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第78話 記憶の目覚め 前編


 小雨が振り出しそうな、薄暗いベルリナ市街地にて。


「あんた、トオルの記憶を戻すことに決めたの?」


 ナカジマがキューに問いかける。トオルの記憶を戻すということ。それはキューが一番恐れていたことでもある。


「キューは決めました。例え、記憶に絶望し、それが切っ掛けでナノマシンが覚醒しようとも、トオル様の命を狙うユーリヤを破壊するにはそれしか方法はありません」


 ナカジマが顔を陰らせ、トオルとキューの未来を推測した。


 「その方法はあんたがユーリヤに壊されること前提よね。それに覚醒したとして待ってるのは太陽系連合政府による強制収容。生きながら血だけ採取される続ける地獄でしょう」


 セーズがナカジマの言葉に続ける。


「トオル様が真実を知ったら、きっと政府に拘束されることが解っていてもステーション・タウに戻ると言うでしょうね。あの方は一途で優しいですから」


「……それでも、キューはトオル様の記憶を戻すと決めました。例え破壊されようとも、騙していた罰だと受け入れるでしょう」


 ナカジマが頷く。ナカジマとセーズは、トオルの記憶が戻ることを前々から望んでいたからだ。

 彼の記憶が戻ること、そして覚醒することはナカジマにとっても重要なファクターであり、ナカジマの目的を達することにトオルの覚醒がどうしても必要だった。

 

 だが、ナカジマは純粋に仲間である彼の手助けもしたいと思うようにもなっていた。


「なら、わたし達も手伝うわ。トオルのことを純粋に助けたいとも思っていたし」


 握手を交わそうとしたナカジマの手をキューが握る。


「貴女達の本当の目的が未だに解りませんが、今回だけは頼らせていただきます」


 キューとナカジマが握手を交わす。


 ふと、建物の屋根を駆け飛びて走る金髪のアンドロイドの一群がキューの視界に入った。ユーリヤ達である。数は一四体ほど、ユーリヤの他にフェオドラの姿もあった。


 そして、こちらを感知したフェオドラを含めた十名ほどが飛び降りた。


「あの腐れダッチ共はわたし達が相手するから、あんたはさっさとトオルの所へ行けばいいわ」


 ナカジマが濃い青の強化戦闘服のヘルメットを展開し、ブルパップ式自動小銃を構えた。


 セーズも両腕の尺骨からブレードを展開させて臨戦態勢を取る。


「さあ、早く行ってください。大丈夫、ナカジマとセーズは死にはしません」


 キューが少し申し訳なさそうな顔をした。そしてトオルの元へと小雨の中を疾駆する。


***


 トオルはユーリヤと対峙していた。ユーリヤの狂気を秘めた笑顔がトオルの記憶を刺激する。


 トオルの後頭部に、刃物で刺されたような熱を帯びた激痛が走る。トオルは余りの痛さに顔を歪ませた。


 目の前のアンドロイドを俺は知っている。あの時、確かに破壊したはずのアンドロイドだ。なのに何故ここにいるのか? トオルは心の中で疑問を反復させる。


「お前はカルセムの……!」


 ユーリヤが「覚えていてくれたんですね。ユーリヤはとても感激しました」と顔を綻ばせて喜んだ。ユーリヤの手を合わせて頬に添えた可愛い仕草が、トオルの鼻につく。


「ユーリヤはあの時からずっっっと、ずうっっっと、貴方を探していたんですよ。虫けら同然の人間が第六世代のユーリヤを打ち負かすなんて……屈辱でしたから」


 ユーリヤがトオルの視界から消えた。強化戦闘服も着ていない、HUDの補助も強化外骨格によるパワーアシストも得られないトオルの目ではユーリヤの動きを捉えることが出来ない。


 まるで亡霊を相手にしているような錯覚さえある。


「……クソッ!」


 トオルがマテバをホルスターから抜く。


「遅いですよ」


 ユーリヤのブレードがトオルの左足を切り裂いた。肉が切り裂かれ骨が断たれる。


「あ゛っぐぁ……!?」


 地にへばり付くトオルをユーリヤが感情の無い眼で見降ろした。口元だけ笑顔を作ったユーリヤがゆっくりとトオルに近づく。


「これでユーリヤの"復讐"は終わります。やっとまともにスリープ出来そうです」


 必死に左足を止血しようと両手で押さえるトオルに、ユーリヤは語り掛ける。


「でも、貴方はユーリヤに感謝するべきなのですよ? 恋人達とまた一緒に暮らせるのですから"ユーリヤありがとう。ユーリヤは俺の救世主だ”ぐらいは最期に聞かせて欲しいです」


 ユーリヤが笑いを堪えきれずに手で口を覆った。ユーリヤの笑い声が辺りに響く。


「声も出せないなんて……ユーリヤが救ってあげますね――」


 ユーリヤがブレードを振り下ろす。


 刹那、火花が散った。黒髪ショートボブのトオルには見慣れた少女が立っていた。


「……トオル様、今すぐキューが助けますから」


 キューがトオルを横目で見る。血だまりが出来つつあるトオルを見たキューの緑眼が明確な怒りを帯びた。作り物の眼から生きた怒りの感情がキューに芽生えている。


「お前だけは許せない。お前がいなければ……トオル様は今頃、幸せな日々を送っていた。……だから、キューは、私はお前を破壊する」


 ユーリヤがキューの啖呵に「っぷ」と噴き出した。


「第五世代ごときがユーリヤを破壊する? ナイスジョークです」


 キューとユーリヤがお互いのブレードで激しく斬り合った。幾重もの剣戟の音が反響し、火花が雨を蒸発させる。


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