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第8話 キュー リローデッド

 

 キューは、暗闇の中で再起動した。なぜかボディの存在を感じる。

 どうやらキューの頭部は、機能を停止していた間に、ボディと連結していたようだ。

 今の状態であれば、存分にアンドロイドとしての性能が発揮できるだろう。


 キューは、今いる地形を把握するため、スキャンを開始する。

 そして、その結果を疑問に思った。

 

 なぜ、木製の箱の中にいるのか? その箱ごと土に埋められているのだろうか?

 だが幸いにも、この近くにキューの所有者であるトオルの電波を受信できた。


 機能停止する前の状況から推測するに、トオルは異星人に捕縛された可能性が高い。

 キューは、土に埋められた木の箱から脱出するべく、行動を開始する。


「――まずはここから出なくては」


 木の箱を躊躇なく膝で蹴りあげ、殴り、破壊する。

 拳大の穴は開くのだが、一向に脱出できそうになかった。

 

 キューは、今以上のパワーを発揮するため、リミッターを解除する。

 

 キューの両眼が紅く輝いた。


「――っ!!」

 

 木の箱を、力を込めた拳で地面ごと破壊した。

 木箱の破片と土が鉄砲水が吹き上がるかの如く、勢いよく吹きあがる。


「これなら脱出が出来ますね」


 キューは、吹きあがった土砂の雨の中、無表情で穴から這い出た。

 穴から這いずる様は、まるでチープなゾンビ映画のようである。


 土から這いずるキューと、不幸にも居合わせてしまった異星人の女性は、ホラー映画のような悲鳴を上げ、一目散に逃げ去ってしまった。しかしキューは、悲鳴を意に介さず無表情のまま街へと進む。

 

 黄色い悲鳴を聞いた異星人達が、街はずれにある墓地に集まってきた。

 キューの前に集まった異星人達は皆、この光景が信じられないという顔だ。


「言語の解析を継続」


 集まった異星人達の言語から、繰り返される言葉を重点的に集める。広範囲の音声を集めて、


 「亡者」「少女」「墓」「生き返る」「化け物」「疑問」「殺される」「殺された」「助け」「急げ」

 「逃げろ」「呼ぶ」


 デュアルコア量子CPUである、キューの電脳は異星人達の言葉のニュアンスを理解した。彼らの感情、表情、場面も情報に加えて解析精度を上げていく。


 キューが行った解析方法は、トオルが彼らに捕まる前に行ったものと同じである。


「殺された少女が生き返ったぞ!」


「きっと亡者だわ!」


「あいつはいったいなんなんだ!」

 

 キューは、異星人達の言語を解析したが、亡者などいったい何所にいるのだろうかと疑問がまた浮かぶ。彼女は、泥だらけのボロボロな衣類と相まって亡霊のような生者とは思えない雰囲気を醸し出していたのだが、彼女自身はそれを理解していなかった。


 キューは、墓地から街へとたどり着く。キューがロネの街の石壁を飛び越え、街中へ入った途端、騒ぎが大きくなった。槍を持った異星人の男が、集まった衆人の奥から現れキューの前に立つ。

 

 目の前の彼はこの街の衛兵だろう。


「止まれ!」異星人の衛兵がキューを呼び止める。


 異星人の衛兵は、どこか怯えているようだ。

 異星人の言語の解析を不完全ながらも終えたキューは、彼らの言語で話し掛けた。

 

「キュー 急ぐ 行きたい」

 

 キューを呼び止めた彼は、キューが自分達の言語を喋った途端に、怯えの色が強くなる。 

 彼は、キューが目の前から歩き去るまで棒のように立ち尽くし固まっていた。そして、彼は最後まで歩き出すキューを止める事が出来なかった。


 キューは、歩き続ける。周囲は街の中心部へと風景を変えていた。

 街に入ってからも聞こえる言葉は全部拾って電脳を大車輪で廻し、キューは言語解析を続ける。


「衛兵」「独房」「止まれ」「応援」「行け」「元へ」「隊長」「アルバ」「止めろ」「走れ」「避難」「敵」「馬車」「包囲」

 

 以上の言葉が繰り返し聞こえ、キューは言語の解析を続ける。


 中心部の風景は、白壁に赤色の木組みの家々が立ち並び、朱色の煉瓦と石畳とのコントラストが、とても美麗であった。商店も多く並んでおり、どの店も活気づいている。

 さらに、行き交う人々の煌びやかな服飾が、この街が裕福である事を裏付けた。

 

 ただし、今はキューのゾンビじみた姿を見て逃げ出す人々ばかりである。


「トオル様の現在地は……ここから北東の地下ですね」


 キューは、電波を受信しトオルの現在地を特定した。

 それと同時に、トオルの置かれている状況も理解した。

 

 やはりトオルは、キューの推測通り異星人達に捕縛されたようだ。


 キューが、北東の地下の入り口へと向かう途中、異星人の衛兵達に囲まれた。

 彼らの手には槍や長剣を携えていた。彼らは、とても興奮しており敵意も感じられる。


「そこの女止まれ!」


 その中の隊長らしき異星人の男が長剣に手をかけ、キューに命令する。


 キューの言葉は先ほどよりも精度が増していた。


「キューは、トオル様の、元へと、行かねば、なりません」


「止まれと言っている!」


 隊長らしき異星人の男は、自身の役割を全うするべく一歩も引かない。先ほどの衛兵とは違い、この仕事に誇りを持っているようだった。キューは、彼との問答が時間の無駄だと判断したのか隊長らしき異星人の男を殺さないように力を加減し、体を正面に向けたまま蹴り飛ばした。

 

「うぐぉえっ!」

 

 隊長らしき異星人の男は、キューの怪力によって吹っ飛ぶ。吹っ飛んだ先にあった果物棚が粉砕され、色とりどりの果物が散乱した。異星人の衛兵達は、隊長に駆け寄る者もいたが、大半は戦意を失い逃亡していた。乱闘の一部始終を目撃した異星人達の色取り取りの悲鳴がロネの街に響く。


 キューは、その悲鳴を気にせず淡々と進み、トオルが幽閉されているであろう独房の入口近くに来た。 

 

 そして、トオルがいる独房へと歩いていく――


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