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第58話 遺跡を巡る戦い-前哨戦- 後編


「あっぶねえな……あのムッツリめ」


 ワザとらしく肩を竦め、首を振るベッケルの肩をラボールが叩く。そんなやり取りをしている彼らの後ろでは、既に白いアーマーを着たゲネシス兵が、八両全ての兵員輸送車から展開を終えていた。

 

 その数は六四名であり、ラボール達に青いメタリックな銃口を向けている。距離は、一二〇メートルほど、本日二度目のピンチである。


「ベッケル、馬鹿な事をしている前に後ろを見てみろ。……奴らが殺気立ってる。このままだと少し不味いな」


 目の前のゲネシス兵を見たベッケルが不敵に笑う。


「そうだなぁ。数がちょいと多いのと、車両の銃口までこっちに向いてると来たら、普通の兵士なら絶体絶命だが……」


 生憎、彼らは普通の兵士ではない。古代文明の聖遺物により、体内のナノマシンが覚醒した彼らは、とうの昔に人の理から外れている人外である。帝国の人々が覚醒者と呼ぶ彼らの力は一個大隊を単独で相手取っても不足はない。


 それは、帝国の技術レベルで武装した兵士が相手の場合であるが、ゲネシスの兵士を相手にしても彼らの強さに陰りは無かった。それを先ほど証明したが故にベッケルは不敵に笑ったのだった。


「この数じゃあ足りねえよなぁ?」


「ああ、これでは足りんな」


 ラボールが歯をむき出して好戦的に笑った瞬間、光る軌跡がいくつか走るとゲネシス兵の兵員輸送車が四、五両続けて爆散した。プラズマライフルを構えていたゲネシス兵達が、突然の遠距離からの強力な攻撃に混乱する。


 ラボールとベッケルが、その隙を突く形で左右に別れ一気に敵の隊列へ突っ込む。彼ら覚醒者に隊列など端から存在しない。


 ラボールが巨腕を振るい、ゲネシス兵を白いアーマーごと拳で貫く。その遺体をラボールの背後に回ったゲネシス兵に投げつけ、ひるんだ所を回し蹴りで粉砕した。


 ベッケルは、水筒をゲネシス兵の隊列の中央に放り込み、水筒が彼らの頭上に来たところを、マンリカ式と同様の弾倉を持つ半自動式拳銃で水筒の端を撃つ。


 本来なら弾丸に貫かれた水筒は、銃弾を受けた衝撃によって不規則に回りながら何の感慨も無く落ちるだろう。だが、ベッケルによってこの水筒は、無差別に大量殺戮する兵器に成る。


 ベッケルにより、不規則な回転が掛かった水筒から溢れる水が、超高速水流となり、それが無差別にゲネシス兵を刈り取っていく。ひき肉製造機に、動物を生きたまま放り込んだような赤黒い光景が広がった。


 そして、一瞬にして戦友を失い呆然自失したゲネシス兵の生き残りに、ラボールがゆっくりと近づき、その首を掴むと無言で砕き折った。辺りは朝日が昇り始め、無残なゲネシス兵の骸と血だまりを照らし出す。


「ラボールは相変わらず容赦がねえな!」


 下品にケタケタ笑いながら血の海を歩いていくベッケル。前を見据えていたラボールが前方八〇〇メートルほど先に、新たなゲネシス兵が四〇名弱向かってきているのを発見する。


「まだまだ敵が来るようだぞ、ベッケル。前方から四〇名ほどの敵だ。……しかも、相手は野獣のような奴らだ」


「……おいおい、今までの赤いアーマーを着ている奴らじゃないな。特に一番前のデカい奴はハルバードなんて持ってやがるんだ? アホなのか?」


 敵隊列の一番前にいる、鼠色の肌を持った白いモヒカン頭のゲネシス兵を見たベッケルがあざ笑う。そして叫びながら敵中へ向かって走り出した。


「ラボールとマイヤーの出番は無いぜ! 俺があいつらを全員殺してやるからな!」


 ベッケルが、三つ目の水筒を先ほどと同じように放り投げて半自動式拳銃で撃つ。

たったこれだけで目前の敵を残さず殺せるはずだった。


 だが、結果はベッケルの予想に反したものであった。他のゲネシス兵は赤い霧となったというのに、鼠色の肌を持った白いモヒカン頭のゲネシス兵だけが、超高速水流が当たった瞬間に膜の様な防護壁が自動で展開され無差別攻撃に耐えたのである。


