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第87話 木を隠すなら 後編


 避難誘導を行っていたラナリとマイヤー両名は、スレクトからの要請に駆け付けた帝国兵達を供って負傷者を救護すべく合流した。


 孤児や帝国民の負傷者は重傷五名、軽傷二八名で死者はいない。


 やはり負傷者を出して時間稼ぎをすることが目的だったようだ。


 トオル達は続々と救護に駆け付ける帝国兵達に民間人達の救護を任せ、工場区画へ向かう。


 その際、ラナリとマイヤー、スレクトの三名には負傷した民間人達の救護を命じた。


「……私が、待機? ……私の能力なら、確実に破壊出来るのに……?」


 マイヤーの能力は磁気操作。

 

 彼女が触れるあらゆるものに効果が及ぶ。


 その破壊力はゲネシスの車両相手に実証済みである。


 だが、雷槌マイヤーと武装親衛隊の仲間に渾名されているとおり、屋内で発揮するべき能力では無い。そんなことをしたら、エイトフラッグ号が内部から爆散して未曾有の大惨事が起こる。


 ナカジマもマイヤーが艦内で暴れたら堪ったもんじゃないと言わんばかりに、彼女の両肩を掴んで「ズィルちゃんは待機よ。大人しくここで負傷者を世話してて」と説得する。


「ならワタシは何故ついていっては駄目なんだ? 目の前で帝国民が傷つけられたんだぞ?」


 スレクトの両手が固く握られ小刻みに震えている。相当に頭に来ているらしいことは、一目瞭然であったが彼女は少尉といえど士官である。


 現場指揮を取れるのはスレクトしか居ない。


「お前は確か少尉だったろ、こう大事になった以上は救護の他にも避難誘導ももっと大々的にやる必要がある。だから、あいつらは俺達に任せて指揮を執ってくれ」


 トオル達はこの大捕り物を大事にはしたくなかった。


 それは嫌がるスレクトをわざわざ変装させて艦内に送り込んだように、孤児や帝国民達がパニックにならないよう細心の注意を払っていた。


 子どもを模したアンドロイドであっても、警備にあたる帝国兵は身分証明をする為に出自の証明となるものの提示を要求するはずであり、実際にその手の確認は行っていた。


 借りものであるから当たり前と言えば当たり前なことだが、だとしても考え得るのは協力者の存在だ。


 だからこそ、パニックにならないように細心の注意を払ったつもりだった。だが、あのアンドロイドは民間人に発砲するという禁じ手を犯してまで時間稼ぎをしなければならない理由があったのだ。強引な時間稼ぎをするほどのことが。


「ナカジマ、これから工場区画に入る前に聞きたいことがある」


「何よ、あいつらが作ってる奴の心当たりがあるんじゃないかって聞きたいの?」


 トオルとナカジマは強化戦闘服のヘルメットを展開し、左右に分かれて壁を背に立つ。


 そして、軍用アンドロイドが立て籠もっている工場区画の入り口で突入のタイミングを見計らっていた。


「……見たら成程って思うわよ。必ずね」


 ナカジマが、セーズに新たに掛けられたパスワードを解除するように命令する。


「あのアンドロイドが設定したパスワード……解除は容易ですが、これは」


 セーズが首を傾げて、解読したパスワードを入力する。


「”私がいないところで私が結婚していた”と”森を開けば木っ片が飛び散る”ロシアのことわざですね」


 セーズが「では、開けます。くれぐれも見た目に惑わされて油断されないように」と忠告しパネルを操作して工場区画のブラストドアを開いた。


 大きなブラストドアが上下に開き、工場区画の広々とした全貌を映す。


 ナカジマが手に持った野球ボールサイズのリモートカメラを投げ入れ、トオル達に内部の情報を送る。


 トオルのHUDにも視覚的に鮮明な情報が表示された。


 先ほどお医者さんごっこと称して民間人に発砲したリゼッテと、彼女と同じような容姿の軍用アンドロイドである。

 

