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第96話 奇妙な共闘 後編


 大きな誤算だった。ゲネシスのホバーバイクが、森林での走行をいとも簡単に行えるほどの性能を秘めていたとは。


 飛び交う緑色の粒子を帯びたプラズマや銃弾が、止めどなく飛び交い敵味方入り乱れた屍を作り出す。

 

 トオルは大木の陰から、ホバーバイクの運転手を正確に撃ちぬく。


 運転手を失ったホバーバイクが大木に激突し蒼く爆散するが、トオルの処理速度以上に敵の勢いが勝っていた。


 後方から上がるアールブ兵の悲鳴、彼らのアーマーは耐熱性に優れているおかげでプラズマ弾に被弾しても即死は免れる。だが、結果的に長く苦しむことになった。


 誰も助けに行けないほど、敵の攻勢が激しかったのである。


「後退急げ! 後方の"シュゴーニュ"まで走れ!」


 スレクトがアールブ兵に向けて叫ぶ。


 "シュゴーニュ"という退却用のレトロなヘリまで走れとスレクトは叫ぶが、絶え間なく降り注ぐグリセロス兵からのプラズマ弾とホバーバイクによる電撃戦は、アールブ兵の後退を許さない。


 グリセロス兵の勢いを削がなければ、離脱することなど容易いことではない。


「キュー! 奴らの勢いを削げるか!?」


 目前のグリセロス兵の頭部を撃ち抜くトオルは、表情に焦りを見せていた。


「いいえ、残念ながら不可能です。襲い掛かってくる敵兵の対処をするので精一杯です。徐々に後退はしてはいますが、このままでは被害が大きくなります」


 側面から蒼く粒子の刀身を光らせ、斬りかかってきたグリセロス兵の斬撃をキューが躱す。


 直後、体勢を低くして突貫したキューがグリセロス兵の股下を潜り抜けると同時に、グリセロス兵の脚部動脈を切り裂いた。


 既にホバーバイクの後部座席から降りて、迅速に歩兵隊を展開しつつあるグリセロス兵は、着実にアールブ兵を撃破していく。


「セーズ! どうすんのよ! この状況結構やばいんじゃない!? 囮になるとは言ったけど轢殺されるためとは聞いてないわよ!」


 ナカジマが少しでも敵の突破力を削ぐため、自動小銃のアンダーバレルに装着されたグレネードランチャーに榴弾を装填し、迫るホバーバイクの進路上にある大木の太い枝目掛けて発射した。


 破砕され落下した太い枝が、ホバーバイクの運転手および後部座席に乗っていたグリセロス兵を薙ぎ倒す。


 しかし、一向にホバーバイクによる電撃戦の突破力は低下しそうにもなかった。


「ナカジマ! フェオドラから通信が入りました。我々で敵の勢いを削ぐと言っています」


 ナカジマが「あいつらが!?」と疑問を顔に浮かべた。


 そして、同時刻、同分、同秒に、フェオドラはグリセロス兵のこの勢いでトオル達を排除するゾーヤの計画だと確信する。


 本来ならば堰を切った水計の如く、グリセロス兵が囮に押し寄せないように手加減するはずだった。驚異の高いボバーバイクを重点的に破壊することさえ出来たはずのゾーヤ達は、それをせず間接的にトオル達を排除する道具として利用した。


 "ロマーシカ"を携えたメチェーリが同行していた次点で警戒してはいたが、予想以上にグリセロスの反応が早く的確だったのも、この惨状の原因である。


 だが、フェオドラに勢いを殺す手の内が無い訳ではない。


「……ゾーヤには悪いけどぉ。彼には利用価値があるからぁ」


 フェオドラが大木の枝の上から戦場を見渡し、同じく大木の枝の上に留まっていた配下のアンドロイド五名に指示を出した。


 フェオドラとアンドロイド達が、鋼製のピアノ線のような糸を大木の間に結び付けていく。

 

