第47話 合流 前編
「トオル、あの大きな箱船は何?」
トオルはラナリが見つけた箱舟を見る。それは、人類の宇宙艦艇であった。大きさから重巡航級だろうと推察出来た。
「あれは俺達人類の艦艇だ。とうとうこの惑星を見つけたのかと思ったが……様子がおかしいな」
「トオル様、重巡航級の予想不時着場所をHUD上にアップロードします。ですので、運転手様にどこか停車してもらって、さっさと装着してください」
キューの提案を聞いたスレクトが運転手に路肩に止まるよう指示を出す。
トオルは、建物の陰で脚部、腕部、胴部と強化戦闘服を着用した。
そして、関節部分の装甲を展開し、空気漏れが無いかチェックする。
胴部部分に格納してあるヘルメットを展開しHUDを起動。システムチェックを終え、自動小銃を背中に戻した頃、スレクトの怒声が聞こえた。
「遅いぞトオル! はやく来い!」
急いで戻ったトオルを待っていたのは、空を指して驚愕しているスレクト達だった。空には、無数の流線形のドロップシップが、これまた流線形の二キロ級惑星揚陸艦の下部発艦口から発艦し、地上に向かっていた。
「トオル様、あれは人類の艦艇では無さそうですね」
「人類の艦艇が燃えながら落ちて来て、これってのは宇宙で戦闘が起きてたのか……」
侵略者の降下艇に対して帝国の対空射撃が次々と火線を描き、それに応戦する降下艇から紫の光弾が降り注ぎ、黒煙が上がっていくのが見えた。首都ベルリナの人々も突如起こった非常事態を理解し、状況を飲み込むと郊外へ避難を始めた。ホプリス族とは違い、非常事態におけるマニュアルが存在する彼らは、不安な顔をしていたが比較的冷静に動いていた。
「……馬鹿な。早すぎる」スレクトが呆然と空を見上げ呟いた。
「取り合えず、重巡航級の墜落地点に行くぞ」
トオルの提案にスレクトが「待て」と止める。
「ワタシはヴェル博士の安全を確保しなくてはならない。おそらくは研究所も攻撃されている」
「トオル様、二手に別れましょう。スレクト様は研究所へ他の三人は墜落現場へ」
「待って、スレクトさんはそれでいいの?」
ラナリがスレクト一人だけになる事を危惧する。
「問題ない。研究所で防衛指揮を執ることになる。一人で戦うわけでは無い」
スレクトがレトロな自動車に乗り込み、研究所へ救援に向かい、トオル達三人は、重巡航級の墜落地点へそれぞれ別れて行動を開始する。
トオルは、自動小銃を構えながら郊外へ行く。その後ろをラナリを守るようにキューがついて行く。
「キュー、墜落地点へはここから五キロだったよな? 墜落による衝撃も無かったようだが」
「墜落する直前に船体を水平に戻したのでしょう。操舵手が優秀だったのか、キューと同じようなアンドロイドが乗っていたのかは分かりませんが……兎に角、幸運な方達のようですね」
トオル達が、首都の出口に差し掛かった時に前方から連続する銃声が聞こえた。帝国兵と侵略者による銃撃戦であった。
「トオル、どうするの? 彼らを助ける?」
ラナリが、物陰に隠れて前方を窺っているトオルに救援をするのか尋ねる。彼女はトオルに形式上指示を仰ぐが、彼らを助けなければという表情をトオルに向けていた。
「トオル様、彼らを助けて車両を借りましょう。徒歩で危険地帯を抜けるのは、無理があります。帝国領全てが危険地帯と言えるのですよ?」
トオルは、キューの意見に納得する。侵略者は空から無差別に降下している。安全な所など無い。であれば、機動力を重視したほうが返って安全である。
「よし、助けるぞ。キューが前、俺とラナリが後ろでいいな?」
トオル達は、一気に約五〇〇メートル前方で行われている銃撃戦中の帝国兵に加勢するために駆ける。敵の数は、六名であり、ワインレッドの大鎧を着た灰色の身長が二メートル八〇センチはある大柄なゴリラのような異星人と、身長が人類と左程変わらない白いアーマーを着た細い異星人で構成されていた。そして、丸みを帯びたカービンタイプの小銃から緑の細いプラズマを帝国兵に向けて撃っていた。
「そこの帝国兵大丈夫か!?」トオルが、物陰に隠れている帝国兵に近づくと状況を確認した。帝国兵の数は一〇名で内三人が既に死んでいた。三つの死体とも被弾箇所が抉れてそこが焼け焦げている。
「あんたらは味方なのか!?」帝国兵の一人が声を上げる。
「ああ、味方だ。キュー、建物の上から奴らの背後に回って強襲を頼む。ラナリは、フォースフィールドで奴らの光弾を弾けるかやってみてくれ」