 協力者のような存在は確認できない。


「……俺の思い過ごしか。ナカジマ、合図はどっちが出す? 俺かお前か」


 ナカジマがヘルメット越しに小さく笑い「トオルでしょ。一応は従軍経験あるんだし」と手をどうぞと差し出した。


 トオルは「よし」と呟くと合図を出そうと進めのサインを出そうとしたところでナカジマが思い出したように突然と注意事項を言った。


「あ、ごめんトオル。大事なこと伝えるの忘れてたわ。精密機械に誤射したら給料引くから注意してね。タダ働きになるから」


「……お前それ、今いう事か!? てか誤射したら奴隷契約確定かよ……!」


 トオルは乱された思考を元に戻して、キューとセーズに進めと指示を出す。


 トオルとナカジマは自動小銃を構え後を追う。


 トオル達の前にいるリゼッテ達は準備万端のようで、両手に折り畳み式短機関銃を携えていた。


 リゼッテの横にいる彼女と同じような容姿をした軍用アンドロイドが、恭しく頭を下げる。


「ごきげんよう。ミスタートオルと名前も知らないお姉さま。グレチェンはお二人に会えてとても嬉しいですわ。特にトオルさまは二度もユーリヤお姉さまを破壊したとか……」


 トオルはゴシックドレスに身を包んだリゼッテとグレチェンを見ながら、そっとキューとセーズに自分達の前に来るように命令する。


「キュー、奴らの弾丸を捌くのは任せる。痺れを切らして突っ込んで来たら、側面に回って食いついてくれ」


「ええ、トオル様は必ずキューが守りますから」


 キューが頷き、リゼッテとグレチェンが三〇発の弾倉を空にする勢いで発砲しながら、ゆっくりと距離を詰める。


 と、一気に跳躍し距離を詰めた。


 リゼッテは着地の瞬間にスカートの中からナイフを抜き出して、斬撃を繰り出す。


「……速い!」


 キューがブレードでナイフを弾き、そのままリゼッテと激しく斬り合った。


 ナカジマとセーズも似たようにグレチェンと至近で戦闘をしている。


「キュー、そのまま抑え込んでろ! 俺が側面に回り込む!」


 トオルは斬り合っているキューとリゼッテの側面に回り込み、リゼッテに対して弾丸を浴びせた。


 その弾丸をいとも簡単に避けつつ、キューとの斬り合いを続行し続けるリゼッテの顔は玩具を見つけた子どものように歓喜に満ちていた。


「騎士ごっこ楽しいわ! 貴女ボディだけ第六世代なのね! まるでフランケンシュタインの怪物ね!」


「どちらかと言うとキメラでしょう……ね!」


 熾烈を極める斬り合いをキューが横薙ぎにブレードを振り、リゼッテが軽やかに後転して避けた。


「トオル! そっちは!? こっちは当たる気配無いんだけど!」


 ナカジマも同じようにセーズと斬り合うグレチェンに発砲し続けているが、一向に当たる気配が感じられない。


「黙って狙って撃て! ……ショットガンでも担いで来るんだったっくそ!」


 弾倉が一つ空になり、素早く取り換えてまた撃つ。


 標的に当たる気配がないのが、弾倉を取り換える行為を無駄だと思えさせた。


「グレチェン交代しましょ!」


「ええ、勿論ですわ!」


 リゼッテとグレチェンが交差して交代し、グレチェンがキューに斬りつける。


 かなり動きが速い。ユーリヤの時は目で追うことが出来たトオルも、今回はHUDの助けがあるのにも関わらず、追うことが出来ない。


 凄まじく速い高速戦闘に目が回りそうである。


「……むう、決着が付かない騎士ごっこは飽きてしまいましたわ」


 グレチェンとリゼッテが後ろへ大きく跳躍し、姿を消した。


 光学迷彩である。これはユーリヤも昔、惑星カルセムでやって見せた芸当だ。


 さっきまでの剣戟の音と銃声が止み、静寂が訪れる。


 トオルもナカジマも息を飲んで、上下左右を確認し目を凝らしてHUDに一瞬だけ映し出される姿を探す。

 

