第49話 第一帝国技術研究所防衛戦 前編
スレクトが第一帝国技術研究所に着いた頃、既に小規模な戦闘が行われた後だった。敵の異星人であるゲネシスの斥候八名と、第一帝国技研を守る守備隊二八名による戦闘だった。研究所の入口近くの壁と土嚢が、蒸発したような銃痕を多数残している。敵兵の死体を見かけない所を見るに、一方的に殺られたか、みすみす逃したのだろうとスレクトが舌打ちする。
「ここにいる部隊の規模と指揮を執っているのは誰だ?」
スレクトが身近にいた灰緑色の軍服を着た帝国兵に話しかける。帝国兵がスレクトの襟にある階級章を見ると姿勢を正し、気を付けの姿勢をした。
「ここに配属されているのは、第九連隊隷下の第四中隊、第二小隊二十八名であります。指揮を執っていたオフィオ少尉は下半身が消し炭になり戦死なされました。今はラケルチ軍曹が代わりに指揮を執っております」
「では、ワタシが代わりに指揮を執る。状況を教えてくれ」
スレクトは帝国兵に状況説明を求め確認した。帝国兵が説明するには、生き残っているのはラケルチ軍曹含めて一四名のみで、敵の光弾に一発でも被弾した者は一様に命を落とし、研究員は既に地下シェルターに非難しているとの事だった。
そして、本部に援軍を求めたが何所も空からの奇襲に手一杯で指揮系統自体が混乱しているらしく、援軍は望めないらしい。
「末期的だが……リバースエンジニアリング用に鹵獲してある古代兵器を使えば、研究員達をシェルターから首都外へ逃がす時間は稼げるか」
第一帝国技研の地下シェルターは、政府要人用の避難通路が繋がっており首都外へ脱出できるようになっている。このような避難通路は議事堂など、主要な帝国政府の建物の地下に張り巡らされていた。そして、この研究所には研究用に鹵獲してある古代の無人兵器が多数存在する。
その無人兵器のIFFは、唯一古代言語を理解できるヴェル博士によって初期化されており、ヴェル博士の知識を持ってすれば古代の無人兵器を戦力に出来る。
「ワタシは、ヴェル博士に古代文明の無人兵器を施設防衛に回せないか聞いてくる。お前は、その間にワタシが臨時指揮を執る事を皆に伝えて防備を固めておけ」
スレクトの命令が下されると帝国兵が走り出した。スレクトもまたヴェル博士の所へ走る。エレベーターで地下シェルターまで降り、彼女を見つけ出した。
「ヴェル博士、ご無事ですか」
ヴェル博士が聞き覚えのある声に振り向き、相手がスレクトであると分かった直後、彼女に抱き着き、どさくさに紛れて匂いを嗅いだ。
「あたしが、オフィオの阿呆に古代兵器を使えって言ったんだけど、国宝級の貴重品だから使えないって聞かなくてさ。それで地上の戦闘は、今どうなってるの? 銃声は聞こえなくなったみたいだけど」
ヴェル博士が、ぼさぼさの長い赤髪を振り乱しながら捲し立てた。ヴェル博士の、目の色を変えた姿にスレクトは少々圧倒されたが、彼女の肩を掴み説明する。
「オフィオ少尉は戦死。生き残りはワタシを含めて一五名です。早急に古代兵器で防備を固めねば我々は全滅し、地下シェルターが敵に見つかるのは時間の問題でしょう」
スレクトの報告に、ヴェル博士が少しだけ悲しそうな顔をした。
「……それは残念ね」
スレクト達は、地下一階の古代兵器の保管庫に向かう。そして、ヴェル博士が一つ一つを起動させていく。
その古代の四脚兵器の数は全部で四機である。装甲はメタリックに輝きを放っていて、いずれも大型トラックほどの青い巨体が美しい曲線美を描いていた。脚部も同様に無骨ながら美しい曲線美である。さらに、上部に大口径の連装砲を備えていた。この連装砲は大口径のコイルガンであり、アネシア大陸の遺跡を守っていた四脚の守護者の武装を、一回りほど強力にしたと言える。
「ゲネシスの主兵装は、高火力の指向性プラズマ兵器が主体で、三〇〇〇度を超える超高温が対象を破壊するの。対する古代兵器の装甲は、融点が四〇〇〇度を超える耐熱に優れた未知の物質で造られた物よ。だから、ゲネシスのアンチ足りうる存在って訳。まあ、死んでしまった阿呆は、それが分からなかったみたいだけど……」
古代兵器の装甲は、融点がタングステンよりも高い未知の物質で作られている。この装甲は、耐熱性に優れているが物理衝撃には脆いという特徴を持っていた。それでも、チタン合金並の強度は持っているが。
ヴェル博士が、心ここにあらずな様子のスレクトに気が付くと茶化した。
「あら、スレクト。あたしの素敵な講義を聞かずに虚空を見つめちゃって、恋でもしたの?」
「まさか。少しだけ考え事をしていただけですよ」
「それは残念ね。てっきりあの人類の男の事を想っていたのかと思ったわ。折角、人類とヴァイツ族の間に子どもが出来るかのサンプルになったのに残念だわ」
「彼に対する少しばかりの罪悪感はあれど、好いてなどいません」
スレクトの答えにヴェル博士が、くすくす笑った。スレクトが無言で首を振り、全ての古代の四脚兵器がリフトの上に移動したのを確認すると、レバーを引いた。スレクト達と一緒に四機全てが地上に出る。四機とも正常にIFFが機能している事を確認すると、ヴェル博士が古代兵器に対して命令する。
「あなた達は散開して、敵ドロップシップに備えるように」
「ヴェル博士も戦うのですか?」
スレクトの問いにヴェル博士がニヤっと笑う。そして、声高らかに「勿論よ。だって、こんな機会は滅多に無いわ!」と叫んだ。




