第92話 奇妙な共闘 前編
ポルスカ地方に設置された前線司令部に、アルバを除いた”不滅の御旗”の面々が揃っていた。アルバはというと、期間限定で一般開放されたエイトフラッグ号の食堂で、湾口労働者向けの料理を作っている。
目的はボル族の動向を、それとなく探るためなのだが、なぜ探るのかの理由はナカジマから教えられていなかった。
そして、アルバ以外の面々が呼び出された理由は単純明快であった。
ポルスカ地方と中央大陸の国境をまたがっている原生林にて、ゲネシス軍の反攻の動きがあるので叩いて欲しいという、アド総統からの依頼である。
しかし、今回は状況が大きく異なっている。
セーズから事前に知らされていたとはいえ、散々と矛を交えたロシアのアンドロイド達が、前線司令部にいたからである。
トオルとナカジマ、いや、スレクトやマイヤーまでもが警戒し、キューやセーズに至っては、何時でも主人達を逃げられるように庇う様な形で前に立っていた。
対する、ロシアのアンドロイド達も少なからず仲間がやられた恨みがあるのか、楽しくなさそうな顔をしている。ずっと笑ってトオルを見るフェオドラだけは違うようで、嬉しそうにしていた。
「アド総統。わたし達にこいつらがいる理由を教えては貰えませんか?」
ロシアのアンドロイドは、この部屋にいるものだけで十は超える。
その前の、ここへ来る途中の間にいたのも合わせると数は軽く百近く居ただろう。
こんな前代未聞な数の軍用アンドロイドに襲われでもしたら、多勢に無勢なんて生易しいものではない。
赤い津波に一瞬にして飲み込まれること請け合いである。
「リゼッテやグレチェンがいるのはいい。アド総統に登用されてもいいかと、セーズに許可を求めていたのも知っていたしな」
気が気でないトオルに、リゼッテとグレチェンが揃って頭を恭しく下げて挨拶した。
「そうだな。軽く説明しよう。アンドロイド達は、アールブと呼ばれる異星人側に立った。帝国に助力を請うたアールブは、ゲネシスの構成種族であるグリセロス族に対して反旗を翻したのだ。よって、帝国とアンドロイド達は、一時的な協力関係を結んでいると思ってくれ」
いつの間にそんな情勢になっていたのやら。
「つまりは俺達もこいつらと一旦休戦ってことか?」
アド総統が大きく頷く。
この複雑怪奇な情勢は何時まで続くのか、誰にも予測は出来ないが厄介な敵が一つ減ったのだと見ていいはずだ。
なので、少なくとも現時点の限定された安全だが無いよりはましだと、トオルは思うことにした。
「そこで、余からの依頼だがヘルマに説明をしてもらう。……余は色々と考えねばならないことだらけで疲れてしまった」
アド総統が溜息を付きながら、ぐでっと椅子に座った。
「では、私が簡単に説明しましょう。ポルスカ地方の周辺図を見てください。……ポルスカ地方と中央大陸をまたいだ原生林、ビオベージャの森にゲネシスの軍勢が集まっています。理由は離反したアールブを粛清するためだと思われ、重武装で容赦のない編成になっています」
ヘルマの淡々とした説明にフェオドラが「はぁい」と金髪のツインテールを跳ねさせながら挙手をした。
「……フェオドラさん、何でしょうか」
「その森の広さはぁどれぐらいなのかしらぁと思ってぇ」
フェオドラの甘ったるい声での質問に、ヘルマが一瞬だけ目を細める。
「人類の単位で表すならば、約十万ヘクタールほどの鬱蒼とした森です。この視界の悪い森での戦闘は武装親衛隊といえど難しい」
原生林というのだから、生えている木も立派で、高密度に生い茂った大木は遠近感すら狂わせる。
さらには、倒れている大木もあるはずだ。草も絨毯のように茂っていた場合は、踏み出す先が安定しているのか判断が難しい。
視界も悪く足場も悪いとなれば、戦闘は困難を極めるのは明白だった。
トオルも本格的な森林戦の経験は無い。
森林という地形は、往々にして部隊の移動や戦闘機動を大きく阻害する。
特に最先端の索敵装備を持たない帝国軍であれば、伏劇された場合に反撃が困難となる。
植物が多いということは、それだけ偽装がし易い。
要は隠れやすく、見つけ難い。伏撃しやすく、反撃し難い。
それが森林戦なのだ。
トオル達に頼んだ理由もそこにあった。
帝国は、森林戦での損害を恐れたのである。
「ゲネシス兵はプラズマライフル、小型のホバーバイクで武装しています。このホバーバイク自体は非武装ですが、後部座席に完全武装をした三人の兵士が搭乗できる性能を持っています」
ゲネシスの車両は全て反重力クラフトを用いた、ホバー車両である。
ヘルマの説明からして、迅速に兵力を展開するドロップシップに代わり、このホバーバイクが使われていると推測できる。後はゲネシスの兵員輸送車だが、森林では運用できそうには作られていないようだったし、森林で使える兵員輸送用の軽車両という立ち位置ともいえる。
「で、森林にいるゲネシス兵を単に叩けばいいのか? 森林からいぶり出すのが目的なのか?」
トオルの問いは、怠そうにしていたアド総統とヘルマを感心させた。
肝心なところを言うまでも無く理解していたのかと、言いたそうな顔である。
「そうですね。この作戦はいぶり出しが目的です。森林に居座れている以上、帝国の砲兵は効力射をすることも出来ませんから。貴方達が森で盛大に暴れて、ゲネシス兵をポルスカ地方側へ誘導し、森から出た所を帝国の砲兵が砲撃を叩き込みます」
ヘルマから詳細な作戦説明を聞いたトオル達は、次にロシアのアンドロイド達と役割を話し合う。




