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第60話 遺跡を巡る戦い-決戦- 後編

 

 金色の空飛ぶ多角形の物体であるシリュクによって、強制的にテレポートさせられたトオルは空から落下している。空と言っても二〇メートルほどの高さだが、混乱していた事もあって事態の把握が出来たのは、ある者の上に衝突した後だった。


「……小賢しい鼠め! 逃げても無駄だ! 追い詰めたぞ! 諦めて儂とたた――ガゥアァアア!」


 トオルはエンキの頭部に仰向けに直撃した。


「痛ってえな……! あの一つ目……何しやがる!」


 シリュクへの小言を言った直後に、下敷きになっている人物に意識が向いた。気密が保たれているはずのヘルメット越しに、汗と吐瀉物を数倍臭くしたような悪臭が漂う。


「……あーくそ、酷い匂いだ……顔が近いのも最悪だ」


 ヘルメットの前がエンキの息で白く濁った。


 トオルはすぐさまエンキから離れると、目の前の崩れた建物の陰から綺麗な白い手で手招きしている人物を発見した。


 案外ナカジマ達の近くに飛ばされたのかもしれないと、トオルはその手招きする人物の所へと悠長に歩いていく。


「…………今すぐ走って!」


 透き通った声で怒鳴られたトオルは駆け足で向かった。ふと、身を切り裂くような殺気を察知したトオルは後ろを振り返った。


「……じぃんるぅいぃぃ! 殺す! 殺す! 殺す! 肉片一つとして残さぬ! グゥルアアア!!」


 鬼の形相という言葉が生易しいほどに怒り狂ったエンキが、涎まみれの牙を剥きだしにし、トオルの真後ろで巨大なハルバードを振りかぶっていた。エンキの白いトサカのようなモヒカンが、天を衝くように逆立ち、赤い目がさらに赤い血の色になっていた。


「……こりゃあヤバい奴の上に落ちちまった」


 トオルの諦観の念が込められた呟きの後、今度は目の前の光景に死を覚悟する。


 緑髪で銀の蛇眼の女性が対物ライフルの銃口を向けて立っていた。そして、その銃口からあり得ないほど超高速の大口径弾が放たれる。


「…………避けて!」


 トオルには前後で起きている全ての事がスローに見えた。周りに流れる音さえもゆっくりと、大口径弾の弾頭先端の赤色さえ確認できるほどに緩やかに景色が流れる。

 

 トオルはもう一度後ろを向き、後ろから振り下ろされる巨大なハルバードを前に飛ぶことでギリギリで躱す。そして、目の前の超高速の弾を体を斜め前に逸らせる事で辛うじて躱した。


 空ぶった巨大なハルバードが地面にクレーター作った直後、大口径の弾丸がエンキの頭部に直撃し炸裂した。だが、エンキにはまるで効いていないようであった。着弾の瞬間、鮮やかな青い膜のような力場がエンキを保護していた。


 マイヤーがエンキの足元に、無力化ガスが注入された手榴弾を投擲する。エンキの足元で噴出した無力化ガスが、彼の中枢神経に作用し混乱させた。エンキが我を忘れて、グルグルとその場に回りながら無差別にハルバードを振り回して辺りを破壊している。


 トオルは、マイヤーの隠れている崩れた建物影に到達し 胸を撫で下ろした。


「……助かった、今度こそ死ぬかと思ったよ」


「……私も……あなたが降ってきたおかげで助かった……あなたが落ちてこなかったら殺されていた」


 マイヤーが「……でも……大声を出すのは……辛かった」と消え入るような声で呟くと対物ライフルを背負って走り出した。緑髪のショートカットが風に靡いていた。


「おい! あんた名前は?!」


 トオルも彼女の後を追うように走り、恩人の名前を尋ねるが返事は帰ってこなかった。


 二人が走る事、十分弱。マイヤーが余り崩れていない比較的戦闘が始まる前の姿を保った集合住宅へ入っていくと、トオルを手招きする。


 物が散乱し、絵画などの価値ある家財は全て失われていた。二人は長テーブルと幼児用の椅子がぽつんとある部屋へと移動した。


 彼女は落ち着いて話す事の出来る場所を探していたのだろう。マイヤーが、対物ライフルを長テーブルに置き、そのテーブルに腰掛けると小さな声で話し始めた。


「…………私はマイヤー。……あの、さっきはありがとう……えっと、貴方は人類? だとしたら……総統閣下やヴェル博士の言った事は……真実だったんだ」


 トオルは「マイヤーか」と一言発すると座れる場所を見回して探す。流石に幼児用の椅子に座るのは気が引けた。


「……横に……座る?」


 トオルはマイヤーの横に座るが、長テーブルがミシミシと音を立て始めた為に座るのを諦めて立つ事にした。マイヤーが口に手を当ててくすくすと笑っている。


「……マイヤーに聞きたい事があるんだが、少しいいか?」


 マイヤーが頷く。


「あのデカい筋肉達磨は何なんだ? それとマイヤーはスレクトの知り合いだったりするのか? スレクトと同じ服装をしてるから気になってな……もし、実は遺跡奪還作戦に参加してたメンバーだって言うなら遺跡までの道のりも知ってるだろうし」


