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第84話 木を隠すなら 中編その1


 エイトフラッグ号の艦内にて、鼻歌を歌って楽しそうに手をつないで踊っている二人の幼い女の子がいた。


 可憐なゴシックドレスで着飾った二人は双子で、二人とも金髪の緩いショートヘアで年齢は十歳ほどである。


 唯一違うところは姉は右目が赤で左目が青のオッドアイで、妹はその逆であった。


 二人とも見る者を魅了する不思議な魅力があった。仕草の端々に計算尽くされたかのように父性や母性を刺激させた。


 だが、その妖精のような二人の正体は人間ではない。暗殺特化の第六世代型の軍用アンドロイドだ。


 楽しそうにダンスをする二人の後ろには、椅子に括り付けられた男性の武装親衛隊の遺体があった。遺体の傍らには被害者の血が入った採血管が小山を作っている。


「ねえグレチェン。今日も献血をしてくれた優しいおじさまが来てくれてリゼッテはとっても嬉しいわ」


 リゼッテが小さな花が咲くような微笑を浮かべた。どこか妖艶さも見える笑顔は、きっと遺体の主を虜にしたのだろう。小鳥のさえずるような愛らしい声も、一役買ったのは間違いない。


「そうねリゼッテ姉さま。死んじゃうほど献血をしてくれた優しいおじさまだったわ。でも、リゼッテ姉さまのお尻を触った時は殺そうかと思っちゃったわ」


 グレチェンもリゼッテと同じように微笑んだ後、遺体の主が生前に行った淫行に対して口をとがらせて怒った。


 むっと口を結んだグレチェンを見たリゼッテがくすくすと笑う。


 そしてグレチェンを引き寄せて「大丈夫よグレチェン。リゼッテは貴女のものよ」と妖しく囁いた。


 それに気分を良くしたグレチェンがリゼッテに抱き着いた。


「グレチェンもリゼッテ姉さまのものよ。だから必ず二人で宇宙にいるお父様の計画を成功させるんですから……!」


 傍から見れば仲睦まじい本当の双子姉妹のようだが、彼女達の専門は暗殺と破壊工作、そして超精密なハイテク機器の製造である。


 戦闘能力も凄まじく、軍用アンドロイドの標準装備である尺骨に格納されたブレードこそないが、その分身軽さを生かした折り畳み式短機関銃とナイフを用いた高速戦闘は他の第六世代型を圧倒するほどである。


 そんなリゼッテとグレチェンは華やかなダンスを止め、無償で血液を提供してくれる心優しい武装親衛隊を探しに、エイトフラッグ号の艦内をしっかりと手をつないで歩き始めた。


「ねえグレチェン。ユーリヤお姉さまも可哀想だと思わない? 二回も同じ男に振られて壊されちゃうなんて悲劇だと思うわ」


 リゼッテが孤児や家の無い帝国民で溢れかえった廊下を歩きながら、ユーリヤの不憫さを嘆いた。


「リゼッテ姉さま、あれは片思いは実らないという教訓をユーリヤお姉さまは伝えたかったのだと思いますわ」

 

 グレチェンもユーリヤを偲んだ表情を見せた。言っていることはあれだが、二人は本気でこう思っていたのだ。


 二人の電脳は、ボディを幼い少女の姿を模したように思考もまたそれに準じている。


 双子の二人が手をつなぎながらぶらぶらと艦内を歩いていると、エイトフラッグ号の工場区画の入り口に辿りついた。


 二人の目の前には帝国の武装親衛隊の男が二人、門番のように立っている。


「お嬢ちゃん。ここから先は重要区画だから”不滅の御旗"さん以外は立ち入り禁止なんだ」


 リゼッテが優しく諭すような物言いの武装親衛隊に対して魅力的な笑顔を見せた後、目を細める。


「あら、そういってお兄さまはリゼッテ達がいなくなった後にこっそりと入っているのでしょう? この中には、美味しいお菓子で出来たおうちがあるに違いないわ」

 

 リゼッテの可愛らしい疑いに、武装親衛隊の男は顔を綻ばせた。


「残念だけどお嬢ちゃん、電子錠って奴で厳重に閉まってるんだ。俺でも入ることは出来ないのさ」


 グレチェンがゴシックドレスのスカートの裾を上げて恭しく一礼した。


「ご親切にありがとう、お兄さま。……リゼッテ姉さま、グレチェンは次の愉しい遊びを思いつきましたわ。ですからお部屋に戻りましょう?」


「あら奇遇ねグレチェン。リゼッテも愉しい遊びを思いついたわ。楽しい楽しい隠れんぼよ」


 二人は工場区画から離れて、鼻歌を歌いながら部屋に戻った。


 そして二人は夜を待つ。


 夜が来て二人は再び工場区画の入り口まで静かに移動した。二人の手には逆手にナイフが握られている。


「くっそ眠い。今夜の寝ずの番が俺なんてついてねえや……んでも昼頃に来た天使は素敵だったな」


 工場区画の入り口で睡魔と戦っている武装親衛隊の男がいた。


 そして昼頃にもいた、この男はリゼッテとグレチェンの可愛らしさを思い出してニヤけるのだった。


 ふと、男の肩が叩かれる。


 男が振り返ると昼間に迷い込んだ天使達がいた。まるで夢のようである。


「お兄さま、リゼッテ達と一緒に隠れんぼをしましょう? お兄さまが隠れる役よ。……誰にも見つかっては駄目よ。誰にもね」


 男がきょとんとする。


 だが、突然訪れた頸椎の激痛に眠気が飛んだ直後、力なく倒れた。


 男は自分が死んだことも分からず死んだ。


「リゼッテ姉さま、はやく親切なお兄さまに隠れてもらいましょう? グレチェン達のお部屋なら、おじさまと一緒だからきっと寂しくないはずだわ」


「隠れんぼは隠れている時が一番寂しいものね。グレチェン、リゼッテがお兄さまを連れて行っている間に、このお部屋にお邪魔できるかしら?」


「ええ、任せて。こんな鍵なんてすぐにグレチェンが開けちゃうもの」


 グレチェンが宣言通りに、セーズが施した何億とあるパターンで作られたパスワードを五分も掛からず突破した。


 そして二人は計画を実行するべく、エイトフラッグ号の工場区画に侵入したのである。


折り畳み式短機関銃はFMG-9をイメージしてもらえれば。

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