第67話 戦闘が終わって
戦闘が終わり、トオル達は帝国兵が設営した大型の救護用テントにいた。
「……ご、ごめん……なさい」
トオルの前には、頭を深く下げて謝罪するマイヤーの姿があった。隣にはスレクトの姿もある。
「まあ、数秒遅れてたら死んでたな」
マイヤーの放った弾丸を、間一髪の所でラナリのフォースフィールドによって弾き返し、トオル達は生還した。
ラナリの反応が数秒遅れていたら、仲良く三途の川を渡っていただろうことは、想像するに難くない。
「トオル様、ラナリが目を覚ましましたよ。アルバ様や義勇兵の方々は未だに魂が抜けたように、ぼーっとしていますが命に別状はありません」
ラナリは弾丸を跳ね返した直後に失神し、アルバや義勇兵達は、あろうことか威力が増幅したマイヤーの跳弾した弾丸が引き起こした凄まじい二次被害を目の当たりにしたショックで魂が抜けたように放心していた。
「しっかしなぁ、ラナリが防いだ直後に気を失うとは……しかも跳弾した弾丸が、凄まじい二次被害を周りに与えてたし、帝国側に跳弾していたらもっと酷い事になっただろうよ」
トオルの呆れたような声色に、マイヤーが俯いたままプルプル震えていた。トオルの証言通り、跳弾したマイヤーの弾丸は、大地を直線に大きく抉りながら進路上のゲネシス主力戦車を跡形も無く消し飛ばした。
「トオル、マイヤーを苛めるのはそれぐらいにしてやってくれないか。射撃を許可したワタシにも責任はある。お前達がゲネシスの車両を鹵獲していたとは、知る由も無かったんだ。それに、ラナリの力で反射すると威力が上がることもな」
スレクトがマイヤーの肩に手を置く。どうやらマイヤーは十分に反省しているらしく、さっきから萎らしい態度であった。
「あれから一日しか経ってないが、そっちはどうなんだ? ゲネシスと戦闘が続いているのか?」
「いや、あれから小規模な戦闘が断続的、偶発的に起こるぐらいだ。奴らの残存戦力の大半は、東大陸北部に向けて撤退しているからな」
スレクトが「いい気味だ」と口の端を上げて笑う。
東大陸の北部は帝国の領土では無い。東大陸を完全に抜けると中央大陸となり、そこは冬になると寒すぎて雪も降らないほど極低温な地域であった。
奥からナカジマが怒りながらこちらにやって来た。強化戦闘服を上半身だけ脱いだ緑のノースリーブ姿である。しかも、戦闘後で汗が乾ききっていない。
「ナカジマ……せめて何か羽織るか何かしろよ」
トオルの困ったような顔に、ナカジマが嬉しそうにニヤつく。
「残念だけど、わたしはトオルをからかいに来たんじゃないのよ。マイヤーってあんたよね」
マイヤーが顔を強張らせて頷いた。
「折角、鹵獲した"ドラウグル"が全部壊れたんだけど! わたし達の重要な戦力になるはずだったのに、どうしてくれんのよ!」
マイヤーの弾丸をラナリが弾き返した後、トオル達を車体の陰で守っていたドラウグルを急発進させた。そして、銃身を素早く交換したマイヤーの再度の射撃によって破壊されたのである。マイヤーは結局、戦闘が終わるまでセーズ達が鹵獲したドラウグルを上空から狙撃し続けた。おかげで全滅である。
「トオル、話がややこしくなってきたぞ……」
「セーズが帰ってくれば蹴りを入れるなりで止めてくれるんだが……」
セーズとキューは今現在、撤退したゲネシス機甲部隊の残党を帝国の黒服達と共に狩りに行った。ゲネシスが空の足を半永久的に失っている好機に、叩けるだけ叩くのだそうだ。
「こうなったら、あんた達がドラウグルの代わりに働くってのも良いかもしれないわね」
ナカジマが提案した賠償方法にマイヤーが首を横に振る。
「……それは出来ない。総統閣下の許しが出るはずがない。……だから、無理」
マイヤーが困惑した顔でスレクトに助け船を求めた。
