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第6話 First contact&First imprisonment 前編

 

 アネス大陸南西部の丘の上にある、ホプリス族の人口四〇〇〇人ほどの小さな街ロネは、朝から騒々しかった。いや、昨日の夜からの騒ぎが、朝まで続いていたと述べた方が正しいだろう。

 

 そして、昨日の夜に起きた、街の全員が目覚めるほどの"轟音事件"の正体を突き止めるべく、街の男達が、夜間哨戒に出た時からこの騒ぎは始まった。

 

 "轟音事件"の真相は、結局最後まで分からずじまいであったが、アルバのグループが別の事件を持ち帰っていた。

 

 このアルバのグループが持ち帰った、”少女殺し事件”の陰惨さと、捕縛された犯人の装束が奇怪であった事も、この街の騒ぎを、さらに一段と大きくした要因であった。

 

 彼らの中には殺された少女が、なぜ切断された首から血が出ていないのかとか、なぜ血が体に付着していないのかと、訝しがった賢しい者もいた。

 

 それでも、結果的にそれらの疑問は奇怪な恰好をした犯人が、特殊性癖の持ち主であり切断された少女の胴体を不埒なことに致す為に丹念に綺麗にしたということで、結論付けられた。

 

 彼らにとって、事件の内容のインパクトに比べれば、このような些細な疑問は空気に等しいようであった。さらに普段の面白いことが、ご近所とおしゃべりか酒盛りか狩ぐらいしかない彼らにとって、事件の内容のインパクトは絶大だったのだろう。


 こうして、異星人との最初のコミュニケーションが、バッドな形で終わってしまったトオルは、ロネの街の独房で目覚めることになるのである。


「……痛ってえ。なんで俺がこんな目に合わなきゃならねえんだ」


 殴られた頭の痛みで目が覚める。そしてトオルは、ひとまず自身が置かれている状況と、異星人達が怒った理由について思案を巡らせることにする。腐った水のような下水臭から、ここが地下にある独房なのだとトオルは推察した。

 

 目の前の鉄格子は、強化戦闘服のパワーアシストがあれば破壊できそうであった。しかし強化戦闘服ごと装備が没収されている。


 現在上下が黒のインナー姿だが素っ裸にされなかっただけマシだろうと、トオルは思った。

 彼は手足を拘束された体で、前に這って行き鉄格子の外を覗く。覗いた先の通路には、壁掛けランプが怪しく光を放っていた。


「外は薄暗い通路か。……看守はいない」


 独房を見張る看守が立っていないのが、トオルにとってせめてもの救いだった。

 そして、気分が若干落ち着いたトオルは、あの夜の状況を思い返すことにした。


「あいつらが怒ったのは、キューの血まみれの頭部と、首のない体を見たからか……」


 トオルにとって、思い当たる節がそれしかなかった。だとしても、甚だ迷惑な冤罪事件である。

 

 なぜなら、キューは人間ではなくアンドロイドだ。

 機械には命など宿っていない。だからこそ、トオルは人間相手ではあり得ない扱い方もするし、してきた。

 

 例えば宇宙での船外修理なんかは、アンドロイドの専売特許だ。

 宇宙服や強化戦闘服が必須の人間とは違って、生身で船外活動ができることは、アンドロイドの大きな利点であった。

 

 デブリによる事故で、アンドロイドが作業中に宇宙の塵になろうと、そこに命のやり取りはない。

 "アンドロイドの損失が一体"と報告書に書かれるだけで、葬儀もない。

 アンドロイドは断じて人間ではない。それが人類共通のスタンスだった。


「脱獄するにしてもだ。もしもこの惑星の種族があいつらだけだとしたら、これから先、この惑星から脱出するまでの長い間は、周りの全てが敵という状況になるんじゃないか?」


 あの異星人達と、和解をせずに無理やり脱獄したとして、脱獄後に待っているのは、逃れ得ぬ死である。この惑星での敵は、あの異星人達だけではないのだ、既に戦った原生生物だっている。

 

 なにより、この惑星で脅威となるものを、トオルは完全に把握したわけではない。

 戦闘が不可避の敵が、さらに増える可能性のほうが高いのだ。

 果たして、増え続ける敵を相手に生き残れるだろうか。決して生き残れないだろう。

 

 トオルはこのように考え確実に生き残るためには、敵を増やしてはならないと痛みで重たい頭を横に振り、これからの方針を決定した。


「やはり、和解をするしか方法は無さそうだな」


 ここに看守以外の異星人がコミュニケーションを取りにくれば、そいつを説得するなり、丸め込むなりするチャンスができる。和解を目的とした以上、脅しは無しだ。トオルの頭の中の作戦会議で大まかな方針は決定された。

 

「無実を証明するには、キューの存在が必要不可欠だぞ。あいつどうなったんだ? まさか火葬されたりしてないよな?」


 トオルは、もしもキューが火葬されていたらと考える。

 短時間なら大丈夫だろうが長時間の超高温に晒されていれば、確実に壊れているだろう。

 キューが壊れていたりすれば、アンドロイドは人間ではないという証明が不可能になる。

 

「ふんがあああぁ!」


 最悪のシナリオを想定したトオルは、やり切れない思いを胸に大声で叫んだ。

 トオルは独房の石壁に後頭部をぶつけ、痛みに悶えた。


 すると、可愛らしい悲鳴がどこからか聞こえた。

 この声の主は、声の高さから察するに女性だ。

 トオルはハッとして、声の主を血眼になって探す。

 

 自身が生き残るために、このチャンスを絶対にものにしなくてはならないと、トオルは必死である。

 

 声の主は、鉄格子の向こう側の壁から、顔を斜めにちょこんと覗かせていた。

 紫水晶のような瞳と、肩甲骨まで届く綺麗な薄紫の長髪が、壁掛けランプの光に反射している。

 こちらの様子を伺っている異星人の少女は、トオルと目があうと物陰に隠れてしまった。

 

 トオルは、見た感じハイティーンと推測した。十七、十八だろうか。


 それは、彼女の肌が綺麗だったのとちらと見えた胸部は豊満だったのもある。

 

 トオルの耳には階段を駆け上る音が聞こえた。どうやら、異星人の少女は帰ってしまったようだ。

 

「あの子は様子を見に来ただけかよ……」


 それから半日以上経っても、誰も来る気配がない。それどころか、食料を持ってくる者さえいない。

 トオルは諦めて横になった。横にはなったが、手足の拘束具がトオルの睡眠を邪魔する。


「……寒い」こうしてトオルの、独房生活一日目が終わりを告げたのだった。


~登場人物紹介~

ラナリ

※ホプリス族の女性。

身長158cm やや豊満。紫の目と紫の髪を持つ。長さはセミロング。非日常に憧れを持つ、お人好し。

※ホプリス族:髪色と目が紫系統、身体能力は総じて高め。それ以外は人類とほぼ同様。

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