第61話 ロネの街へ
トオルは廃墟と化しているベルリナの街を歩く。マイヤーに教えてもらった方角を進んでいるので、件の遺跡はもうすぐのはずだ。
マイヤーはというとトオルに遺跡への道を教えた後、さっさといなくなってしまった。また彼女と再開しそうな気はするが、気になるのはナカジマ達の方である。
「……と言っても、どう見てもあっちのほうが主力だよな」
トオルが自嘲気味に笑う。
――空からの爆音が辺りに響いた。
トオルは身構えて空を見上げる。空からゲネシスの艦艇と思しき破片が、流星のようにバーッと燃えながら地上へ落下していくのが見えた。
どうやらナカジマ達は、課せられた任務を全うしたらしい。
よくよく空を見ていると、慌てて上空へ退避しようとしたゲネシスのドロップシップも爆散していた。
ここから見る限りでは勝手に自爆しているように見えるが、次々と飛び立っては爆散するゲネシスのドロップシップを見る限り、そうではないようだ。
やはり古代の遺跡にあった何かが攻撃しているのか。
「花火大会みたいになってんな……」
トオルがそのまま進んでいくと、乾いた連続した発砲音が前方から聞こえてきた。瓦礫となった建物の間から巨大なドームも見える。だとしたらナカジマ達が戦闘をしているのだろう。
トオルは走って発砲音の出所まで進出する。ナカジマ達が遺跡の巨大な入り口から、彼女達を半包囲しているゲネシス兵の一群と銃撃戦を繰り広げていた。
ゲネシス兵の小銃から放たれる、緑やオレンジのプラズマや熱されたダートが入口へ吸い込まれていくような激しい砲火だ。
トオルは近くの瓦礫の上で伏せてヘルメットのHUDのズーム機能を使い、約六〇〇メートル先にいる敵の数とナカジマ達を確認した。
敵兵の数は、ざっと確認しただけでも八〇名ほどであり、兵員輸送車らしき若干浮遊した車両が四両いた。それらが入口に向けて猛射している。
「キューとセーズは動くに動けないか」
負傷者も四名ほど帝国兵から出ているようだ。その中の一人を助けようと前に出た勇敢な帝国兵が被弾して倒れ込んだ。
その様子を見ていたトオルは舌打ちし、出るに出られない状況に苦悶した。
「一瞬だけ隙を作れれば、キューが何とかしてくれるだろうが……このままだとラナリが突撃しかねんし……だが、ラナリのあれがどれほどの強度なのか分からん以上、試すわけにはいかない」
トオルはズーニッツ帝国の自動小銃を構えて、ゲネシスの兵員輸送車上部から弾幕を張っているゲネシス兵の後ろ姿に狙いを定めた。
一瞬息を止めて撃つ。大き目の発砲音と共に放たれた8.72mm×67弾がゲネシス兵の背骨を砕いた。
「威力はあるんだが……こういった時は音が大きすぎるんだよな」
白いアーマーを着たゲネシス兵が銃撃を止め、後ろを向き近くにいた八名と共にトオルの方へ走り迫る。
「気づくの早すぎんだろ!」
ゲネシス兵が走りながら制圧射撃をトオルに加えているおかげで、トオルは移動もままならず、当たらないように祈りながら頭を抱えて伏せるしかない。
爆音と衝撃波が地響きとなってトオルに伝わる。その爆音がした後、ゲネシスからの銃撃が止んだ。
トオルは顔を上げて前を見る。辺りには土煙と炎が立ち込めていた。
上空で爆散したゲネシスの惑星揚陸艦の残骸が、遺跡の入り口を半包囲していたゲネシス兵達を押しつぶしたようだ。
残骸が落ちた所は、二〇〇メートルほどの広さのクレーターになっていた。偶々、今回は自分達の場所に落ちなかったから良いものの、これが今もなお各地で降り注いでいるかと思うと身の毛がよだつ。
「ひ、ひとまず助かったが思ったより酷いことになってんな……」
ゆっくりと立ち上がったトオルは、土煙の中から金色に光る多角形の浮遊した物体がこちらに向かってきているのを見た。
