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第76話 新手 後編

 

 スレクトとマイヤーが、迎賓館入口でナカジマを待っていた。武装親衛隊の二人は、肩に小銃を引っ提げて険しい顔をしていた。


「待たせたわね。それでスレクト、話って何?」


 ナカジマが来るなり、険しい顔を増したスレクトが「武装親衛隊が四名行方不明になった。心当たりは無いか?」と質問した。


 帝国の武装親衛隊。彼らは遺跡の聖遺物に触れることで、体内のナノマシンが覚醒し超人的な力を得た兵士だ。


 そのような人の限界を超えた彼らが行方不明になるとしたら、考えられることは片手で数えられるぐらいしか無い。


「……ゲネシスとの戦闘があって行方不明にって訳じゃなさそうよね」


 スレクトがナカジマの推測に「そうだ」と肯定する。ゲネシスとの戦闘によるものでは無いとしたら、後は一つしか無い。


「それでナカジマ、心当たりはあるか?」


 ナカジマは答えるべきか迷った。人類に対して友好的な感情を持っている帝国に、ナカジマが見出した答えを伝えたら、人類恐怖症が帝国民の間で生まれかねないからである。


 だが、帝国の可愛らしい総統が聡明な人物だと信じた上で、持っている情報を伝えることを決めた。


「心当たりはあるわ。信憑性は、わたし達も先日遭遇したから有ると思ってちょうだい」


 ナカジマが一呼吸おいて「武装親衛隊を襲ったのは、わたし達とは違う国の第六世代型軍用アンドロイド。そして、その目的は、帝国が"覚醒者"と呼ぶ者達の力を祖国の為に持ち帰ること。目的達成の為には、手段を問わず、老若男女の区別も無く、無慈悲に残酷に」とこれまで自分が見てきたかのように、淡々と質問に答えた。


 スレクトが唇を噛む。


「ワタシは人類は皆、友好的だと思っていた。トオルのようにナカジマのように。……一枚岩では無かったのだな。人類の中には我々に敵対する者もいる、か」


「人類は決して善人集団では無いからね。ずっと戦争ばっかりしてたし、カディア族っていう異星人を見つけたときは、彼らの許可を得ずに勝手に入植して、それが種族間の亀裂の元になって、終いには大勢が死ぬことになったわ。……地球でも似たようなことやって憎しみ合ってきたのに、人類ってのはどうしようも無い生き物よ」


 ナカジマの脳裏には記憶を弄られ、混濁し、キューを恋人だと思い込んでいるトオルの姿が浮かんで消えた。


 彼の存在も、人類には暗い側面があることの証明である。


「……そうか。この情報は至急、総統閣下へ伝えて敵対したアンドロイドへの対策を講じることになるだろう。全面的に戦うことになったら、トオルやナカジマ達にも助力を請うだろうが、問題ないな?」


 ナカジマは両手を上げて「喜んで」とおどけて見せた。


「……でも、トオルは無理」


 ずっと黙って、ナカジマとスレクトの話を聞いていたマイヤーが"トオルは無理"という言葉に反応しナカジマに詰め寄った。


「……トオルが無理って……何で?」


 ナカジマは、トオルの置かれている状況を二人に伝えるべきか苦慮した。トオルの個人的な問題でもあるし、何よりナカジマは他人の不幸を喜ぶ性格ではないし、言いふらす趣味もない。


「……ごめん。言えないし、何より言いたくない」


 マイヤーが無表情が一瞬だけ苛立ちを見せた。ゼロコンマ何秒といったところだが、ナカジマは気が付いた。


「マイヤー、トオルのことになると熱くなるのは結構だが、この話は誰も彼もが聞いていい話では無い」


 ナカジマは、スレクトが事情を知っていることに驚く。


「スレクト、あなた何で知ってるの?」


 スレクトが静かに首を横に振り「いや、キューから聞いたんだ。自分の頭に延々とトオルの切り取られた記憶が流れるのは辛いとな。まあ、ワタシの憶測も入っているが」とナカジマとスレクトだけしか理解できないように話した。


 二人だけが分かる話を、スレクトの隣で聞いていたマイヤーが顔をムッとさせた。


「……二人だけしか分からない話は……ずるい」


 スレクトがマイヤーの珍しいむくれ面を見て、快活に一笑する。


「では我々は、この情報を伝えに戻るが……最後に、トオルが今どのあたりにいるかぐらいは教えてはくれないだろうか?」


「まあ、それぐらいならね。トオルはキューと二人で、帝国の白黒映画を見に出かけたわ。だから、ベルリナの街を歩いてると思う」


 スレクトは、トオルとキューが一緒にいることに安心したようで顔を緩ませた。


「ご協力感謝する。ワタシとマイヤーが正式にそちらに参加するのは、行方不明の武装親衛隊が見つかってからだと思っておいてくれ。それではまた会おう」


 スレクトはナカジマに謝辞を述べると、マイヤーを連れてベルリナの街へと歩いて行った。二人を見送ったナカジマは、自室へと戻った。


 トオルとキューが仲良く手をつないで戻ったのは、その日の夕刻であった。


 トオルの回復の兆候は未だに見られず、キューも傍目から見る限りでは日に日に表情が曇っていくのが分かる。


 彼が回復する一抹の望みがあるとすれば、仇討ちを本人にさせるという一点だが、相手は海兵隊の小隊を殲滅し、トップクラスの成績を誇ったトオル達の班を壊滅せしめたユーリヤである。


 荷が勝ち過ぎている。トオルが一人で勝てる相手ではない。セーズでさえ、良くて相打ちか、力負けするだろうと簡単に想像がつく。


「トオルには悪いけど……わたしじゃどうしようも無い。無理やり本当の記憶を戻しても……きっと、もっと酷く壊れてしまう」


 ナカジマは、友人一人さえ救えないのかと己の無力を呪った。


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