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第7話 First contact&First imprisonment 後編

 

 トオルの独房生活二日目の朝は、空腹で目が覚めたところから始まった。

 

 トオルは、よくよく不時着してからの行動を思い返してみると、一昨日の夜から、口にしたのは水だけであった。こんなことなら、ちゃんと携帯食料を食べておけばよかったと後悔する。

 

「またあの子が来てくれればなぁ」


 トオルは、昨日一度だけ、顔を覗かせていた異星人の少女のことを考える。

 見た感じ好奇心旺盛な年頃のようであったから、意思疎通が期待できそうだ。

 

 トオルにとって、昨日顔を合わせた異星人の少女こそが、救世主に成り得る存在になっていた。

 しかし、どうやって意思疎通を図ればよいのだろうかと、トオルの頭に至極単純な疑問が浮かぶ。


「うーむ……」

 

 トオルは、体育座りのような格好で、首を垂れて長考する。


 ここにキューがいてくれれば、脳内のラーニングチップに、直接彼らの言語をインストールしてくれるのだが、キューがどうなっているのか知る由もないトオルにとって、この方法は有用な選択肢ではない。

 

 トオルには、身振り手振りで意思疎通する方法しか思いつかなかった。


「ジェスチャーでなんとかやってみるか」


 異星人の少女との意思疎通の方法は決まった。

 トオルの腹は、軽く頭を使ったせいか盛大に鳴り独房に響いた。


 トオルは視線を感じ、ふと顔を上げる。

 目の前には昨日の異星人の少女が、食事を持って立っていた。

 

 昨日、壁に隠れて見えなかった服装は、白いブラウスのようなものに、印象的な金の刺繍が入った服だった。ひざ丈より短い青碧色のスカートにもまた、同じような金の刺繍と横線模様が施されていた。

 

 どこか気品が感じられる姿であった。そして胸はそこそこ豊満だった。少なくともキューの貧相なボディよりはある。

 

 異星人の少女は、床に食事を置く。その食事は、禍々しい赤黒い色をしたスープのようなものであり、トオルをぎょっとさせた。目の前に置かれた禍々しい赤黒い料理と、それを持ってきた天使のような少女とのギャップにトオルの思考が一時停止する。トオルには、これが食べても平気なものか判断できない。

 

 この料理の原材料はなんなのだろうか、なぜこんなにも赤黒いのか。

 食欲のそそる匂いはするが、人類が食べても平気な物か? 

 ……まさか毒じゃないだろうなと、トオルの脳内に次々と疑問が駆け巡る。

 

 トオルは、しばし禍々しい赤黒い料理を見ながら放心した。

 異星人の少女が、なにか言っているようだが、彼らの言語は解らない。


 未だにトオルは料理を見ながら、半口を開けて放心している。

 すると異星人の少女に、赤黒いスープを掬ったスプーンを口に突っ込まれた。

 

――酸味の利いた優しい味がした。


 トオルは、涙が出そうになるのをグッと堪える。

 

 異星人の少女は、トオルの口にゆっくりと何度もスプーンを運んでくれる。

 このような献身さもまた、今まで辛い思いをしてきたトオルの涙腺を緩くする。


 この見知らぬ惑星で初めて安心できる空間がそこにはあった……ただ残念な事に独房の中だが。


 トオルは、ひと通り食べ終わって、本来の目的を思い出す。

 束の間の幸せを前に、危うく目的を忘れるところであった。

 トオルは、異星人の少女と意思疎通をするべくジェスチャーを始めた。

 

 トオルは意味が通じてくれと祈りながら、自分の首に手を当て横に引き、次に自身を指さす、そして横に首を振る。

 

"殺したのは、俺では、ない"


 トオルの意図を把握したのか、異星人の少女がジェスチャーを返した。

 

 彼女のジェスチャーは、自分の首に手を当て横に引いたあと、トオルを指さし、頭を前に垂らすという内容だった。そして、上から首を軽くチョップし、トオルを指さしたあと、自身を指さして首を横に振った。


「……えーっと、どんな意味だ?」


 トオルは"殺したのは、あなた" までは理解出来た。


  頭を前に垂らして首にチョップするジェスチャーは処刑の意味だろうかと、トオルは考える。

 

 "殺したのは、あなた、処刑、あなた、わたし、嫌い"


 最悪最低のネガティブ解釈がトオルの頭を過ぎ、トオルは血の気が引くのを感じた。

 トオルの絶望顔を他所に、異星人の少女は、自分のジェスチャーが渾身の出来だと言わんばかりの、自信に溢れた顔をしていた。彼女の笑顔が眩しい。

 

「処刑ってなんだよ!」

 

 トオルは叫んだ。それはもう大地の慟哭のような叫びであった。


 トオルは、異星人の少女を見る。彼女は首を横に振っていた。


"殺したのは、あなた、処刑、あなた、わたし、嫌い、違う"だろうか。


「どっちみち処刑じゃねえか!」


 トオルは、顔を下に向けまた叫ぶ。悲痛な絶叫が独房に響き渡る。

 

 叫んで気持ち的にすっきりしたトオルは思った。

 

 いやまてよ、俺に対して悪い感情を持ってないのであれば処刑をしないようにと説得を頼めないだろうかと、トオルは思い至る。トオルは処刑を止めてくれと説得するため、まずは自己紹介から始めることにした。自身を指さし「トオル」と発音する。

 

 異星人の少女は、トオルと同じように自身を指さしたあと、透き通るような声で「ラナリ」と発音した。どうやら彼女の名前はラナリであるらしい。

 

 トオルは、ラナリか……いい響きだなと思いつつ、彼女をどうやって説得しようかと思案する。 


「さて、どうやって説得するかな」

 

 律儀にトオルの次の行動を待つ、ラナリの顔はどこか楽しそうだ。


更新は明日の17時~23時の間ぐらいに


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