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第94話 奇妙な共闘 中編その2

 

 翌日の早朝。空が白み始めた頃、ビオベージャの森に集結しているグリセロス兵の詳細な規模と配置を調べていたロシアのアンドロイド偵察隊が戻ってきた。


 彼女達は作戦を成功させる確立を上げるため、夜間偵察に出ていたのだ。


 無論、見つからずに詳細な情報を得て悠々と帰還していた。


 その偵察隊からの情報を得たキューがトオルに説明する。


「トオル様、キュー宛てにスヴェトラーナ隊の偵察隊から情報が来ましたので伝えます。グリセロス兵は八二四名、武装はプラズマライフル、プラズマカービン。兵員輸送用ホバーバイクが一二〇両ほど。予想される敵の戦術は高速のホバーバイクによる電撃戦。尚、敵陣地はゲネシス兵の車両に使われている装甲と同じ材質の障害物で強固に砲撃対策を行っています。やはり、帝国の要望通りに釣り出すしかないようです」


 そんなにいるのかとトオルは呆気にとられる。


 こんなにも数を集めているのなら、どちらにせよ見つからずに敵陣後方から前方へ敵を追い立てるなどアンドロイドにしか出来ない芸当だ。

 

「そうか、囮役に回してくれるアンドロイドは何体になった?」


「そうですね、フェオドラ以下六名が志願したようです」


「流石に少なすぎる。もうちょっと人数が欲しいな、じゃないと功を焦るような釣られる切っ掛けを与える奴が現れないだろ」


 作戦開始まで、あと二時間ほどに迫っている。


 トオルは少し焦りを覚えた。このままだと、作戦を提案しておいて提案した本人達によって失敗する可能性が出てきた。

 

 十人、二十人ぐらいは出してくれるものと思っていたが、そんなに甘くはないようだ。


 腕を組んで考えているトオルの元にスレクトとマイヤーがやって来た。


 彼女達の後ろには、白いアーマーを着用した約百名のアールブ兵士が整列している。整列するアールブ兵士の一番前にいるのは、金の装飾が施された他の簡素なアーマーとは違う物で階級が高い者だと推測できる。


「トオル、アールブの兵が囮に志願すると朝方言ってきてな、一三〇名が集まった。この者達が言うには、グリセロスの今回の目標はアールブの粛清らしい。だから、我々が一番魅力的な囮になれる、と言っているがどうする?」


 トオルがアールブ達の言い分に納得する。


「粛清か、帝国にゲネシスの技術が渡ることを恐れたのか、その両方かも知れないな。まあ、何にせよ囮になってくれるのは願っても無い申し出だが」


 トオルがスレクトとマイヤーの後ろにいる、アールブの兵士達に視線を向ける。


 その視線は、必ず死者が出るが本当に良いのかと、アールブの兵士達に訴えかけるような視線だった。


 トオルの視線に気が付いた、金の装飾が施された指揮官らしきアールブの兵士がトオルの前に出る。


 そして、ヘルメットを脱いでトオルに話し掛けた。


「我々は死ぬのは怖くない。既に多くの同胞が死んだが、死ぬことを恐れる者はいない。それは唯一我々が恐れることはアールブの血が途絶えることだから。残された同胞を助け、種が存続できる一助になれるのであれば、我々は戦って死ぬことに恐怖しない」


 この指揮官の素顔は、髪は白く肌も白く目が赤い。髪型はベリーショートで男のようにも女のようにも見える。特徴的な長耳はヴァイツ族のそれより長くナイフのような形だ。


 指揮官がヘルメットを外したのを皮切りに、一斉に他のアールブ兵もヘルメットを脱いだ。

 

 他のアールブ兵も、先に素顔を晒した指揮官のような特徴を持っていた。


「分かった。手筈通りに敵前衛と接触した瞬間に、浸透したスヴェトラーナ隊が敵陣後方から攻撃を始めて追い込む。俺達は敵前衛に、挟み撃ちをしてきたと見せかけ、更に挟み撃ちに失敗し押されたように見せかける。後は勝手に敵が俺達を突破しようとする」


 トオルの説明にアールブの指揮官が短く返事をした。


 二時間後、作戦が開始されスヴェトラーナ隊が各々最大限の性能を引き出しながらビオベージャの森へ入っていく。彼女達が目指すのは林縁後方の敵陣の最端である。


 トオル達”不滅の”面々はスヴェトラーナ隊が見えなくなるまで、林縁前方で待機した後、敵前衛へ向けて行軍する。


 背の高い樹齢百年を軽く越えた大木が、鬱蒼と広く生い茂り、大木を覆う緑の苔も相まって一面緑である。足元も多種多様な植物によって、地面が見え難く、安全なルートを探して行軍するのは困難を極めた。


 自然に倒れた大木も難易度を上げている。


「トオル、わたし達に付いてきたアールブ兵だけど本当に良いの? だって、トオルの立てた作戦はラナリが確実に守れる人数に限っていたじゃない」


 小声でトオルに話しかけたナカジマが、後方のアールブ兵を見て言った。


 アールブ兵は動きずらそうに、一歩一歩踏みしめながら落伍しないように前を歩く仲間との間隔を狭めていた。


「……あいつらが大丈夫だって言ったんだ。俺だって出来るなら、なるべく被害が抑えられるように、助けてやりたいが……無理だ。俺は手の届く範囲しか守れないし……守れなかった」


 トオルは、散々殺し合ったロシアのアンドロイドと共闘している今の現状に、複雑な感情を抱いていた。


 彼女達と戦わなくて済むことへの安心と、仲間が殺されたことへの憎しみが混ざったようなものだった。


 だが、これはラナリの後ろでトオルと同じような表情をしているスレクトの方が、より強い感情を持っていた。

 

 ついこの間まで、武装親衛隊の仲間が標的にされていたのだからトオルよりも新鮮な感情を抱いていると分かる。


 誰よりも柔軟に割り切ったアド総統が、ある種異常なのか、六世紀も生きた経験が生かされているのか、奇妙な共闘を困惑しつつも受け入れた事実。


 それは、トオルとナカジマをアド総統が普通の人物では無いと確信させる契機にはなった。


 トオルとナカジマはアド総統のことを内心馬鹿にしていたが、今はそれは無くなっている。


「ナカジマ、一時の方向、約二五〇メートルに敵前衛を確認しました。セーズがスヴェトラーナ隊に合図を送ります。皆様方、激しい戦闘に備えてください」


 セーズが長い黒髪を舞わせ、静かに着地したかと思うとナカジマに敵前衛を発見したことを告げる。


 そして、セーズが配置に付いたスヴェトラーナ隊に向けて無線で合図を送った。


 傍から見れば無言でじっと立っているセーズだが、電脳に直接やり取りをしている。


 そのため、いきなり大木を殴ったセーズは恐らくフェオドラに茶化されたのだろうと、トオルは理解した。


 トオルはハンドシグナルで、アールブ兵達に散開指示を出し、自動小銃のトリガー下にある安全装置を回し、セミオートに切り替え、構える。


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