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第64話 白草平野機甲戦 前編

 

 アルバの宿屋で寝ていたトオルは、聞きなれない騒音で目を覚ました。昨日の宴会で飲み過ぎたのか若干の怠さが残る。


 鎧戸を開けて通りを覗くと、騒音の元が四つ脚を忙しなく動かして石畳の通りを前進していた。


「あれは帝国の歩行戦車か?」


 その四脚の歩行戦車は全長は六メートルほど、高さは宿屋の二階には届かないが旋回式の中口径の主砲を備えていた。


 よく見るとその後ろと前にも同じような歩行戦車と、半装軌トラックが車列を組んでロネの街の南門の外へ向かっていた。


「ざっと見る限り二〇両以上だな」


 ロネの南門を抜けた先はツリング街道と白草平野が広がっている。そこから考え得る答えは、ゲネシスがロネの街へ侵攻を開始しているということである。


 トオルはグレーの強化外骨格の一種である強化戦闘服に素早く着用すると、何時もの長方形のブルパップ式自動小銃を取り出した。


 武器庫と化した納屋のおかげで、弾薬も補給出来た。


 トオルは帝国とゲネシスの戦闘を予期し、一階に降りる。


 一階ではまた、アルバとラナリが言い争いをしていた。


「ラナリ駄目だ。戦争に連れて行くことなどできない! 大人しく教会に避難するんだ」


「父さんこそ今まで弓しか扱えなかったくせに、これは領主や村の小競り合いじゃないんだよ?」


 ラナリの言葉にむっとしたアルバは腕を組み、小さく唸った。


「トオルこの状況なんとかしてよ。ラナリちゃんって反航期なの? お父さんが過保護なだけ?」


 ナカジマがトオルに近寄り口に手を当て、ひそひそと話す。ナカジマも濃いブルーの戦闘強化服に着替えていた。やはり、帝国に恩を売るために戦うつもりなのだろう。


「……恐らく両方だな。いや、アルバさんの過保護に耐えかねたんだろう。皆を守れる力も得たしな。……ちょっとお節介から好戦的に変わった気がしないでもないが」


 キューとセーズが外から戻って来た。状況を察するに軽く帝国とゲネシスの動向を偵察に出ていたのだろう。やはり、アンドロイドというのは人間より有能である。


「トオル様、準備が出来ているようですね。ゲネシスが既に動き始めています。母艦を失い、航空戦力を無力化された彼らはロネの街を占領し、物資不足を解消するべく掻き集めた機甲戦力を進軍させています」


 セーズがキューの状況説明に続く。


「セーズがズーニッツ帝国の戦力把握に努めました所、数はゲネシスの三倍近くです。ですが、帝国の主力と思われる歩行戦車がどれほどゲネシスの主力戦車に対して有効か分かりません。セーズ達が、無力化しなくてはならない状況になる可能性も考慮したほうがいいでしょう」


 ゲネシスの主力戦車は、反重力技術を使った反重力クラフトである。流線形の青い車体に、U字型の砲身を備えていた。超高温の紫のプラズマ弾は、装甲を蒸発させ破壊する凶悪な物だ。


「破壊するってどうやって破壊するんだよ……」


 トオルの自棄な言葉を聞いたキューとセーズが肩掛けポーチからそれを取り出すと、手の上で野球ボールを扱うように跳ねさせた。


 そして、空中でキャッチして見せつける。それはズーニッツ帝国製の卵型手榴弾であった。


「これで十分ですよ」キューが微笑み、手榴弾をポーチにしまった。


 キューとセーズのポーチには手榴弾が詰まっていた。十数個は入っていそうである。


「敵の主力戦車は、セーズとキューで無力化しますからナカジマはアルバ様達と共に死なないように努めてください」


 ナカジマが「精々死なないように戦いますとも」と答えると後ろでヒートアップしてきたラナリとアルバを見る。


「父さん、私はもう子どもじゃないし結婚できる年齢だし……それに」


 ラナリが力を使いアルバを浮かせた。ラナリの髪が重力を無視して上に靡く。


「……ラナリ!? な、なんなんだこれは、今すぐ降ろすんだラナリ!」


 ラナリが邪悪な含み笑いをアルバに向ける。


「行ってもいいって許可するなら降ろしてあげる。じゃないと一生そのままね」


 アルバが冷や汗を溢れさせ顔から血の気が引いていく。


「……分かった! 分かったから降ろしてくれ」


 ラナリが諸手を上げ飛び跳ねて喜んでいると、アルバが顔を引きつらせながらトオルに近づいていく。


「なあ、トオル。お前を信じて送り出した娘が見ないうちに色々と変わってしまったようだが、お前さんは何か知ってるよな? 後で説明してもらうぞ……いいな?」


 アルバが凄みながらトオルの肩に手を置く。アルバの手に籠る力が頭を殴られ昏倒した時の事を思い起こさせた。


「……あ、はい」


 トオル達が安穏としたやり取りをしている間に、帝国とゲネシスの機甲戦が始まった。


 射撃指示がこない事に耐えきれなくなった帝国の歩行戦車による射撃が、戦いの火蓋を落とした。

 この大規模な機甲戦は三〇〇を超える帝国の歩行戦車と、約九〇両ほどのゲネシス主力戦車による熾烈な砲撃戦で推移していく。


 帝国の歩行戦車に搭載されている八〇mm滑腔砲から次々と放たれた砲弾は、流線形の車体を持つゲネシス主力戦車の装甲を貫徹出来ないでいた。


 流線形の車体は避弾経始に優れているため、八〇mmの滑腔砲では貫徹力不足であった。


 次々と跳弾していく砲弾を見た帝国の士官が、榴弾に弾種変更の指示を飛ばす。

 だが、榴弾でゲネシスの兵員輸送車は撃破できても、主力戦車相手では威力不足のようだ。


 逆にゲネシスの紫のプラズマは例え至近弾であっても、帝国の歩行戦車を大破させる事が出来るほどの高火力である。


 実弾に比べプラズマ兵器の精度は低いが、ここまで高火力であれば精度の悪さなど問題にならない。


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