表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/154

第95話 奇妙な共闘 中編その3

 

 ビオベージャの森の後方林縁にて、第六世代型軍用アンドロイドで構成された部隊が、静かに隠密状態を維持していた。

 

 彼女達は六〇〇メートル級輸送艦から降下した、四〇〇体もの第六世代型アンドロイドで構成された部隊で、スヴェトラーナ隊と呼ばれる特殊部隊である。


 彼女達の任務は、ゲネシスの技術奪取と聖遺物(アーティファクト)の収集だ。


 そして今は、アールブという白い種族に力を貸している。


 ゾーヤの電脳に向けて、囮部隊が敵前衛と接敵したとセーズから連絡が入った。


 遅れて、フェオドラからも同様の連絡が入る。


「各員、光学迷彩を起動。グリセロスに対して奇襲を仕掛ける」


 現在のスヴェトラーナ隊の指揮官であるゾーヤが、隷下のアンドロイド全てに命令を下す。


 命令を受けたメチェーリが、ゆっくりと立ち上がった。


「メチェーリが静かに、派手におっぱじめよう。この"Ромашка(ロマーシカ)"なら瞬時に致命打を与えられるかもだ」


 第七世代型のプロトタイプ、メチェーリが携えているロマーシカという兵器は、銀色の長い杖のようで先端はつぼみのように膨らんでいる。


 メチェーリが光学迷彩を起動し、周りの深い原生林の景色と同化しながらグリセロス兵の一団中央に立つ。


 数十のグリセロス兵の中央に降り立ったメチェーリが、光学迷彩を停止させ姿を現した後、"ロマーシカ"を地面に突き立てた。

 

 グリセロス兵の一団は、一斉に振り返ってメチェーリに銃口を向ける。

 

 当たれば軍用アンドロイドであっても、一撃の元に破壊するプラズマライフルを向けられたメチェーリは、涼しい顔、または表情のない顔でまっすぐ前だけを見ていた。


「おっ()ね」


 メチェーリによって"ロマーシカ"のつぼみのような先端が花開くように展開し、もう一度地面に突き立てた。


 そして、超低周波の鐘の音のような音がビオベージャの森に響き渡る。


 この発せられた、人類の可聴域の範囲外である超低周波音は、グリセロス兵の内耳に甚大な損傷を与えた。

 

 超低周波音により、グリセロス兵の平衡感覚が失われ、低い唸り声のような悲鳴が上がる。


 メチェーリは、再度"ロマーシカ"を地面に突き立てる。


 発生した低周波音が、グリセロス兵の脳を損傷させた。

 

 完全に無力化されたグリセロス兵へ、メチェーリは無慈悲に三度(みたび)地面に突き立てた。


 周りにいたグリセロス兵は、体中の穴から血を噴き出して絶命する。


 このグリセロス兵だけを殺害する指向性を持った、音響兵器"ロマーシカ"によって、メチェーリの周り、約半径五〇メートル以内にいたグリセロス兵の部隊は甚大な被害を被った。


 静かに大量に葬り去った、音響兵器"ロマーシカ"の威力は絶大であり、辛くも耐えることに成功したグリセロス兵を恐怖のどん底へ突き落とした。


 スヴェトラーナ隊によって、背後から奇襲されたグリセロス兵は、後方林縁から慌てて逃げるように移動する。彼らの無様な姿は、狼に追い立てられた家畜のようで酷く滑稽であった。

 

 その無様に逃げる彼らの様子を、仲間の視界から見ていたゾーヤが口を歪めて笑う。

 

 全てはゾーヤの計画通りに作戦が運ばれている。


 ゾーヤの計画通りに。


***


 短時間で多数の被害が出たことによって、グリセロスの指揮官をスヴェトラーナ隊側が強力な本隊であると誤認させることに成功した。


 後方から奇襲を受け、被害が大きくなりつつあるとの報告を受けたグリセロスの指揮官は、手に持ったプラズマカービンを地面に投げつけて舌打ちした。


 彼は敵側に寝返ったアールブ族を、ヴァイツ族諸共、高速高機動なホバーバイクによる電撃戦で破壊し尽くす算段が崩れ去ったことに苛立ちを覚えた。


 彼は、まさか後方から敵の本隊に奇襲されるとは思いもしなかったようである。


「指揮官、まだ報告があります」


 彼の部下が片膝を折って、地面に伏し、不機嫌なグリセロス指揮官に対して報告を続けた。


「まだあるのか!」


「前方からアールブ族の兵士が攻勢を仕掛けております。数は百ほどで容易い相手です」


 アールブ族は、古代人類の遺産の一部を受け継ぐだけの賢しさがあった。


 それをグリセロス族は、心良く思わず、逆恨みに似た憎悪でアールブ族を絶滅が約束された種族にまで失墜させた。


 しかし、アールブが古代人類の残した遺伝子マップを元に創り出したヴァイツ族によって、グリセロス族は窮地に立たされている。


 このような背景もあり、グリセロス族にとって気に喰わない奴らが、自殺志願者のように自分達の前に出てきたことをグリセロス指揮官は下品な笑いで喜ぶほど、激しく囮に喰いついた。


「直ちに前方の"白族"共へ反撃する! 残存している"ブッチャー"に搭乗次第、突撃しろ! 後方の敵本隊には構うな! 平地に出れば地の利はこちらにある!」


 グリセロス指揮官の命令を受けた兵士達が"ブッチャー"と呼称されている、反重力ホバーバイクに我先にと乗り込んでいく。


 "ブッチャー"の前座席に運転手が乗り込み、三つに分かれた後部座席に、完全武装をしたグリセロス兵が搭乗し、利き手でハンドレールを掴み体を固定した。


 全ての兵士が乗り込んだのを確認した運転手が"ブッチャー"を発進させる。


 反重力クラフトの独特な作動音が辺りに響く。高い音と低い音が混じったような音だ。


 そして、八〇両を超える"ブッチャー"が原生林の大木の間を矢のように高速で、縫うように疾走した。


 グリセロス指揮官もまた、"ブッチャー"の後部座席に乗り込んで体を固定し、片手でプラズマカービンを構える。


「突撃しろ!」


 彼の雄々しい号令で、運転手が"ブッチャー"を発進させ、高速で大木の間を縫い進んだ。


 グリセロス指揮官は、このようにトオル達が率いる囮部隊に釣られた。


 誤算があるとすれば、"ブッチャー"の性能である。


 大木の間や不整地をまるで舗装された高速道路のように、最大速度で疾駆するこれらが、雪泥流のような鋭利さでトオル達、囮部隊に襲い掛かった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