それはトオルをエンキの真上に飛ばした畜生のような奴である。
生き残れたから悪態だけで済むが、捨て駒のような扱いをされたトオルは酷い悪態と暴言を吐きながらそれを鷲掴みにした。
「クソッタレの一つ目! 俺を捨て駒にしやがっただろ!」
その金色の浮遊物体であるシリュクは悪びれる様子も無く、目玉のようなカメラを器用に後ろへ回して、ナカジマ達を読んだ。
「さあ! 皆さんこちらです! 哀れなゲネシスがスペクタクルな天体ショーに巻き込まれた今のうちに! こちらへ! さあ早く!」
トオルは、鬼気とした表情でシリュクに掛けている圧をギリギリと強くしていく。
「ああ、まだ死んでいなかったのですね! 非常にタフな方だ! まるで古生代から絶滅せずに生き残ってきたゴキブリのようです! 素晴らしい!」
トオルから頭の血管が切れる音がした。
「……このクソッタレのポンコツ! 今ここで分解してやる!」
トオルがシリュクの目玉のようなカメラを掴むと思いっ切り引っ張った。シリュクが流石に危険だと感じたのかガクガクと震えだし、右へ左へ逃げようとした。
「痛い! 痛いですよ! 何故ですか! 心の底からの賛辞だと言うのに!」
「トオル! そいつを壊すのは後よ!」
トオルはシリュクを保持したまま、声のする方へ向く。
「ナカジマか……どうしたんだ? 作戦は成功したんだろ? 後はラナリの父親を救援してこんな惑星とは金輪際おさらばしたいんだが」
ナカジマがヘルメットを格納して素顔を晒す。困惑している表情であった。
「トオルは既にわたし達の一員だから、エイトフラッグ号に乗せるのは構わないんだけど……」
トオルは「構わないならいいじゃないか」と言いかけてナカジマの横に立っているセーズに気づく。
「残念ながら、この惑星の防衛機構は惑星軌道を含む上空を飛ぶ物を無差別に破壊しているようなのです」
「……分かりやすく言ってくれ」
「エイトフラッグ号は使えません。エイトフラッグ号を隠している湖から上空へ飛ばす事は出来るでしょう。ですが、上空へ飛ばしたら最後エイトフラッグ号は惑星によって沈められます」
トオルはセーズの説明に力が抜け落胆した。シリュクがトオルの手からフラフラと脱出する。
「また、帰れないのか……」
落胆するトオルの所へキュー、ラナリ、スレクトの三人が歩いて来た。
「トオル様、今はラナリが抱えている問題を解決する時です。幸いにも、そこのシリュクがキュー達をロネの街へ転送してくれるそうです」
「今さら助けに行ったところでアルバさんが生きている保証はないだろう」と言いそうになってしまった。トオルは両手の拳を握りしめて、その出かかった言葉を堪えた。
「トオル、準備が出来たら行こう」
トオルはラナリの言葉に頷く。危うく心にもない事をいう所だったと自責した。
「悪いがワタシは一緒には行けない。遺跡を地下司令部からの救援が来るまで守り切らなければならない」
トオルは目を見開きスレクトを見た。当然のようにスレクトは付いてくると思っていた。
「ここでお別れか。勝手についてくると思っていたが」
「……悪いな。ワタシもついて行きたいとは思っているがヴェル博士が負傷しているし、折角起動したこれを止められても困る」
「大丈夫なのか?」
スレクトが心配そうなトオルの腕を叩いた。心配するなと言っているようであった。
「ラナリの力で即死だったところを何とかしたんだ。ラナリも気に病む必要はない」
スレクトがそう言うと遺跡の入口へ戻っていった。
トオルは静かにスレクトの小さい背中を見る。最初は酷い印象を彼女に対して持っていたが、今はそうでもない事にトオルは小さく笑った。
「よし、アルバさんを助けに行こう」
トオルの言葉に全員が頷く。
「ではでは! 良いバカンスを!」
トオル達はロネの街へ転送された。




