 そうだった。お先真っ暗で非常な現実を突きつけられて酷く落ち込んだ時に、ラナリの優しさに救われる思いをしたことがあった。


 今までの惑星採掘業を相棒のアンドロイドとしていたという、嘘の三年間の記憶が植え付けられていたことや、帝国やナカジマのおかげで少し歩けば血みどろの闘争に明け暮れていたお蔭で、すっかり記憶から抜け落ちていた。


 一番精神的に来たのは、記憶を改竄されて居たとはいえ恋人そっくりのキューに手を出したことだ。


 不貞や背徳どころでは無い。


 傍から見れば死んだ恋人が忘れられず、その恋人そっくりなアンドロイドを、死んだ恋人扱いしていた頭の逝かれた変態野郎に見られてもおかしくない大失敗である。


 現に弊害も残った。キューを見ると時々、欲を持て余しそうになることだ。


「……ああ、思い出した……すまん」


「それなのに最近トオルは、私を頼ってくれてるけど肝心な時に頼ってくれなかったし……私も一歩引いちゃいけない時に……一歩引いちゃったし」


 いつもラナリを頼っている気がするトオルだが、ラナリはやはり思うところがあるようで悲しそうな顔を浮かべている。


「悪かった。どうか許してほしい」


 トオルは両手を両膝の上に乗せて、深く深く頭を下げて謝罪した。


 トオルはラナリが怒った理由を完全に理解したわけでは無いが、彼女の悲痛な顔を見ているのは忍びなかった。

 

「別に怒ってるけど、怒りは私に向けてでもあるから……私の方こそごめん。少しだけ考える時間が欲しかったんだ」


 トオルはラナリがまだ怒っている気がした。


 怒っていないという人ほど怒りは根深いものであると思っていたので、頭を下げたままラナリの機嫌を直そうと言葉を続けた。


「ラナリのいうことを何でも一つ聞くから頼む……!」


「……じゃあ」


 ラナリは遠方にある帝国の街を一緒に歩きたいと提案した。


 トオルはそれを受け、仲直りも兼ねてその戦争の被害が少ない街を歩くのだが……ラナリの他にナカジマやセーズにキュー、スレクトやマイヤーまでもが付いてきたのだった。


 アルバだけは引き続き、期間限定のエイトフラッグ号の食堂でボル族の動向を探っていたのだが、このトオル達の行動が思いもよらない事件を起こす。


 可愛らしく着飾ったラナリの横を歩いていたトオルに、慌てた様子でナカジマが駆け寄った。


「トオル大変……! エイトフラッグ号がボル族に占拠されたって……!」


 エイトフラッグ号には、トオル達が外出する際に帝国から派遣された帝国兵が百名ほど詰めていたはずである。


 それが容易く占拠されるなど尋常なことではない。


「ここから戻るとなると一日は掛かるぞ……」


 アルバさんの身に一番の危機が迫った。

 

 誰もがそう考え、陽気な街の人達で賑わう鮮やかな煉瓦の街中で呆然とした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