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第43話 第一次エレミタの戦い -First Contact War- 後編

 

 ――こちら、SSUC駆逐級アサヒの艦長フジワラである――


 ナカジマは、軽く自己紹介した後、駆逐級アサヒの艦長に対して作戦を伝える。


「フジワラ艦長。あなたの船に、EMPミサイルは搭載してありますか?」


 ――あるにはある。だが、EMPミサイルを確実に当てるには接近する必要がある――


「それでは、EMPミサイル搭載艦を八隻集めて下さい。そして、敵艦の真横にワープしEMPミサイルを発射。その後、プラズマフォースフィールドがダウンした敵艦に向けてレールガンを一斉射……なんてどうですか?」


 ――正気か? ワープアウト直後は火器管制システムも不安定になるんだぞ。敵艦に命中させる事も難しいだろう――


「ですから、肉眼ではっきりと見える位置にワープしてEMPミサイルで攻撃するんです。これなら、一隻を確実に仕留められるはずです」


 ――それなら確かに命中させる事は可能だろうが……。君の作戦に賭けてみよう。私から僚艦三隻と友軍艦に君の作戦を伝える――


 ――ただし、私からの発案という事にしておく。無名の者からの意見は、例え有効であってもプライドが邪魔して聞き入れぬ輩も多いのだ。君はそれでいいか? ――


 フジワラの懸念は、組織に属する者として至極当然な事だ。ナカジマも、それを心得ていたし、何よりこの作戦は実のところ一矢報いる為だけでは無く、彼らの奮戦を裏切るような行為でもあった。


「ナカジマ、これは一矢報いる為だけでは無いですね」


 セーズが、ナカジマの真剣な目を見てニヒルに笑った。彼女の本当の意図を察したからである。


「まあね。こんな負け確定の艦隊戦で死ぬつもりは無いし。んじゃ、あたし達もワープの準備に入ろうか。そうそう、宗谷丸も忘れずにね」


「了解。射撃を中止し、全電力をワープドライブに回します」


 エイトフラッグ号と宗谷丸は、共にワープ準備に入った。そして、SSUC駆逐級アサヒから敵艦に向けてワープする準備が整った事を知らされると、五秒後に友軍艦八隻と共に、一隻の敵大型艦へワープした。


 エイトフラッグ号と友軍艦八隻は、全長三キロ超もある敵大型艦の真横にワープアウトした。その座標は、惑星エレミタから五〇〇キロ、敵艦から五○○キロである。惑星エレミタの蒼く美しい全貌が、エイトフラッグ号の艦橋からも見る事が出来た。


 ナカジマ達の標的となった敵大型艦は、位置的には艦隊の最後尾に居た。そして、ナカジマ達の戦隊を確認した後、幾つもの発艦口から、二枚の丸みを帯びた主翼を備えた楕円形の艦載機を巣を突かれた蜂のように緊急発進させていた。


「こいつ空母だったのか……」


 ナカジマは、迂闊だったと悟るが作戦が動き出した以上はやるしかなかった。後は運命を天に委ねるのみである。


 今回の作戦に使われたEMPミサイルは、本来は宙賊の艦艇に対して武装を解除させる目的で使用されている物であった。それを、プラズマフォースフィールドを打破する為に、多数のEMPミサイルが友軍艦から発射された。


「駆逐級アサヒ、以下駆逐級六隻、軽巡航級一隻が、敵重空母級と思われる敵大型艦に向けてEMPミサイルを発射。……着弾まで四、三、二、一」


 セーズのカウントが終わると同時に、八十発を軽く超えるEMPミサイルの直撃によって、敵重空母級のプラズマフォースフィールドがダウンした。再度その事実を確認するかのように、各艦のレーダーに敵重空母級の反応が大きく表示される。


「セーズ、友軍の重戦艦級とデータリンク急いで!」


 エイトフラッグ号の情報がSSUC重戦艦級ヴュルテンベルクとリンクする。同時にSSUC駆逐級アサヒもSSUC重戦艦級ヴュルテンベルクとデータリンクし、敵重空母級への砲撃要請が送られる。


 その要請が速やかに受理され、そして――


 SSUC重戦艦級ヴュルテンベルクの超大型連装重レールガン四基、八門による亜光速の弾丸が敵重空母級を貫いた。光速の約五分の一の初速と、イリジウムの弾芯を備えた質量二〇〇トンの砲弾は、未知の装甲であっても容易く貫徹した。


 敵重空母級が、プラズマ爆発を船体に次々と煌めかせながら断裂していく。人類初の戦果であった。この希望の光とも言える煌めきを見た連合政府艦隊は、歓喜の声を上げた。


「ナカジマ、作戦が上手く行きましたね。これで次は……ついにあれですか」


「ええ、わたし達は、敵の一瞬の混乱に乗じ惑星エレミタへ降下する!」


「機関最大戦速。一気に惑星エレミタへ接近し、降下します」


 エイトフラッグ号と宗谷丸は、その重厚な艦首を惑星エレミタへ向け急加速した。だが、敵艦載機の生き残りによる追撃を受ける。七六ミリ近接防御火器システム群が敵艦載機八機を捕捉し、近接防御射撃を実施した。


