第51話 第一帝国技術研究所防衛戦 後編
ガンシップを操縦しているセーズが、第一帝国技研の惨状を目の当たりにし言葉に詰まっている。トオルは、アンドロイドだが人間的な反応をするセーズの横に立ち、コクピットから建物や壁が崩壊した第一帝国技研を眺める。
遺跡で見たような四脚の兵器が無残に装甲が溶け、バラバラに破壊されていた。四脚の兵器の近くには、ゲネシス兵の死体や、破壊された車両が点々とあり死屍累々であった。
「降りてスレクト様を探しましょう。見える範囲に死体はありませんでしたから、どこかに生きているはずです」
「俺はあいつを見つけたら文句を言ってやる。お前の言葉を信じたらとんでもない事になったとな。……全くこんな事になるならアルバさんの宿屋で大人しくしてりゃ良かった」
残骸の無い安全な広場に着陸したガンシップから、トオル達が降り辺りを警戒するが、付近に敵らしき者は無い。トオルは、ヘルメットを展開し装着する。起動したHUDには、やはり敵影らしき物も無く、敵は地下に移動したスレクト達を追ったか、ここから撤退した可能性がありそうだと判断した。
「トオル、スレクトさんは何所に行ったのかな?」
心配そうに辺りを見回すラナリに、トオルは思った事を告げる。
「地下に行ったんじゃないか。この研究所は地下がメインだったろ。だから、シェルターか避難通路があってもおかしくない。……それに、隠すならなんでも地下だって相場が決まってるんだ」
「……地下は墓地じゃないの?」
「まあ、既に墓地みたく死体が転がってるって事もあるだろうが……ラナリは、そういう意味で言ったんじゃないんだよな……多分」
トオル達は、地下へのエレベーターがある中央の建物まで移動するが、その建物の入り口は瓦礫で埋まっていた。瓦礫の一番上には、恐らく帝国兵の物と思われる焦げた死体があった。近づくと、その死体が力無く垂れている右手に少しだけある鱗状の組織が確認出来た。これはヴァイツ族の死体である。
「この旧時代な兵士は、爬虫類系?」
ナカジマが、死体の右手をまじまじと観察する。ナカジマの行動は、あまり見ないように目を背けているラナリとは対照的だった。
「ナカジマ、隠されていた地下へ続く非常口を発見しました。あなた様方もこちらへどうぞ」
セーズとキューが、共に地下への非常口を発見した。非常口は、野外トイレの中の男性用便器をスイッチで動かした先にあった。
ラナリが、このギミックの先の通路に行く事に嫌そうな顔を見せる。男性用便器の先に女性が行くのは抵抗があるのだろう。ナカジマもまた微妙な顔をしていた。
「トオル様、この階段は二〇〇メートルは続いていそうです」
トオル達は、長い階段を降りながら地下へ黙々と進む。そして、階段を下り切った先に明るい通路を発見した。微かだが、乾いた発砲音が聞こえる。
「急ごう」
トオルの呟きに、全員が頷くと走り出した。発砲音が段々と大きくなるが、それと反比例して音の出本が徐々に減っている。この徐々に減る音だけでもスレクト側が劣勢だと分かるのが、トオルを一層焦らせた。
トオル達は、通路を走り敵の背後に出た。距離は三〇〇メートルほどであり、ゲネシス兵の数は、一八名ほどで赤アーマーを着た三メートル近い巨体の兵士が三名、白いアーマーを着た細身の兵士が一五名である。敵は目の前の帝国兵との銃撃戦に夢中で、背後にいるトオル達には気が付いていない。奥にいるスレクトら帝国兵側が今にも全滅する勢いであった。
「セーズ! やっちゃって!」
ナカジマの制圧命令にセーズが飛び出し、両手の指の間に挟んである超小型誘導弾をリリースする。放たれた八発の超小型誘導弾は、多角的に誘導しゲネシス兵を貫き、屍を築き上げる。
