第93話 奇妙な共闘 中編その1
「で、武装ゴリラを森から追い出す作戦だけど……残念ながら森林戦の知識は持ち合わせてないわ。トオル、何か学んだことで活用できそうなのある?」
学んだこと、というのはトオルが通っていたステーション・タウ士官学校でのことである。
親友や恋人と学んだ知識をトオルは思い出すために、しばし長考する。
その様子に我慢が出来なかったのか、金髪を一つ結びにしたグレーの眼を持ったロシアの軍用アンドロイドが案を述べる。
彼女の識別名称はゾーヤ。指揮特化型でユーリヤが壊された後は彼女が、全てを引き継いでいた。
「ゾーヤに案が一つ。我々スヴェトラーナ隊八七名が、ステルスで敵陣の後方林縁まで一気に駆け抜け、横列に並び、火を放ちながら帝国砲兵隊が設定したキルゾーンの前方林縁、およびポルスカ平野へ誘導、はどうでしょうか?」
ゾーヤの案は至極まともで、簡単に説明すると人為的な火災で前に突出しなければならない状況を作るということであった。
その真っ当な案にラナリが素人考えながら、これまた最もな疑問を投げかけた。
「グリセロス、だっけ? 火に興味を持ったりしないのかな? 例えばロネの街近郊に良く出没する裸熊みたいに」
裸熊。トオルが最初に遭遇した惑星エレミタの固有種で、悍ましい外見をした熊のような哺乳類である。
ラナリによると、火で追い払おうとすれば逆に寄ってくるらしい。
「火になあ……。可能性はあるが、ゾーヤの案は至極真っ当で反論の余地は無さそうだが、お前達って深い森林を踏破するのにどれくらい時間が掛かるんだ?」
トオルがゾーヤに質問する。実際、第六世代型の軍用アンドロイドの機動力や展開速度が気になった。
また、敵対する可能性だってある訳だから聞ける時に聞くのが利口だろう。
「そうですね。一時間半、いえ一時間ほどで敵陣後方の林縁に到達可能でしょう。足場が抜かるんでいる場合は、木と木の間を飛んで行軍することも可能です。その場合は敵に見つかる可能性が高まりますが、四十分で展開して見せます」
広大で不慣れな森林を見つからずに、敵陣後方まで展開する高難度な任務が一時間足らずで可能だとゾーヤは言って見せた。
それに、ナカジマが対抗するかのようにトオルに聞く。
「トオルはどうよ? それって人間でやるとどれぐらい時間かかる?」
「三時間、いや全員の森林戦の経験が浅いなら四時間は掛かるんじゃないか」
トオルは「一時間か」と呟く。
そして、一案を思いついて提案した。
「火を放つのは良いかもしれないが、大木は簡単には燃えないだろうとも思う。なので、火を放つのではなく静かに暗殺して回って脅してやるのはどうだ? 後方の友軍からの連絡が徐々に途絶えるとなると、陣の後方から奇襲されていると理解するはずだ」
ハイテク機器を持っているゲネシスは、帝国のように部隊間の意思疎通に苦慮することもないと分かる。
むしろ、連絡を定期的に密に取っているなら奇襲を受けていると、直ぐに対処をしてくるだろう。
ただ、その対処が奇襲を仕掛けてきた敵部隊を排除するのか、部隊を一か所に集めて奇襲を受けにくい見張らしのいい場所へ移動するのかまでは解らない。
ゲネシス兵の今回はグリセロス族相手であるが、思考パターンを知る必要がある。
弱い者がいたら攻撃するか、助けるかといった単純なものでいい。
「……グリセロス族ってどんな奴らなのか、考えたことも無かったな」
行き詰った顔をしたトオルに対して、フェオドラが甘ったるい声で話し掛ける。
「んー、トオルはグリセロス族がどんな奴から知りたいのぉ? それってぇ恐怖した場合の行動とぉ御しやすい敵が現れた時の行動予測をするためかしらぁ?」
フェオドラが微笑む。トオルが何を考えたのか解ったようだった。
