第50話 第一帝国技術研究所防衛戦 中編
スレクトは、第二小隊の生き残りと古代の無人四脚兵器を率いて、研究員達の脱出までの時間稼ぎをする事となった。研究員達は、一時的に戦闘が行われていない、この時を使って古代文明に関するデータを持ち出す準備をしており、それぞれの部署から急いで資料を持ち出し、トランクに詰めていく。
「敵の兵員輸送機が二機来ます!」見張り塔から帝国兵が大声で敵機来襲の報告をする。
見張り塔から警告が来た直後に、ゲネシスの流線型ドロップシップ二機が、スレクト達の視界に入る。そのドロップシップは、兵士を安全に送り出すために下部の砲塔から制圧射撃を行った。二機のドロップシップから紫色のプラズマが暴雨のように降り注ぐ中、スレクトが散開指示を出す。
「一か所に固まるな! 普段の訓練通りに戦うと死ぬぞ!」
帝国兵は、最初こそ訓練通りに物陰に隠れながら応戦した。だが、ゲネシスのドロップシップによるプラズマ攻撃は、遮蔽物ごと兵士を消し飛ばしてしまうほどの高火力だった。二人ほど不運な帝国兵が吹き飛び四散する。咄嗟に帝国兵は散開し四方に散った。
古代の四脚兵器が四機による対空射撃を開始した。古代の四脚兵器の連装砲から放たれる超音速のスパイク状の砲弾が、敵機を二機とも貫き撃墜する。一時的な勝利に帝国兵達が歓声を上げた。だが、これで敵の攻撃が終わるはずもない。
「おおよそ六リュガの距離に敵の車列を確認! 数は八両! 内、戦車らしきものが三両! いずれも時速は約八〇マーレで向かって来ます!」
見張り塔から、敵の車列発見の報が入る。空がダメなら地上からという事だろう。それか、空から一挙に制圧してから地上部隊を送るつもりであったのかも知れない。
スレクトは、最悪の状況になりつつある事に焦りを覚えた。元々、ゲネシスと戦うのは最低でも二、三年後のはずだった。二、三年の期間さえあれば古代兵器の発掘や技術を対等に渡り合えるぐらいの軍備が進むはずであった。
「ヴェル博士、敵の戦闘車両が来るとなるとどうにもなりません。研究資料の持ち出しが完了次第、我々も地下シェルターへ向かい地上の建物は爆破して敵の侵入経路を断ちましょう」
ヴェル博士がスレクトの作戦に半ば賛同する。
「地下シェルターに向かうのは良い案ね。でも、爆破の準備が行えるほど残された時間的猶予は無い」
「……確かに」
「だから、さっさと地下へ向かっちゃいましょう。地上には時間稼ぎに古代の四脚兵器だけを残して置くのよ」
スレクトとヴェル博士、第二小隊は地上を放棄し地下へ向かった。そして、研究員達は時間切れで持ち出しきれなかった資料を全て焼いた。
地上では、ゲネシスと古代の四脚兵器による戦闘が開始されていた。最初こそ古代の四脚兵器が戦車を含む敵車両を三両を撃破するなど優勢であったが、流石に如何に耐熱性に優れた装甲を持っていても、多勢のゲネシスの集中砲火の前にはバターのように溶かされていった。
そして、スレクトが地下へ撤退した頃のトオル達は、ティルトローターのガンシップの中で一悶着起こしていた。機内で座っているナカジマが今から向かう場所が戦闘地域だと知って難色を示した事によってである。
「研究所へ救援って何かと思えば戦闘地域に突っ込む事だったとはね」
「今更、進路を変えるなんて言うつもりじゃないだろうな?」
ナカジマのやっぱ行くのやめたとも取れる弱音に、トオルは眉根をひそめる。
「だって、そこのキューだっけ? その子は、スレクトって人の事を軍人とは言わなかったし戦闘が起きているとも言わなかったわ。それに、ここまで戦火が広がってる事も上空から見るまで分からなかったし」
上空から見える景色全てが炎に包まれているか煙が出ていた。崩壊していない建物は、見える範囲では確認できない。地上に降りれば、逃げ遅れて肉塊になった民間人もいるのだろうと、思えてしまうほど凄惨な光景だった。
キューの事だ、承諾を得るためにきっとわざと曖昧に伝えたのだろう。ナカジマの戦闘の無い所と言う要望に沿ったようにも取れるキューの返しも、実際にはナカジマの「さあ?」と言う行先は決まってないという意味の言葉に返したものだった。
「別にキューは隠した覚えはないですよ。あなたが勝手に自分の都合の良い意味に解釈しただけです」
