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第97話 作戦が終わって

 

 帝国砲兵隊の砲撃が終わった。


 わずか十数分足らずの砲撃だったが、八〇〇名ほどのグリセロス兵を完膚無きまで撃滅する働きを見せた。


 そして、アールブの負傷兵救出のために単身森の中に残ったトオルは、生き残ったグリセロス兵が森の中へ撤退してこなかったことを安堵する。


 森の中には彼らを追い立てた恐ろしいアンドロイド達がいるため、撤退ルートに選ばなかったのだと思われる。


 よって、突発的な戦闘もなさそうだ。


 トオルは治療を終えた三名のアールブ兵の容体が急変することもないと確認すると、自身も倒れた大木に戦闘で疲れた体を預けた。


 強化戦闘服の腰にある医療用ポーチは、中身を失って軽くなっている。


 そんなただの収納スペースに成り下がった物に視線をやりながら、先ほどの戦闘で感じた違和感を考えていた。


 アールブ兵には衛生兵の役目を担うものが居ないということ、グリセロス兵も戦闘中倒れた仲間を気に掛けるそぶりも無いことだ。


 無情な性格をしているのか、使用している武器が強力過ぎる為切り捨てる方針に進化したのだろうかと考えていると、中性的な声が聞こえてトオルは我に返った。


「……人間、なぜ見捨てなかった?」


 トオルが助けた三名の中では、最も軽傷のアールブ兵が不思議そうに問った。


「特に意味なんてない。教わったことをやっただけだ」


 トオルはアールブ兵を見る。治療するときに見たアールブ兵の体は、性別の区別がつかないほど痩せていた。


 そういう種族なのか、扱いがそうであったのかは分からないが、少なくともトオルには関係ないことで深く考えはしなかった。


 トオルの頭にあったのは、いつナカジマ達が見つけてくれるかということで、願わくばロシアのアンドロイド達よりも先に見つけてほしいと願っていた。


 ユーリヤを破壊してリゼッテ達を鹵獲したことで、確実にスヴェトラーナ隊に損害を与えた事実がトオルの心配の元だった。


 いつあいつらに暗殺されるかのかと、常にトオルの頭を過ぎっている。


「……なあ、人間」


 考えても仕方ないことを考えていたトオルに、軽傷のアールブ兵がまた話しかける。


「なんだよ。もっと助けてくれれば良かったとか、散々殺しておいて助けるのかって文句でも言いたいのか?」


「いや、違う。礼だけ言いたかっただけだ」


 トオルは「……礼なんて別に聞きたかった訳じゃない」と軽傷のアールブ兵を一瞥して言った。トオルが彼らを助けた理由は六割の学んだ経験と四割のエゴによるもので、こう素直にお礼を言われると、トオルは何とも微妙な気分に陥ってしまった。


 そして、自分の気分を紛らわすかのようにトオルは黙って思案し、今回の戦闘の反省点を洗い出そうとした。


 今回のことでトオルが痛感したのは相手の情報が少なすぎることであった。

 

 グリセロス兵が運用する兵器のことを知っていれば、他に作戦を立てようもあっただろうに今回の戦闘は杜撰に過ぎた。


 トオルに通信が入る。


 ナカジマからの通信だった。


 ――トオル、今からそっちに向かうから動かないで待ってて――


 動かないで待ってろとは、まるで迷子に諭すような言いぐさである。


 ――解った。負傷者が三名いるから担架も一緒に頼む――


 トオルとナカジマの通信から三十分後、ナカジマ達が生き残ったアールブ兵の一部を連れてトオルの元へ合流した。


「良かった、トオルは無事ね」


 ナカジマ達をよく見るとマイヤーの姿だけ見当たらない。


「マイヤーはどうした? 負傷でもしたのか?」


「いいえトオル様。マイヤー様は空から追撃を命じられ、撤退するグリセロス兵を殲滅しています」


 空から、というとマイヤーの強烈な誤射を受けた時のことを思い出しトオルは寒気を覚えた。


 あれは人間が一人で出していい火力ではない。


「それとラナリは……」


 トオルはナカジマの後ろのラナリを見る。


 ラナリは静かに怒っていた。今にも爆発する一歩前の休火山のような、一見して怒っていないように見えるが、激怒している雰囲気を醸し出している。


「さっきは怒鳴ってごめんな?」


 ラナリの怒りが一段階上がる。


 彼女の怒った理由はそれでは無いようで、火に油を注ぐ形になった。


「……そうじゃない」


 トオル達は負傷したアールブ兵を帝国兵に任せ、自分達も前線司令部にある借りた兵舎で一泊した後、エイトフラッグ号まで帰還した。


 ラナリは、あれからトオルと口を聞こうともしない。


 トオルはスレクトから「ラナリは兵士じゃないから怒っているんだ」と言葉足らずな助言を受け、よりいっそうとラナリの機嫌を損ねた理由が解らなかった。


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