「……そうだな。その二つが解れば誘導の方法もある。……お前らって本当に怖い存在だよな、俺が考えていた作戦、解ったんだろ?」
フェオドラが「そうよぉ~」と両手を広げてトオルに近づく。
その危険を察知したキューとセーズが、トオルの前に立ち壁を作った。
続けて、ロシアのアンドロイドが帝国と協力関係を築いたと知った直後から、露骨に不満を顔に出していたセーズが罵倒した。
「なに、トオル様に媚を売っているのですか糞ビッチ。貴女のように頭の中が年中発情しているセクサロイドには吐き気がします」
フェオドラが「それは残念ねぇ」とセーズを見もせずキューに視線を向けた。
キューは、ボディがロシア製の第六世代軍用アンドロイドの物となっている。
フェオドラは、それに少し思う所があるようだった。
「トオル様、もう少しフェオドラと距離を取って下さい。これではキューはトオル様を守れません。……双子の件でも負傷させてしまいましたし」
トオルは、キューが些細なことを気にしていたことを以外に思いつつも、言われた通りに一歩距離を取り、脱線した話を戻した。
「でだ、奴らがどんな奴らか情報を持っている奴はいるか?」
メチェーリが挙手した。
トオルは、セーズから彼女が一番気を付けねばいけない相手だと教わったことを思い出し、少し緊張した。
第六世代型を軽く凌駕する性能を持つメチェーリを警戒したのだ。
「……メチェーリがトオルの知りたい答えを所持しているかもだ」
「んん? いや教えてくれ」
トオルは少し首を傾げて、かなり変わった話し方をするアンドロイドだ思った。
輝く白金のショートヘアと整った顔立ちのアンドロイドにしては、不似合な喋り方である。
「ゲネシスと呼ばれる異種族連合体の構成種族の一つグリセロスは、腐った卵のような悪辣野蛮な種族で? 弱者を挫き、強者に媚びへつらう卑劣な奴らだ。よってトオルが考え付いた作戦は有効だと考えられると?」
「……メチェーリだったか、お前どこか言語が変じゃないか?」
トオルが我慢できずに違和感に突っ込みを入れる。
すると、フェオドラがメチェーリの電脳内の言語野が異常を来している理由を話した。
「ごめんなさいねぇ。この子は戦闘能力にぃ重点を置いて開発されたのよぉ。それで開発費が掛かり過ぎちゃってぇ、年代物の自動翻訳システムをベースにするしかなかったのぉ」
確かに戦闘だけを重点に開発されたのなら、最低限の会話だけ出来れば要求スペックはクリアできる。
その結果がメチェーリだった。
当のメチェーリは、フェオドラの喋り方がツボにはまったのか、真顔で「ぶっはっ」と噴き出していた。どうもメチェーリは、自分の喋り方を気にしていないようである。
「まあ、俺が考えた作戦はこうだ。俺達”不滅”はロシア勢が隠蔽した状態で敵陣後方に付き、奇襲を仕掛けたあと、魅力的な餌として奴らに攻撃を仕掛ける。背後を奇襲され、前方に突破可能な目標が現れたら、奇襲による被害が大きくなる前に、突破戦を仕掛けるはずだ。そして、俺達が少しずつラインを下げて押されている振りをして、キルゾーンへ誘導し、帝国砲兵隊に合図を出して、この作戦は終わりだ」
ナカジマがきょとんとした顔をする。
「わたし達が囮ってどうするのよ。被害が出るじゃない」
トオルはラナリの肩を握って「ラナリのフォースフィールドで守ってもらうから、その辺は心配ない。ロシアのアンドロイドも十名ぐらい来てもらうとして、アンドロイドに銃弾が易々と当たるとも思えないしな」と自信を持って答えた。
頼られたラナリは、どこか嬉しそうでやる気に満ちていた。
「うん。仲間を守るなら私の仕事だから、精一杯やるよ」
こうして作戦は決まり、翌日の朝方に開始される運びとなった。