指示を受けた二人は頷くとそれぞれの役割を全うするべく動く。キューが、壁を蹴りながら三階建ての建物の屋上へ上り、敵の背後に回った。いつでも強襲できる構えである。ラナリが、任意の場所にフォースフィールドを展開し敵の光弾を弾く。その光弾を弾いたのを見た帝国兵が歓声を上げた。
「あんたは覚醒者だったのか! これで勝てる!」
「良し。キューやっちまえ!」トオルがキューに合図を出し、自動小銃で敵を撃つ。
ラナリがフォースフィールドで敵の光弾からトオル達を守り、キューが三階建ての建物の屋上からダイブし、着地と同時にワインレッドの大鎧を着た大柄なゴリラのような灰色の異星人の首を刎ねた。トオルも、白いアーマーを着た異星人二名を仕留め、帝国兵もそれに続き、敵を制圧した。
「トオル様、敵を制圧しました。増援が来る前に車両を貸してもらいましょう」
トオルは、帝国兵に使える車両は無いか確認した。すると、使える車両は無いが放棄された民間人の黄色い自動車があると教えてもらいトオル達はそれに乗り込む。
「トオル、これって泥棒なんじゃ……」ラナリが心配そうに後部座席から話しかける。確かに普段であれば泥棒行為だが、非常事態であれば問題ないとキューが説明する。
「ラナリ、しっかり捕まってろよ。キュー、運転を頼む。あの侵略者達は轢いてしまっていいぞ」
トオルは、最初の頃と比べて随分と吹っ切れた様子だった。
「トオル様は、以前と比べると随分と吹っ切れてしまいましたね。……では、重巡航艦が不時着した地点へ行きましょう」
トオル達を乗せた黄色い自動車は、首都ベルリナ郊外の東にある湖へ向け道路を疾駆する。重巡航級は、その湖に不時着していた。
「トオル! また前方で戦闘してる!」
ラナリの声にトオルは窓から身を乗り出して前方を確認する。先ほどと同じくワインレッドの大鎧を着た大柄な灰色のゴリラが、白いアーマーを着た細い異星人達を指揮している。応戦する小隊規模の帝国兵は劣勢であった。
「数は、赤ゴリラが一体。白い細身の異星人が五体が二セットだ! キュー、そのまま突っ込め! ラナリは、フォースフィールドで自動車を覆ってくれ!」
緑のプラズマと銃弾が飛び交う間を、トオル達を乗せた黄色い自動車が突っ切る。トオル達は、不運な白い細身の異星人を三人ほど連続で轢き殺しながら突破した。
「うーん……なんだが感覚が麻痺してきたかも」
ラナリが、黄色い自動車に轢き殺され、路肩に吹っ飛んだ白い細身の異星人達を見ながら呟いた。トオルは、そんなラナリの肩を申し訳なさそうにぽんぽんと叩いた。
「純真無垢だったラナリが、トオル様によって穢れてしまいましたね」
「誤解を招く言い方だな。言っとくが、不可抗力だぞ」
トオル達の周りの景色は、深い森へと変わっていた。重巡航級が不時着しているベルリナの東端に位置する湖に近づいた証であった。前方でまた銃声が聞こえる。だが、この銃声は帝国兵の小銃ではない。
「トオル様、ここからは降りて向かいましょう。先ほどの銃声は、クロアチアのHSP社製ブルパップ式自動小銃です」
キューの説明は、トオル以外の人類がいるという事だ。だが、戦闘でその人類が死ぬ可能性もある。
「早く見つけないとダメだな。キューは、木を伝って銃声の主を探してくれ。俺達は、地上から探す」
キューが素早く木の上に上り、飛び移って進むのを確認したトオルは、ラナリと共に走り出した。緑の光弾と銃弾の軌跡が目に入る。距離は二〇〇メートルであった。
「トオル様! 敵と人類を見つけました! 敵は三〇名弱、人類は一名でアンドロイドが一体です!」
キューが目標を見つけると同時に、トオルのHUD上にも敵と人類が映った。トオルは、白い細身の敵に向け、素早く自動小銃を三発発砲する。
「トオル! 真横!」トオルは、ラナリが叫ぶ方向を見る。陽炎の様な影が一体、トオルに向かって突っ込んで来るのが見えた。陽炎の様な影は、柄から磁力線により成形された紫のプラズマ刃を持ったサーベルを構えていた。
トオルは、咄嗟に黒いシースナイフを右肩から取り出し相手に向けるが、相手のプラズマサーベルにナイフを切り払われてしまった。トオルは、刃だけ無くなったナイフをしばし眺める。そして、こいつは不味いぞと思った矢先、トオルの体が思いっ切り横に吹き飛ばされ、太い木の幹に打ち付けられた。衝撃によって猛烈な鈍痛が背中を伝い、息が詰まる。
「……ぐえっ! 今のはラナリの力か……!」
陽炎の様な影がラナリにゆっくりと近づき、彼女の胸倉を掴んで持ち上げた。トオルは、鈍痛に耐えながら左斜め前に転がっている自動小銃を掴もうと這う。
陽炎の様な影がプラズマサーベルを振りかぶり――