「……たかだか、二匹の鼠如きにやられおってからに使えん奴らよ」


「お前、さっきのをどうやって耐えやがった?」


 ベッケルは、口の端を釣り上げて目を見開く。さっきまでの余裕が消えうせていた。

 彼は目の前のゲネシス兵が、どうやって耐えたかすら理解できなかった。同時に、本能が危険だと告げている。


「己は儂をただの一兵卒だと思ってるようだな? 儂のアーマーは一部の階級が着用を許されているものだ。そのような水鉄砲では、艦艇並の防御力を持つ儂のアーマーは貫けぬぞ」


 エンキのバーバリアン然としたアーマーは、ゲネシスの艦艇が搭載しているプラズマフォースフィールドの技術を応用したシールドをアーマーに搭載したものである。これがエンキの肌を覆う形で展開し、ゲネシス小型艦艇並の防御力を発揮していた。


「ベッケル! 難敵には二人で当たるべきだ!」


 ラボールがベッケルの横に並ぶ。一騎当千の力を持つ覚醒者が、二人同時にエンキに攻撃する。ラボールはエンキの背後に回り、厄介なアーマーを破壊しベッケルが止め刺す作戦であった。しかし、この作戦はエンキに予測されていた。


「……鼠風情が鬱陶しい!」


 エンキがベッケルの繰り出す超高速水流を物ともせず、一飛びで距離を詰めると大きく三メートルほどの巨大なハルバードで横に薙ぐ。


 ベッケルがすぐさま後ろに飛びのくが、横薙ぎを躱しきれずに両足を吹き飛ばされた。


「……ぁがぁぁあぁあああ!」


 ベッケルが這いつくばり、痛みにのた打ち回った。


「ベッケル! ……この野獣が!」


 ラボールが殴りかかるのをエンキが躱す。お返しだと言わんばかりに、ラボールの腹に膝蹴りを見舞った。


 ラボールの巨体が浮かび上がり、エンキの追撃によって地面に叩きつけられる。

 

 今までこの惨状を、ただ見ているだけであったマイヤーは現状に苛立ちを覚えた。ラボールと野獣の交戦距離が余りにも近い為、対物ライフルが撃てないのである。


「……ラボールの頭に血が上り過ぎてる。……ここまで近いと撃ったら一緒に殺す事になる」


 マイヤーの耳には、今いる背の高い建物の近くを浮遊するような、独特の走行音が聞こえて来た。この音は、ゲネシスの反重力技術を使った二両の兵員輸送車である。


「……それに……私も発見された……数は、たぶん十五、六人……かも」


 マイヤーが目を閉じ、耳を澄ませて敵を探る。やはり彼女がいる六階へと、ゲネシス兵が階段を昇っているようだ。足音の軽さからして白いアーマーを着た細身のゲネシス兵だろう。


「……ベッケルは……死んだ」


 マイヤーは呟くと対物ライフルを背負うと、壁に立てかけてあったドラムマガジンの短機関銃を手にする。


 そして、今いる崩れていない窓から、壁や天井が崩壊し野ざらしになっている部屋へと移動する。下は通りでゲネシスの兵員輸送車二両が停めてあった。

 

 ゲネシス兵の足音が大きくなる。大きさからして四階を上った辺りだろう。


「ラボールも……助けに行くには時間が足りない……助けに行きたいけど割り切るしかない」


 ゲネシス兵の足音がかなり大きくなる。


「……私達の任務は遺跡の防衛戦力の把握と漸減。……私達黒服の最上位の命令は、総統閣下を命に代えてもお守りする事」


 先に到達したと思われるゲネシス兵、六名がマイヤーのいる六階へと躍り出た。そして、マイヤーに銃口を向ける。


「……私は……死ぬわけにはいかない。……少なくとも今は」


 マイヤーが決意し呟くと、後ろを見ずに崩れた壁に足を掛ける。


「……だから……さようなら」


 六名のゲネシス兵がプラズマライフルを発砲する。


 マイヤーは飛び上がり、緑の光弾を避けると空中で逆さまになった。緑の光弾が彼女を掠める中、横にした短機関銃をゲネシス兵達に向け馬賊撃ちをした。


 彼女の能力によって電磁加速された連弾は、いとも容易くゲネシス兵達の白いアーマーを撃ち抜いた。


 マイヤーはそのまま一回転し着地する。着地する瞬間、磁気操作で地面と両足を反発させ、一瞬磁気浮上し衝撃を吸収する。


 彼女は総統閣下の安全の為に、あの野獣を殺し仲間の仇討を必ず遂げる事を誓うと走り出した。向かう場所は、総統閣下が匿われている地下シェルターである。


 マイヤーはただ駆けていく。その心は表面上と反して、怒りでマグマのように熱く煮えたぎっていた。


沢山のブクマは大変励みになっております。本当に有難うございます。第三章は後二話で終わります。次の第四章二〇話で第一部完結です。

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