 敵艦載機を迎撃している最中、セーズがナカジマにある事を聞く。それは、敵重空母を撃沈した後の戦況についてである。


「ナカジマ、我々が行った作戦を友軍艦隊が行ったようですよ。……結果を聞きますか?」


 セーズの問いにナカジマは右手をひらひらさせて答えた。ある予測も交えて。


「別に聞かなくてもいいわ。だって分かり切ってる事だもの。……あれは二度は通用しないってね」


 彼女のあっけらかんとした答えに、セーズは大きく首を縦に振った。


「……良くわかりましたね。ナカジマは一度スイッチが入りさえすれば、聡明になります。普段は途方もないほど馬鹿なのに」


「……馬鹿ってゆーな」ナカジマは、口を端に寄せて自身の評価に対して抗議する。


「さて、友軍艦隊ですが……ああ、最悪ですねほんと」


 連合政府の大艦隊は、重空母級六隻、重戦艦級二二隻を含む六八隻を喪失していた。既に、生き残った艦艇はこの宙域から撤退するべく、回頭し、準備を終えた者からワープしていた。そのおかげで、フリーになった敵駆逐級一隻がエイトフラッグ号の後ろに喰いつくのだった。


「敵艦載機の次は、敵の駆逐級ね……ここがわたし達にとっての正念場よ」


 ナカジマは、大きく息を吸ってセーズに指示を出す。


「セーズ! 宗谷丸を緊急回頭させて敵駆逐級に突っ込ませて! 宗谷丸を囮にする!」


「ナカジマ、その次は?」振り返りながら、次の指示を聞くセーズに対してナカジマは自信満々に微笑を浮かべた後、次の指示を出した。


「逃げるのよ! 目の前の惑星にね!」


 宗谷丸が緊急回頭し、敵駆逐級に小型レールガンを撃ちながら突撃する。そして、その豆鉄砲を撃ちながら進路を妨害し続ける。敵駆逐級は、最初こそ宗谷丸を無視し続けていたが、次第にうっとおしさを増す宗谷丸に対し、堪忍袋の緒が切れたのかプラズマ砲を撃ち込んだ。宗谷丸が一瞬で爆散する。


「スモークディスチャージャーとレーダーチャフ!」


 宗谷丸が爆散したのを合図に、エイトフラッグ号の艦尾から大量の白い煙幕が撒かれた。この煙幕は約一億個の微細な球体のナノマシンで出来ている。磁場を用いたマイクロイオンスラスターにより、その場に留まり続ける。


 敵駆逐級の視界が煙幕によって妨害される。さらに、大量に撒かれた金属片によって敵駆逐級の目を撹乱した。


 おまけにこの煙幕は、性質上は微細なデブリとなんら変わらない。追ってくる敵に対してプレッシャーになり得る物だった。今回の場合は質量を捻じ曲げ跳ね返すプラズマフォースフィールドを備えた敵である為、意味を成していないのだが。


「セーズ、撒けそう?」


「答えはいいえです。このままでは、セーズ達が負けそうです」


 プラズマフォースフィールドだけでは無く、敵駆逐級は人類の技術体系では作られていない索敵装置も備えていた。つまりは、セーズの言うようにこのままだと敗北は不可避である。


 敵駆逐級の放った数十に及ぶ紫の光弾が、エイトフラッグ号に迫る。内、一発が左舷の補助推進装置に直撃する。補助推進装置内で起きた爆轟により艦内が揺れ、ナカジマは咄嗟に頭を守る。


「被害状況の確認を急いで!」


 セーズが、タッチパネルを操作しカメラを切り替え、被弾した補助推進装置を映す。被弾により補助推進装置の装甲の一部がガラス化していた。内部の整備区画にも火の手が上がっており、可燃性の推進剤に引火もあり得る状況だった。


「左舷ブースター緊急パージ!」


「了解。左舷ブースターをパージします」


 パージされた直後、補助推進装置が爆発し煌めく。


「爆発したブースターの破片により、七六ミリレーザーCIWSの二基がダウン」


「追撃がしつこいっての!」


 敵駆逐級から紫の光弾が複数発、エイトフラッグ号を通過していく。いつ直撃してもおかしくない状況だった。事実、数発が船体の至近を掠めて大きな傷跡を残している。


「命中率が悪いプラズマ砲は逆に神経に来るわね……!」


 ナカジマが二六年の人生を諦めかけた、まさにその時であった。


「SSUC駆逐級アサヒから発光信号です」


 ――我にこれ以上の継戦能力無し。なれども一矢報いんと敵艦に突貫せんとす。お先に失礼――


 SSUC駆逐級アサヒが、敵駆逐級の上部へ衝突した。敵駆逐級のプラズマフォースフィールドは、駆逐級アサヒの艦首を破壊した後、電力供給が追い付かなくなりダウンする。

 そして、駆逐級アサヒは敵艦を巻き込み爆沈した。アサヒと敵駆逐級の煌めきが、ナカジマのモニターに映り込んだ。


「……惑星へ降下開始」


 エイトフラッグ号は、ボロボロになりながらも大気圏へ突入する。こうして、ナカジマ達は惑星エレミタへ降下したのだった。


 それは、さる人物からのリクエストに基づいてのサブミッション的なもので確信犯的な降下である。


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