 ほぼ一瞬にして、トオル達とアールブ兵の前に鋼製の糸で出来た視認しにくいトラップが張り巡らされた。


 フェオドラは残忍な性格を持っている。その彼女は鋼製の糸を使ったトラップを好んで使っていた。

 

 そして、その威力は、高速で突貫するグリセロス兵の駆るホバーバイクと、最悪な相乗効果を生み出して発揮した。


 身を守る装甲を持たないホバーバイクが、大木の間を通った瞬間に乗っていたグリセロス兵を赤い霧に変わった。


 まるで死のピタゴラ的装置と化したフェオドラのトラップは、グリセロス兵のホバーバイクによる機動戦を完全に封殺した。


 グリセロス兵が前方に致命的なトラップがあると認識し、ホバーバイクをドリフトさせて歩兵を即座に展開させる。


「トオル! どこ行くの!?」


 ラナリがフォースフィールドの範囲外に駆けるトオルに対して、飛び交う銃声や爆発音に負けないように大声を上げた。


「ラナリはアールブ兵と一緒に帰投地点まで走れ! 俺はまだ生きている負傷兵を助ける……!」


 トオルは割り切れているようで割り切れていない。


 アールブ兵を見捨てれば良いものを、それが出来なかった。


「待って私も一緒に行かせて」


 ラナリが助太刀を申し出るが、トオルはラナリを一瞥することもなく走り出した。


「お前がアールブ達といたほうが、より多くを助けれるだろ! 行けよ!」


 ラナリが少しの間立ち尽くすが、自身に課せられた役割を全うするため、射ちながら後退するアールブ兵達の元へ走った。


 トオルは自身の甘さを痛感する。


 リゼッテ達の時もそうだが、今回もそうだ。


 詰めが甘く、割り切れない甘さがある。


 昔は……カルセムでカディア族のテロリスト相手に戦っていた時は、内心酷く精神を汚しつつも同行した海兵隊や親友達が死のうとも課せられた役割を全うしようとした。


 今は少し違った。


 助けられるのなら助けねばと、使命感がトオルを支配している。


「大丈夫か!? まだ生きてるか!?」


 トオルが仰向けで被弾箇所を抑えているアールブ兵に近づき、ケロイド状に腫れた高温のプラズマによる銃創に水筒から水を掛けて汚れを洗い流す。


 呻くアールブ兵に、トオルは負傷兵が致命傷を負っていないと安堵し、医療用ジェルをアールブ兵の銃創に流し込んだ。


「すぐに担いで運び出してやるからな……」


 トオルが左肩にアールブ兵を担ぎ、自動小銃を右手で構える。


 負傷兵を担いだトオルの前方にグリセロス兵の分隊が視認出来た。


 距離は一五〇メートルほど、敵数は八、いや九名ほどである。


 既にナカジマ達とアールブ兵は、後方に待機していた輸送ヘリに乗り込みつつある。

 

 未だにビオベージャの森で戦っているのは少数の釣られなかったグリセロス兵と、不運に殿となったアールブ兵ぐらいである。


 グリセロス兵に応射しつつ、自身も別ルートで脱出を図るトオルの耳に、強烈な爆裂音が衝撃波を伴って襲い掛かった。


 帝国砲兵隊が、囮に釣られて平野部へ突出したグリセロス兵の大群に対して効力射を始めたのだった。


「……クソ! 始まったか!」


 予め設定された砲撃地点へグリセロス兵の誘引に成功したものの、ナカジマ達やアールブ兵とグリセロス兵の彼我距離は一キロぐらいで、友軍を巻き込みかねないものだった。


 降り注ぐ大口径の榴弾が隕石が落ちた後のようにグリセロス兵を爆砕し、クレーターを作っていく。


 幸いにもギリギリのところで離脱用のヘリに乗り込むことが出来たナカジマ達は、噴火の如く噴き上がる爆圧と熱風に晒され、消し飛んでいくグリセロス兵を上空から見下ろしていた。


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