「あの大きなゲネシス兵は……良くわからない。でも……仲間を殺したのは事実。スレクト少尉もここに来てるの?」


 突然、野獣の様な唸り声が響き渡る。エンキの叫び声だ。


「お話は終わりみたいだ。どうやってあの野獣を仕留めるんだ? 銃弾が効いてなかったようだが……」


「……これを貴方に渡す」


 マイヤーが渡したのは、ズーニッツ帝国の紋章が柄に施されている片刃のナイフだった。


「……さっき貴方が落下した時……ダメージを与えてた。だから……ナイフは有効だと思う。……あのフォースフィールドも突破できるはず」


 トオルは、どうあがいても潰される未来しか見えないとの言葉を飲み込んで片刃のナイフを握りしめる。


「どっちみちあれに追われてる状況でナカジマ達と合流する訳にはいかないし……やるしかないのか」


 マイヤーが上を指し「……二階から……援護するから」と告げると対物ライフルを背負って二階へ行く。


 トオルは咆哮を上げるエンキの前に出る。すると、前に立っているエンキの様子が何所かおかしいと勘づく。


 エンキがまるでドーピングしたように筋肉が盛り上がっていた。マイヤーが、投擲した手榴弾から噴出した無力化ガスの副作用であった。無力化ガスに含まれていたキヌクリジニル=ベンジラートが、エンキに幻覚作用をもたらしたものの肉体を強化してしまったらしい。


「……クソッタレ……前より雰囲気がヤバくなってるじゃねえか」


 トオルは片刃のナイフを逆手に持ち構える。


「グルァア!」


 エンキは唸り声を上げるとハルバードを握りしめ突っ込む。もはや人語も解さないのか本当に野獣のようである。


 トオルは、エンキの咆哮と共に振り下ろされた巨大なハルバードを素早く躱し、後ろに回り込んで飛びかかる。そしてエンキの太い血管が浮き出た首筋にナイフを突き立てた。


 だが、ナイフが二センチほどしか刺さらない。エンキの皮と筋肉がナイフを止めていた。


 ナイフが浅く刺さり、トオルは信じ難い物を見る目でそれを見る。


「……おいおい、うっそだろ――あぐぁ!」


 直後にぶら下がっていたトオルはエンキの巨腕によって思いっ切り振り落とされた。ただそれだけであるのに、高速で丸太が突っ込んできたような衝撃がトオルを襲った。


 トオルは腰のホルスターから自動拳銃を抜き、弾倉が空になるまで撃ち続ける。空しくも一二発の弾丸全てがエンキを覆うフォースフィールドによって阻まれる。


 弾丸を物ともせず、じりじりとエンキがにじり寄ってくる最中、トオルはある光景を見た。エンキの首筋に二センチほど刺さったままである片刃のナイフが、青い膜の様なフォースフィールドの外であったのだ。


 トオルは閃いた。何らかの方法でナイフを押し込めばエンキの動脈か静脈か分からないが確実に損傷を与えられるだろうと。


 エンキの背中越しに見える二階の窓から狙っているマイヤーに向かって、トオルは力一杯叫んだ。


「……マイヤー! 柄の先を撃て!」


 マイヤーが窓の桟から身を乗り出して、対物ライフルをエンキの首筋に刺さっているナイフに狙いをつけ、一瞬だけ息を止める。


 ――そして16.5×99mmの硬芯徹甲弾を発射した。


 マイヤーの対物ライフルから放たれた硬芯徹甲弾が、ナイフの絵の先ど真ん中に当たる。弾を受けたナイフの柄の先が砕けるのと同時に、ナイフの刃がエンキの首筋に深々と刺さった。