ゲネシス兵が、背後からの強襲に気が付く頃には、命令を受けたキューが隊列の奥深くへ浸透し、両腕のブレードでゲネシス兵の首を草刈りのように刎ねていく。二体のアンドロイドによる強襲は、ゲネシス兵を恐慌状態に陥らせた。
浮足立つ彼らに止めを刺したのは、トオルとナカジマの自動小銃による射撃だった。二人の射撃が正確に彼らの頭部を撃ち抜き、赤い花を咲かせていく。わずかなゲネシス兵の応射も、ラナリのフォースフィールドによって阻まれた。
トオル達が、一八名のゲネシス兵全てを屠るのに掛かった時間は一分と掛からず、背後からの奇襲とはいえ完勝であった。
スレクト達に近づくと、生き残った帝国兵から小銃を向けられた。生き残りは、スレクトを合わせて四人ほどで彼らの傍らには、帝国兵の死体が転がっている。
「……待て、そいつらは味方だ。見慣れない顔が二つほどあるが……そうか、合流出来たのだな」
スレクトの「銃を降ろせ」との命令に三人の帝国兵が小銃を降ろす。トオルは、スレクトが右脇腹から出血しているのを発見した。スレクトと再会したら開口一番に文句を言ってやろうとトオルは思っていたが、流石に傷を負った彼女を責める気にはならなかった。
「スレクト、お前のその傷を見せてみろ」
トオルは、スレクトの傷の具合を確認する為に近づいた。彼女の黒い服の上から確認できる傷は手のひらほども無いが、火傷を負っている。
「……これぐらい、どうという事もない。って何をするんだ」
トオルは、スレクトの腰に装着しているナイフを抜くと、彼女の服を切り取った。露わになった右脇腹は手のひらほどの火傷が広がっていた。
「こいつは、ひでえな。痛みはあるのか?」
「……ああ、痛いな。だから、神経までは死んでない生焼きだ」
トオルは、肩のアーマーだけを外しアーマーに内蔵してある医療用ジェルを内側の格納部分から無理やり取り出した。弾丸が貫通した際に自動で止血する為の物だが、緊急時にはこのような使い方もする。
「冗談言えるなら、大丈夫だな」トオルは彼女の傷に、取り出した医療用ジェルを左手に移し塗りたくった。盛大に痛がるスレクトに安心したのか、周りの帝国兵達も笑っていた。
「で、そっちの銀髪ポニテの子がスレクトって子? あんた達の国って子どもでさえ戦場に出すのね」
ナカジマが、スレクトに話し掛ける。
「ああ、スレクトはワタシだ。……だが、ワタシは子どもじゃない」
「青い蛇眼に褐色……白い鱗みたいなのも手に生えてるのね……」
まじまじと見つめるナカジマに、スレクトが心底うっとおしそうな顔をした。
「スレクト様、ヴェル博士は何所にいるのですか?」
キューが姿の見えない博士の居場所を問い、トオルもそれに同調した。
「あの博士は何所に行ったんだ? あいつにも聞きたい事がある」
トオルは、そう言って無残な死体を眺めているラナリを見やる。ラナリが明らかに最初と比べて、死体に対する免疫が付いたと言う度合を超えている。普段は純粋な目をしているのだが、いざ戦闘になると目が据わる。研究所の入り口では、帝国兵の死体に目を背けていたのに、今では無残な死体を眺めるほどであった。トオルは、一連の戦闘によってラナリの中に別の人格が生まれたのかと思った。
「ヴェル博士は、護衛の兵士二名と共に避難通路を進んでいる。博士を逃がす為にワタシは殿をしていたのだ」
トオルは、スレクトの言葉に頷く。そして、無残な死体をぼおっと眺めているラナリに近づくと肩を叩いた。
「ラナリ、大丈夫か?」
「……うん。大丈夫」とラナリが答えるが、トオルには大丈夫そうに見えなかった。最初にラナリが人攫いを誤って殺した時には酷く動揺していたが、その頃の彼女では無くなっている。
トオルは、ラナリの手を引き無残な死体の前から彼女を引き剥がすと、彼女と手を繋いだままヴェル博士達が向かった先へ歩き始めた。他の者もまたトオルの後を進む。