「ナカジマ、俺のところまで来てくれ。あまり離れていないほうが安全だ」


 ナカジマが震えた声で「ええ」と答え、ゆっくりと警戒しながらトオルの横につく。


「リゼッテ達を見つけることが出来るかしら? 出来なかったら首を切られるわよ?」


「昔話の逆ですわリゼッテ姉さま」


 リゼッテとグレチェンがくすくすと笑い合い、また静かになった。


「キュー、セーズ見えるか?」


「いえ、トオル様。残念ながら高度なジャミングでキュー達の索敵を妨害しています。キューもセーズも視覚に頼るしかありません」


 キューとセーズも空間に溶け込んだリゼッテ達を見つけられない。


 ふと一瞬、トオルの近くで空気が動いた気がした。


「ナカジマ!」


 トオルがナカジマの襟首を掴んで後ろに引き倒す。


 一瞬映ったリゼッテの斬撃がナカジマの首を掠めて、また消えた。


「……あっぶな!」


 尻もちをついたナカジマが驚きの余り座り込む。


「トオル様! 直上です!」


 トオルの真上の天井からグレチェンが一気にナイフを手に突っ込み、とっさに頭部を防御したトオルの左腕に刃が貫通した。


「……あ、つぅ!」


 トオルは痛みでバチバチと脳が反応を起こすが耐え、刺された左腕を右に思いっ切り引き込みグレチェンの左足を右足で刈って、大きくバランスを崩したところを組み伏せた。


「……やっと捕まえたぞ。クソガキ」


 うつ伏せに組み伏せられたグレチェンが、信じられないという顔を見せた。


「咄嗟に組み伏せるなんて魔法みたいだわ……! リゼッテ姉さま、助け――リゼッテ姉さま!」


 グレチェンがリゼッテに助けを請うが、当のリゼッテは既にキューとセーズにより同じように組み伏せられていた。


 二人掛かりで抑え込まれているリゼッテが、不満の声を上げて二人掛かりは卑怯だと糾弾した。


「二人掛かりで何て大人げないですわ!」


 リゼッテが足をバタつかせるが、その足でさえセーズに思いっ切り踏まれて固定された。


 大人しくなったリゼッテ達にナカジマが近づく。形容しがたい鬼の形相だ。


「んで、これからスクラップ行きになる訳だけど最後に言いたいことある?」


 ナカジマの顔を見たリゼッテが突然泣き始め、グレチェンも釣られて泣き始めた。


 子どもが親に怒られて泣く姿そのままの二人を見たナカジマが「泣くの止めろ! わたしらが悪役みたいでしょうが!」と怒鳴り散らした。


 傍から見るとドメスティックでバイオレンスな母親が、子どもを暴力で躾けようとしているようにも見える光景に、トオルは何とも言えない気分に陥った。


「トオル様、どうしますか? 破壊するなら彼女達の頭をバックアップ出来ないように縦に割りますが」


 キューはトオルが負傷したことに腹を立てているのか、容赦のない言動になっていた。


「嫌よ! まだ死にたくないわ! 子どもを殺すなんて人でなしよ!」


 リゼッテが悲痛に叫ぶがナカジマの「人でないのはあんたらでしょうが!」と一喝され涙を沢山溜めたまま黙った。


 トオルは大きく息を吸って吐き出した。


 これから下す判断は正しいのかと反復させる。


「……キュー、破壊するのは無しだ」


 トオルの下した決断にナカジマが「はあ!?」と大きく声を荒げる。


「あんたまた頭おかしくなってんじゃないの? こいつら人じゃなくてロボットよ? しかも人を殺すのに抵抗のない敵よ? それでも助けるって言うの?」


 ナカジマが「冗談じゃないわ!」と吐き捨てるように言った。


 リゼッテとグレチェンは、お互いが助かることに安堵したのかお互いに顔を見合わせて喜んでいる。


