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第65話 白草平野機甲戦 中編


「このままだと、俺達が介入する間も無く帝国が壊滅しちまうんじゃないか?」


 トオル達は小高い丘の上から八〇〇メートル先にある戦場を俯瞰していた。


 既に帝国側は戦力の三割近くを損耗している。ゲネシスの方は数両無力化されているぐらいで、帝国が押されているのが明らかである。


 帝国の歩行戦車師団は、もし戦車兵を志願している帝国の青年がこの戦場を見た途端、心変わりをするのではと思えるほどのやられっぷりである。


「すぐに行動を開始するわよ。キューはゲネシス主力戦車を無力化していって、セーズは"あれ"を試してみてよ。成功したら盤上がひっくり返ること間違いないわ」


 ナカジマが、ヘルメット越しに我に秘策ありと言わんばかりの自信満々な顔を見せた。


「んで俺達はどうすりゃいいんだ?」


「トオルとラナリちゃん達は、わたしと一緒にセーズの援護って所ね」


 トオル達は先行するキューとセーズの後を駆け進み、ゲネシスと交戦を開始した。


 ラナリのフォースフィールドによって、ゲネシス兵のプラズマライフルから放たれる緑の光弾が跳弾した。ここだけ切り取れば、優勢だが実際には帝国の歩行戦車大隊の被害は増すばかりであった。


「まさか娘に守られる日が来るなんて思いもしなかった……」


 アルバがラナリを見て感心していた。一週間も見ない内に変わり過ぎた我が子に対する感情は、きっと複雑に違いない。


「トオル! セーズ達がそろそろ仕掛けるみたいだから援護しに行って!」


 新手のゲネシス兵の一団によって、再び銃弾や緑の光弾が無数に交錯する中、ナカジマがトオルに無茶ぶりをする。


「はあ!? この状況で俺に行けって?! 無茶言うな!」


 ゲネシス兵の三〇〇メートルほど後方には、地面から浮いた二両のゲネシス主力戦車がこちらにU字型の主砲を向けている。ゲネシス兵の熾烈な銃撃に加えて、主力戦車のプラズマ砲まで加わるとなるとラナリのフォースフィールドが破られかねない。


 トオルは覚悟を決め「クソッタレ!」と叫ぶとラナリの展開しているフォースフィールドの範囲外から出てキューとセーズの後を追い走る。


 トオルはナカジマ達の援護の中、自動小銃を抱えて懸命に走りながら素早く脅威度が高い順にダブルタップでゲネシス兵の頭部を撃ち抜いていく。


 トオルの前方には、二両のゲネシス主力戦車にそれぞれ張り付いたキューとセーズがいた。


 二人とも尺骨に格納してあるブレードで、ドライバーハッチを切り取ろうとしている為か無防備な状態である。


「お前らさっさとやれ! じゃないと俺の方が先にくたばっちまうぞ!」


 トオルが必死な叫びを上げて、素早く弾倉を交換する。ゲネシス兵も自分達の主力戦車の異変に気が付いたのか、キュー達に対して銃撃を浴びせる者も現れた。


 そんな切迫した中、キューがセーズより先にドライバーハッチをこじ開けた。


 キューが開いたドライバーハッチの中へ、安全キャップを外した卵型手榴弾を落とし離脱する。


 直後ゲネシス主力戦車から爆発音が聞こえ、動きが止まった。


「キューちょっとこっち来い!」


 トオルが無事一両仕留めたキューに大声で催促する。


「トオル様どうかされたのですか? 被弾しましたか? お腹でも痛くなったのですか?」


 トオルの声にすぐさま反応したキューが、一瞬でトオルの元まで跳躍した。よく見るとキューが機能制限を解除した事により紅い眼になっている。


「ちょっと周りのラナリ達に銃撃してるやつらを、さっくり刈り取ってくれ。俺はキューが破壊した敵戦車の陰からセーズを援護しなくちゃならん」


「……分かりました。実はセーズとは敵戦車を無力化した数で競っていた所なのですが、安全を確保するのが優先ですね」


 トオルは口元が軽く緩んだ。まさかそんな事をしていたなんて思いもよらなかったからである。


「なんだ、いがみ合うのは止めたのか?」


「キューが勝った場合は、トオル様にちょっかいを出すのを止めてもらう約束なのです。あの第六世代型はキューの視界に入った途端に腹が立つので」


 キューがセーズに対する心情を告げると、ラナリ達を狙っているゲネシス兵の一団をブレードで両断していく。


 セーズがゲネシス主力戦車の中に侵入し、二名の乗員をさくっと始末した。そして、ポーチから取り出したのは直径一八センチの円形小型機械である。


「この戦車は運転手が砲手を兼任しているという事は、一枚貼り付けるだけでシステムを掌握出来ますね」


 セーズが取りだしたPHAS(パース)(携帯型ハッキングアップリケシステム)と呼ばれるこれは貼り付け型のハッキング機械であった。アンドロイドの電脳の処理速度に性能が依存する為、第六世代型のアンドロイドであれば掌握できない物は無い。


 ナカジマの言っていた"あれ"とはこれの事で、上手く行けば盤上をひっくり返す事の出来る代物である事は間違いないだろう。


「……ゲネシス主力戦車のシステムを完全に掌握。この子の名前は、直訳すると"幽霊"なのですね……それでしたら、"ドラウグル"と名付けましょう」


 セーズが問題なく掌握が完了した事に喜び「ナカジマのネーミングセンスが移ってしまいましたね」と笑った。


 セーズが"ドラウグル"の上に出て立ち、両腕で大きく丸を作る。


 それを見たナカジマがガッツポーズを決め「あの敵戦車は味方になったわ! 皆はわたしの後に続いて!」と後ろのラナリ達に指示を飛ばした。

 

 セーズの鹵獲した"ドラウグル"の車体の陰に再び、トオル達が集結する。


「ナカジマ、ラナリの息が整い次第、これと同じようにするんだな?」


「ええ、その通りよ。ラナリちゃんの力とこれさえあれば一発逆転よ」


 ナカジマ渾身のどや顔にラナリが噴き出す。状況がかなり改善され、トオル達の緊張が若干和らいだようだ。


「キュー、そういう事だ。競い合うのは止めてセーズの為に無傷で無力化するように努めてくれ」


 キューが溜息をつき「……分かりました」と返事をした。キューにとってはセーズが頼られている状況が面白くないのだろう。



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