 エンキの首から血が吹きあがった。エンキが叫びながら首を抑えるが、動脈が完全に断たれて縮んでしまっており大した意味を成さなかった。


 エンキが死を悟ったのか、上半身のアーマーをかなぐり捨てふらふらとトオルに迫る。力尽きる前にトオルを殴り殺そうと言うのだろう。


「ガアアァア! おのれ人類! 儂がただで死ぬと思ったか!」


 エンキが拳を振り上げた直後、エンキの頭が爆ぜた。かなぐり捨てた上半身のアーマーにフォースフィールドの発生装置が搭載されていたのだろう。


 エンキは、マイヤーの対物ライフルから放たれた電磁加速された16.5×99mm弾で絶命した。


「……はっはは、ざまあみやがれ! ……あぁ痛ってえ……!」


 トオルが脇腹を抑えて痛がっていると、マイヤーが助け起こした。


「……勝てたのは……貴方のおかげ……貴方のおかげで仇も討てた。…………ありがとう」


 トオルはエンキの血で真っ赤に染まったヘルメットの前を拭った。

 

 マイヤーがにこやかに微笑んでいた。


 トオルはその微笑みに少しどぎまぎする。


 そして、ベルリナ中央にある遺跡へマイヤーと共に歩き出すのであった。

 

 場面は遺跡へテレポートしたナカジマ達に移る。


 ナカジマ達と帝国兵三六名が遺跡の内部へと出現する。余りの急な出来事にナカジマだけ着地に失敗し尻もちを着き、可愛らしい悲鳴を上げる。


「ナカジマ、"きゃっ"なんて媚び媚びの悲鳴を上げてる場合ではありませんよ」


 セーズのいつも通りの毒吐きに「媚び売ったんじゃないっつーの!」とナカジマが声を荒げる。


「……前を見ろ。既に内部はゲネシスによって守りが固められている」


 スレクトの向いている方向をナカジマ達が見やるとスレクトの言う通り、青いメタリックな障害物が積み上げられ中央の重力リフトを守るように簡易拠点を築いていた。


 ゲネシスのガンタレットと思わしき、青く丸みを帯びた機械も見える。守っているゲネシス兵は、バーバリアン然としたアーマーを着ている野獣の様な異星人である。


 数はナカジマ達の倍近い。


「まとも真正面から戦ったら死ぬのは確実ね」


 眉根をひそめたナカジマの前に、キューとセーズが並んで立つ。


「それでしたら、キュー達アンドロイドの番ですね」


「ええ、ここはセーズ達にお任せを」


 二人のアンドロイドが言い終わると、ゲネシスの即席陣地に突っ込んだ。


 キューとセーズが音も無くゲネシスの陣地深くへと走り、腕から展開したブレードでゲネシス兵を切り裂いていく。キューとセーズはお互い背中を合わせる形で舞い、群がるゲネシス兵の首や腕を刈り取っていく。


「セーズ、キューはあなたに直接言いたい事があったのです」


 キューがセーズに話し掛けながら、ゲネシス兵から繰り出されたプラズマサーベルを翻って躱しその首を刎ねた。


「トオルのメモリーログに関してですね。あの記憶改竄と人為的な人格の変更は深刻な人権侵害に当たります」


 セーズが会話しながら左右から殴りかかってくる二名ゲネシス兵を、床にぴったりと股脚をくっ付けて躱し、飛び上がる。再度着地した時には二名のゲネシス兵は血を噴き出し絶命していた。


「例え禁じられた事だとしても、トオル様が無意識化で聖遺物に関連する情報を集めていたとしても、あなた方には関係のない話だと言っているのです」


 キューが、次々と襲い来るゲネシス兵を切り裂きその血を浴びた。


「いいでしょう。セーズがナカジマにトオル様の記憶に関する事の詮索はしないようにと言っておきましょう。ですが、最後に助言を。トオル様に施術された記憶の改竄は完全ではありません。必ず独りでにすべてを思い出すでしょう」


 セーズが最後に襲ってくるゲネシス兵を見もせず切り裂くと、黒い長髪を翻しキューの方を向いた。


「そのようなことが起きるとは……キューには到底思えません。メモリーログに移したはずの記憶が独りでに戻るなどと……」


 キューが左腕を抱えるようにして立ちすくむと、ナカジマ達が走ってきた。

 特に金色多角形の浮遊する物体であるシリュクが、丸いカメラを点滅させてキューとセーズの間を飛び回り始めた。


「グレイト! マニフィック! メラヴィリョーゾ! 実に素晴らしい! ワタクシの計算ではまともに戦った場合、後ろにいる帝国兵達は壊滅的打撃を受けたでしょう! 二人の存在は禁忌に該当しますが、この強さを見てしまうと人類が何故このような存在を作ったのか納得してしまいますねぇ! さあ、さあ皆さん中央の重力リフトへお乗りください。乗り物酔いが激しい方は酔い止めをお忘れなく!」