「仕方ないな。ナカジマ、そういうことだ。ワタシ達を雇うのは諦めてくれ」
そう答えて話を終わらせようとするスレクトだったが、ナカジマは止めようとせずこんな提案をした。
「そうね。見た所あんた達の陸軍って成形炸薬弾も無さそうだし、レーダー技術も黎明期って所よね。それに、ジェットエンジンも研究中って感じかしら」
トオルは、ナカジマが言わんとしている事を理解した。
「その技術提供と引き換えってのはどう? 破格だと思うんだけど」
「その技術は研究中だが……お前は何を言っているのか分かっているのか? たった二人を雇うのに技術提供など頭がどうかしているのか?」
スレクトが怪訝な顔をする。だが、その青い蛇眼が揺らいだのをトオルもナカジマも見逃しはしなかった。
「わたし達は帰れなくなったから、大国と友好関係を結ぶ必要が出来たのよ。だから、他意は無いわね。まあ、わたし達が実際に青写真を提供するときは、エイトフラッグ号のライブラリに、然るべき人材を寄越してもらう事になるけど」
ナカジマは「……それに」といやらしい含み笑いを浮かべた。
「スレクトってトオルのこと実は気になってるでしょ。だったら個人的に――」
「ベ、別にそのような事実は無い! 断じてだ! ……ワタシがトオルを好いてる等と風説は止めてくれないか! ……あ、あんな男に惚れるなどあり得ない!」
スレクトが唇を震わせながら声を上ずらせる。褐色の長耳が少しだけ朱色に染まっていた。
「おい、クソガキ。本人がいる前で良くもまあ全否定してくれるな」
「……お前こそ久しぶりにワタシをクソガキ呼ばわりとは言い度胸だな」
トオルとスレクトがお互い顔を引きつらせる。
「あらそう。残念ねトオル振られちゃって、そこのマイヤーはまんざらでも無いみたいだけど」
マイヤーが落ち着かない様子で頬を薄く染めていた。
トオル達が救護用テントの中で騒がしくしていると、ラナリがこちらへ歩いて来た。顔色は良くなっているようだが、騒がしいトオル達に対して不機嫌そうな顔をしていた。
「トオル達、ちょっと五月蠅い」
「す、すまん」トオルがラナリに注意され頭を下げる。
「ラナリ、丁度いいところに来たわね。三日後に帝国の船に乗るからそのつもりで居てね」
ナカジマの強引な決定であった。当然、スレクトは「勝手に決めるな! 三日以内に手配が出来る訳ないだろう!」と抗議した。
しかし、ナカジマの「どうせ、これから負傷者乗せて本国に帰る用に輸送艦が待機でもしてるんでしょ? 普通はそれぐらい見越してるはずよね。だからそれに乗せてくれればいいのよ。はい、手配の問題は解決」との言葉にスレクトが黙ってしまった。
「……帝国の船に乗って……どうするの? ……帝国に移住?」
小首を傾げるマイヤーにナカジマが端的に説明する。
「あんた達の会話にちょくちょく出てくる総統閣下とやらに会いに行くためよ。そんでエイトフラッグ号に乗り込んで、ズーニッツ帝国の港を貸してもらおうかと思ってね。空さえ飛ばなければ惑星に敵視されないんだから、これが一番良い選択のはずよ。本題はさっき言った取引の件だけどね」
トオルもナカジマの決定に頷いた。トオルもまた、、ズーニッツ帝国の総統閣下とやらに興味があったからである。
トオルは、こんな壮大な計画を立てた者の顔を見てみたいと思っていた。
「俺も興味があるし、俺達の今後の為にも必要な事だな」
トオルは内心で大いに期待した。それは、ゲネシスとの戦闘が一段落したことにより、この惑星で生活する為の基盤を得られた事に対してである。
だから少しだけナカジマにも感謝していた。
「……少しだけナカジマには感謝してるよ。少しだけな」
ナカジマが笑いながら「素直で大変よろしい」とトオルの背中を叩き、未だに放心しているアルバ達に今後の方針を伝えに行った。




