第79話 記憶の目覚め 後編
キューとユーリヤは目まぐるしく攻守を変えながらブレードで斬り合う。生身の人間には目で追うことは出来ないが、彼女達軍用アンドロイドには敵と己のブレードの剣筋がはっきりと見えている。
だからこそ、数百を超える打合いの中でたった一世代の性能差が、少しずつ絨毯の上の血糊のように広がっていく。
キューの反応がコンマ一秒、コンマ二秒と遅れ、確実に押されていった。
「連合政府は酷なことをするとは思いませんか? 死んだ恋人と同じ容姿のアンドロイドを使って騙すなんて祖国でも思いつかないことです」
ユーリヤの投げかけた言葉にキューの防御が一際大きく遅れた。そして、左腕のブレードがキューの華奢なボディを貫き、貫いたままキューを引き寄せて囁く。
「大口を叩いた割には、あっという間にゴミ箱行きになりましたね」
「……貴女こそ油断する癖が修理しても治らなかったなんて可哀想に」
キューが最期の力を振り絞ってユーリヤの左腕を掴む。
「後ろを見たほうが良いですよコミーのポンコツさん」
不敵に笑うキューの緑眼には、血だまりの中で立ち上がってマテバを構えるトオルがいた。
その光景にユーリヤが驚き一瞬固まる。
「……おかしいですね。貴方の左足は骨まで断ったはずなのですが……なぜ繋がっているんです? 貴方は化け物ですか?」
「俺にも解らん。だが、分かる事は前がセイを殺してギルやブライも殺したってことだ」
キューがトオルに微笑みかける。
その微笑みが、トオルの中でセイの面影と重なることは最早無い。
「トオル様……記憶が正常に戻られたのですね……本当に……良かった」
「ああ、お前の刺し貫かれた姿がセイと重なったんだ。おかげで忘れていたことを思い出せたよ。……ありがとな。今は少し休んでいてくれ」
キューが安心したように笑みを浮かべて眼を閉じた。
ユーリヤがキューを打ち棄てる。
キューはただの人形のように地面に転がった。
「……なるほど、貴方の血に混ざっている物こそが祖国や政府が欲している物なのですね」
ユーリヤが両腕のブレードを構え直す。
トオルとの間合いを一気に詰めて斬りあげた。
トオルが最小の動きで躱し、グリップを左手で右手を包みこむように保持し、ひじを曲げ体へ引きつけて二発発砲した。
ユーリヤがリアクターを損傷しながらも、なお踏み込みブレードを斜めに振り下ろす。
トオルはそれすらも簡単に躱し、顔の前で斜めに構えたマテバを左目のみで照準し、二発の弾丸をユーリヤの頭部に叩き込んだ。
「……人間風情がユーリヤの攻撃を二度も躱す? ……化け物ですね」
膝をつくユーリヤの半壊した頭部にトオルが銃口を向ける。
「悪いな。何故か視えるんだよ。お前の動きが手に取るように判るんだ。……次にお前がどう動くかってのも……な」
トオルがゆっくりとユーリヤに近づく。
一歩、二歩と近づいた瞬間にユーリヤが横に飛び、トオルの側面から斬りかかる。
虚を突かれたはずのトオルは、吸い寄せられるようにマテバの銃口をユーリヤの眉間でぴったりと付けていた。
一発の乾いた発砲音が通りに響く。