ナカジマの額に青筋が立ったのが見えた。
「……言ってくれるわね。このアンドロイドは。あんたが隠そうとしてる事を、そこのご主人様に今ここで伝えてもいいんだけど?」
ナカジマの挑発に対してキューの緑眼が睨む。ガンシップ内が険悪な雰囲気になりつつあった。
「トオル、これって放っておいて大丈夫なのかな?」
ラナリが心配そうに、目の前のキューとナカジマの火薬庫な雰囲気を心配する。
「まあ、大丈夫だろう」
トオルは、口では大丈夫だと言いつつもキューの隠し事について気になり始めていた。
しかし、隠し事と言えども三年間一緒にいた中でそんな素振りを見せた事は無いとの結論に至った。そして、トオルは大方あの二人の戯言だろうと心の中で断定した。キューとの三年間の記憶と初めてあったナカジマ達の言動を天秤に掛けた結果であった。
キューとナカジマの口論が加熱して来たが、セーズの一言で我に返った。それは、当然と言えば当然の帰結であった。半月型の青い敵機がガンシップに急速に接近している。
「敵機が二機、こちらを捕捉したようです」
セーズが迫る危機を述べた直後、ガンシップが地面すれすれまで急降下をする。急なガンシップの挙動に、外を眺めていたラナリが額を打って悶えた。
「おいおい大丈夫なのかよ。こいつはガンシップなんだろ? 対応できないのか?」
「ガンシップに武装は確かに付いてるし、フレアもあるけどドッグファイトなんて無謀だしフレアがプラズマ攻撃に効く訳無いでしょ」
二機の敵機は、両翼にある二門の砲から指向性のプラズマを発射した。紫の光弾がガンシップの至近を通過し、地上に着弾した個所が溶けたガラスのように変化した。
高速で逃走するガンシップの前に、林が見えると機体をツリートップの位置まで正確に持っていく。まるで、糸を通すような精密な操縦はアンドロイドの得意分野であるが、セーズのそれは更に上を行くほどの正確無比な操縦だった。
セーズの操縦するガンシップが、林を超え市街地に入ると道路に沿って超低空を飛び敵弾を避け続ける。そして、遂には一発の被弾も被弾無く敵機を振り切る事に成功した。
「あんたのアンドロイドは凄腕だな」
トオルは、先ほどの森林での戦闘と今回の操縦技術の高さに舌を巻く。あっという間に、八人の敵を瞬殺した時もセーズの働きに感嘆したが今回の逃走劇も加味すると彼女に対する評価は鰻登りであった。
「あんたじゃなくて名前で呼んでくれてもいいのよ。ファーストネームでもファミリーネームでもね」
ナカジマがトオルに対して親しくするが、それを見ているキューだけは彼女達に対する警戒を解いていなかった。それどころか、トオルが目を離した隙に殺してしまいそうなぐらいの敵対心を露わにしていた。
「……じゃあ、ナカジマと呼ばせてもらうか。そっちのアンドロイドはセーズだったな。そこにいるキューとも仲良くしてやってくれ。一応は三年間苦楽を共にした相棒なんでな」」
トオルは、ナカジマに握手を求める。これでキューが彼女達に対する警戒心を解いてくれれば良いがと、内心思いながらちらっとキューを見る。アンドロイドの主人同士が仲良くしてもキューが警戒心を解く様子は無かった。トオルは、むしろ仲良くした事によってキューの警戒レベルが上がった気がした。
「わたしも仲良くしたいけど、そっちのアンドロイドとは無理そうね」
「ええ。キューもそう思います。……スレクト様の救出が終わり次第、永遠に関わり合いにならないようにしたいと切に願っている所です」
キューとナカジマが再び火花を散らす中、ラナリが外を指さし叫ぶ。
「またなんか飛んで来てる! トオルあれを見て!」
ラナリの見ている物を見ようとトオルは彼女の隣に座る。飛んできている物は、プロペラ機二〇機による大編隊であった。そのレトロチックな戦闘機の編隊は、半月型のゲネシス戦闘機隊、数機と交戦を開始した。
「……あんなのがこの国の戦闘機? 第二次世界大戦時の展示兵器の横に置いても見劣りしないわね」
「同感だ。……こんなので戦争しようとしてたのか」
ズーニッツ帝国の戦闘機は、ゲネシスの戦闘機によって次々と火達磨になって落ちていく。カトンボの如く落とされるズーニッツ帝国の戦闘機を見ながら、トオルとナカジマが失笑する。
「もうすぐ第一帝国技術研究所ですが……これは……」




