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第9話 一難去って

 

 トオルとラナリは、互いに打ち解けていた。

 言葉が通じないなりに、ジェスチャーを駆使し意思疎通をしたことが、実を結んだのだろう。

 

 トオルは、この小さな交流でラナリがとても肝の据わった娘だと思い至った。

 彼女は殺人容疑(冤罪であるが)の異邦人である、トオルの世話をするばかりか、打ち解けてしまうのだから、やはり肝が据わっていると言えるだろう。


 トオルは、他愛のないジェスチャー混じりの会話で、ラナリと笑いあっていた。

 そんな中、地上の方から悲鳴が上がった。それどころか、男達の怒号も独房まで届いている。

 

「おいおい、外が騒がしいな」


 トオルは、外を指さし「なんだ」と伝える。

 ジェスチャー付きの言葉であったため、彼女は意味を理解してくれた。

 

 ラナリは、首を横に振る。そして力強く頷き、立ち上がった。

 彼女は、何が起こっているのか確かめに向かってくれるようだ。

 

 トオルには、ラナリが「私にまかせて」と言っているように思えた。


 ラナリが階段へ向かったのと、ほぼ同時に誰かが階段を下りる音が聞こえる。

 その音の主を見たラナリが、短い悲鳴を上げた。


「おい! ラナリどうした!?」


 トオルは、鉄格子に顔を付けて外を見ると、そこには泥にまみれたキューがいた。

 そして、一連の悲鳴の原因を理解し納得して頷いた。キューの泥だらけの格好と、リミッター解除した事による紅い目が、幽鬼のような印象を誰の目にも与えるのは明白であった。


「トオル様、キューが助けに参りました」


「火葬されてなかったのか!」 

 

 トオルの表情が希望に満ちる。トオルは、これでこのクソみたいな状況が好転すると思った。


「鉄格子を切り取ります。トオル様は、後ろへ離れてください」


 さらに、腰を抜かしているラナリに視線を投げ「そこのあなたも、後ろへ離れてください。危ないですよ」と異星人達の言葉で指示を出す。


 キューの両腕の尺骨付近に切り込みが現れ、そこからブレード状の刃が展開される。 

 両刃が朱く熱を帯びた。キューの両腕のブレードによって、鉄格子が瞬時に切り取られる。

 続いて、キューがトオルを縛っている、手足の拘束具を両断する。


「キュー、良くやった」

 

 トオルは、キューもいる今なら異星人の彼らに、自分は無実であると弁明ができるだろう。


「トオル様、そちらの彼女は?」


「彼女? ああ、ラナリの事か」


 トオルは、独房から出ながら、驚いた表情で固まっているラナリを見る。

 尻もちをついているラナリのスカートから、白い下着が覗いていた。

 キューにラナリには短い間だったが世話になったと説明する。  


「それならば、お礼を申し上げねばなりませんね」


 トオルの説明を受けた、キューがラナリの方を向き深々とお辞儀をした。


「そうだ、俺のラーニングチップに彼らの言語をインストールしてくれないか? 今までジェスチャーで会話してたんだが、ものすごく大変でさ、そろそろ楽をしたい」


「了解。トオル様のラーニングチップに、彼らの言語をインストールします」


 トオルの言語野に、紫髪の異星人達の言語が流れ込む。

 それによってトオルは、ラナリが震える指で、キューを指さしながら喋っている内容も理解できた。


「あなたは、いったい何?」

 

 トオルは、キューに対して怯えている様子のラナリが可哀想だと思い、彼女を納得させる為、アンドロイドの事を簡単に説明する。


「えっとだな、キューの事を簡単に説明すると思考する便利な人形だよ」


 トオルは、我ながら理解しやすい説明が出来た、と内心ほくそ笑んだ。

 だが、ラナリはトオルが思っているほど合点がいってないようであった。


「思考する人形? 人形が思考するの?」


「キューがもっと解りやすく説明しますと、要するに喋る人形という事です」


「それ、俺が言った事とあんまり変わってなくないか?」トオルは、口を尖らせる。


「思考する人形と説明されて、文明の劣っている彼女が理解できると思いますか?」


 トオルは、泥まみれでボディスーツがボロボロの、キューに睨まれる。トオルには、その睨みが不時着してからの今までの悪循環に対する責めを内包しているように思えた。トオルは、その視線に居た堪れないのか顔を逸らす。


「俺が悪うござんした」トオルは恭しく頭を下げた。


 ラナリがしばし考え、やがて口を開いた。

 トオルとキューが喋っている間に、キューに対する恐怖心は消え失せたようだ。


「うーん、キューがどんな仕組みになっているのかとか、どうしてトオルが、急に私達の言葉を話せるようになったのか解らないけど――とても面白い人達だってのは分かったよ」


 ラナリの目はとても輝いている。彼女は期待に満ちた眼差し、そんな眼差しをトオルとキューの二人へ向けていた。


「どこらへんが面白いんだ? キュー、分かるか?」


「さあ? トオル様の顔ではないでしょうか」キューがしれっと言い放つ。


「ひでえ事言いやがるなこいつ」


 斯くしてトオルは、晴れやかな春日のような気持ちでキューを連れ、なぜか二人の後に付いてくるラナリと独房から抜け出すことに成功したのである。そして暗がりを抜け、地上へ続く重い扉を開けるとそこには――


 "完全武装をした異星人の男達が入口を包囲していた"


「キューよ、俺はいつになったら安定した安らぎを得られるのだろうか……」

 

 トオルはこの状況に対し、神妙な面持ちであった。


「お祓いにでも行きますか?」


 トオルは、キューの魅力的な提案に、是非そうしたいと本気で願いながら、両手を上げ異星人達の前へと進むのだった。


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