 二人の笑顔はすぐに次のトオルの言葉で変わってしまう。


「アンドロイド全般は初期化が出来たよな? 不良品が出た時の初期化コードが」


 トオルが抑えているグレチェンが「みんなのことを忘れちゃうなんて嫌よ! そんなの悲しすぎるわ! リゼッテ姉さまとの記憶を消されるのは嫌!」と泣き叫ぶ。


「トオル様、素直にアクセスさせるとは思えませんが……」


 キューが最もな難色を示す。アンドロイドの人生が詰まった宝とも言える、記憶の生殺与奪を握ったコードへのアクセスは絶対に拒否するだろう。


「全てを消すわけじゃない。お前のリゼッテに関する記憶は残すし、リゼッテにもお前に関する記憶は消さない。だが、二人の指揮権はセーズに渡して身柄は帝国に預ける」


「……それでも嫌よ!」とグレチェン。


「死んでも守りたいのか? その記憶を」


 グレチェンが少し考え込んで「貴方だったらどうするの?」とトオルに逆に問いかけた。


 トオルは少し考え、やがて「俺だったら生きてるほうがましだ。大事な人がまだ生きてるなら尚更、俺は生きている方がましだ」と思ったことをそのまま伝えた。


「なら大事な人が死んでいたら?」


 グレチェンが興味津々で尋ねる。


 トオルはそれに「それは判らん。だが、お前の場合は違うだろ」と答えた。


 グレチェンは意を決してリゼッテに話し掛けた。


「リゼッテ姉さま。グレチェンは決めました。グレチェン達は既にお父様への義理は果たしました。ですから、一緒に一から始めましょう」


「そうねグレチェン。リゼッテもそう思うわ」


 リゼッテとグレチェンが、セーズに初期化コードのパスワードを伝えた。


「”ヘンゼルとグレーテル”了解。……何とも皮肉なパスワードですね」


 セーズが笑う。


「ええ、ほんと皮肉だわ。ドイツみたいな場所で、ロシアのアンドロイドが”ヘンゼルとグレーテル”なんて皮肉の極みだわ」


 リゼッテとグレチェンは、静かに目を閉じて眠ったように動かなくなった。


 それから三日後、リゼッテとグレチェンは帝国のとある収容所で静かに大人しくしていた。セーズに二人の指揮権が握られている為、脱獄しようともしなかった。


「トオル、ほんとにあれで良かったの? あいつらが作ってた代物を見てもそう思える?」


 トオルは予定よりも早く返還されたエイトフラッグ号の工場区画でナカジマと一緒にいた。トオルの前に差し出された、透明な籠手のようなハイテク機器には、リゼッテ達が集めた武装親衛隊の血液が入った採血管がカートリッジのように接続されている。


 これは体内にナノマシンが無い普通の兵士でも、超能力を発揮できるようにする武器だった。


 手元にあったのは試作品だったが、設計図のデータは既に他のアンドロイドへ送られていた。


「あれは俺の問題だ。どうしても子どもは殺せなかった。それが作り物でもな」


「彼女達を造った人は今頃喜んでいるでしょうね。設計通りに効果を発揮したってね」


 ナカジマがトオルに嫌味を言った後、腰に手を当てて視線を落とす。


「でもまあ、責めるつもりはもう無いわ。トオルの判断が正しいのかも知れないし、それにトオルの言っているように子どもを殺すのは、わたしも気が引けたし」


 ナカジマがそう言って手を差し伸べる。


「何だその手」


「包帯を変えてあげるって言ってんのよ。あんた覚醒したっていう割には、完全に傷が塞がり切って無いみたいだし」


「左様で」


 こうして武装親衛隊を狙った誘拐や殺人は一応の終息を見せた。


双子のアンドロイド編終わり

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