 ヴェル博士が「さあ、乗って。この下が古代文明の防衛装置を作動させるコントロールルームになっているわ」と安全であることを示すように自らが率先してリフトの上に立った。


「さっさと済ませよう。それで飛ばされたトオルも早く見つけないと……」


 ラナリがヴェル博士の横に立ち、続々とナカジマ達もそれに続いた。

 

 シリュクが、ナカジマ達全員がリフトの上に乗ったのをリフトの周りを飛び回りながら確認する。


「では、皆さん位置に着きましたね。ではでは! 下に参りまぁす!」


 ナカジマ達は自身の体がふっと浮くのを感じた後、下の階へ移動した。


 下の階は上の階ほど拠点化が進んでおらず、ゲネシス兵達が青いメタリックな障害物や、フレシェットライフルが立てかけられた流線型のガンラックを移動させていた。


 それを見たナカジマが小さく笑い自動小銃を構える。


「チャンスよ! 撃て撃て!」


 ナカジマが自動小銃で射撃し、スレクトや帝国兵達もそれに釣られるように射撃を開始した。


 突然の奇襲にゲネシス兵は次々と斃れていくが、個々に応射を始めた。ゲネシス兵のフレシェットライフルから放たれた、超高速の高熱を帯びた太いダートがナカジマ達に降り注ぐ。


「あが!」帝国兵の一人が首にダートを受け斃れる。


「私の周りに集まって!」


 ラナリの号令でラナリを中心に輪形陣を組む。ラナリがゲネシス兵のダートを全て弾き、ナカジマ達を守り抜く頃にはゲネシス兵からの応射が止んでいた。


「んぁあ……耳がキーンとする」


 ラナリがふらつきナカジマがラナリの体を支えた。

 

「ラナリちゃん大丈夫?」


 シリュクがカメラを点滅させラナリを凝視すると、コントロールパネルまで飛んで行った。


「さあ、さあ! 皆さんこちらです! ナカジマさんもお早く! あなたの力が必要です!」


「シリュクの言う通り、ナカジマの力も必要になるから早くあたしの隣へ来てちょうだい」


 ナカジマがヴェル博士の隣に立つ。そして、シリュクがコントロールパネルを起動させた。古代の未知なる言語がホログラムで浮き出てくる。


「よし、ナカジマは右腕をこの台に乗せてくれ」


「台ってこれ?」ナカジマが台に右腕を乗せる。


 するとナカジマの右手が古代の装置によってスキャンされる。


「よろしい! やはり貴女は古代人類の子孫のようだ! これで作動できます! この星の宙域や空を飛ぶものを無差別にハッキングし、破壊する最終防衛システムが! これでこの星にいる人類や亜人種は永久的に、強制的に救われる事でしょう!」


 ナカジマがその言葉に慌てた。


「無差別にこの宙域や空を飛ぶものを機能停止させ破壊する? それってわたし達やトオルは未来永劫帰れなくなるって事じゃない!」


 ナカジマが空しく叫ぶ中、その防衛システムが作動した。


 惑星エレミタ各地にある遺跡の地中からタワーが地鳴りと共に現れた。トオル達が最初に探索した遺跡や、ズーニッツ帝国各地にある遺跡、エレミタにある遺跡という遺跡の全てからタワーが出現する。


 そのタワーから発せられた白く輝く膜が惑星エレミタを覆っていく。エレミタ各地に出現したタワーから一筋の煌めく未知のエネルギーが発射されていく。


 そして、惑星エレミタから一天文単位内の全ての宇宙船や宇宙艦艇が人類やゲネシスの区別無く、突如動力が暴走し破壊されていく。


 宇宙でも次々と煌めく中、空に居たゲネシスの惑星揚陸艦もまた動力が暴走し爆散した。空を飛んでいるゲネシスのドロップシップや戦闘機もまた前触れなく爆散していった。


 こうして、惑星エレミタへ上陸する新たなゲネシス軍は無くなりゲネシス軍は壊滅的打撃を受けた。宇宙からの補給と空からの援護が期待できなくなった、地上のゲネシス軍は孤立無援となった。


 再編成されたズーニッツ帝国軍に、完全に殲滅されるのも時間の問題だろう。


 だが、その代償はトオルとナカジマをこの惑星にこの防衛装置が動いている限り、永久的に縛り付けるという物であったが。


年末休みに入ったので早めに投稿しました。次は日曜あたりにあげられれば投稿します。

次章二〇話で一部完結となります。次章からコミーのアンドロイドが出ます。

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