第42話 第一次エレミタの戦い -First Contact War- 前編
エリダヌス座ベイド星系から六天文単位外れた宙域にて、太陽系連合政府の艦隊が居た。この宙域には、地球に酷似した惑星と月、恒星が突如として出現した。そして、その惑星に臣民が不時着したとの報告により、これを救出するべく大艦隊が組まれた。だが、これは薄っぺらい建前である。この宙域にいる者達は、政府の新たな植民星獲得の為の艦隊派遣である事は周知の事実であった。
この宙域に再び現れた者達がいた。カゲツ・ナカジマおよび相棒の第六世代型軍用アンドロイドのセーズである。彼女達は、長細い箱型船体の左右に前面が楕円形の補助推進装置のついた、重巡航級エイトフラッグ号に搭乗していた。その艦艇の隣には、多少の武装が施された無人の宗谷丸の姿も見える。
このエイトフラッグ号は、全長七八二メートルもあり、全幅は最大幅で一四二メートルほどもある。
全高は一番高いところで八二メートルだ。
武装は、連装重レールガン八基を中央の箱型船体に左右上下均等に背負式配置で搭載している。さらに、近距離防空用の七六ミリレーザーCIWSを一二基搭載していた。この近接防御火器はレーザーであり、実体弾ではない。レーザーレンズの口径が七六ミリであり、レーザーCIWSの砲塔に搭載されたジェネレータとバッテリーが確実な動作を保証する。
装甲は最新式のチタン合金装甲である。
「ナカジマ……まさか政府から頂いた莫大な資金を、これに全てつぎ込むとは思いませんでした。しかも、得体の知れない種族との戦争に参加するなんて……」
セーズが、タッチパネルで火器管制制御のチェックを行いながら愚痴を漏らす。彼女の言うように、ナカジマは、この前の任務の報酬として手に入れた莫大な資金を、このファーストコンタクト戦争、後の第一次エレミタの戦いに参加する為に、エイトフラッグ号の改装費用に全て使ってしまったのだ。
「わたしの"不滅の御旗"の初陣には丁度いいでしょ?」
ナカジマは、自信満々に腕組みをしながらふんぞり返った。彼女は、この戦争で新しく設立したPMCの"不滅の御旗"の宣伝をして、あわよくば政府より先に惑星へ降下し利権の一部を手に入れてしまおうと企んでいた。
「……ナカジマは、ブリザードにでも遭ってそのまま死んでくれませんかね?」
セーズが冷たい目をナカジマに向ける。その目が頭に来たのか、ナカジマは大声を上げて喚き、右手で肘掛を叩いた。
「うっさいわね! ブリザードになんて遭わないし、死なないわよ!」
「初陣で死地に飛び込む馬鹿なんてどこにいるんですか? ……いえ、失礼。ここにいましたね」
ナカジマは、ああ言えばこう言うセーズに対して頭を抱えた。ただ、ナカジマ自身この戦争はちょっとやばいかなという気持ちはあった。だがそれが、この宙域に投入する政府の艦隊の規模と、改装を終えて政府の艦艇に迫る性能を獲得したエイトフラッグ号を見た事によって、大丈夫だろうという楽観に変えてしまった。
「政府の艦隊が何隻いると思ってんのよ。一二〇隻よ! しかも、重空母級が一〇隻に加えて重戦艦級が三〇隻もいるんだから勝つに決まってるわ」
重空母級。全長二キロを超す超大型艦艇である。艦載機として一〇〇メートルのフリゲート艦を八〇隻、三五メートルの戦闘機級を一八〇機搭載しており、二隻集まれば一つの星系を掌握できると言われている。アメリカが保有する最大の重空母級は三キロを超す。
戦闘機級は全て無人機である。その姿は先端が円錐状に絞られた単純な円筒形で後部には偏向推力の推進器が剥き出しで付いており、機体の上下左右に汎用の武装ラックが取り付けてある。
フリゲートは左右非対称の平たいタイプと錨型のタイプが存在する。小型ゆえレールガンは搭載できず、専ら硬芯徹甲弾での大型狩りか、キャニスター弾での敵戦闘機級狩りが本分の艦だ。
重戦艦級。全長一キロを超す大型艦艇で、超大型重レールガンで武装し、且つ多数の近接防空火器および、対艦核ミサイルを搭載した主力艦である。
ナカジマは、この過剰とも言える大艦隊を前に大丈夫だろうと高をくくったのである。いや、ナカジマだけでは無く、この宙域にいる者達は皆そのように思っていた。
「確かに、普通の敵なら交戦開始数秒後には宇宙の塵になっている事でしょう」
「どんな敵だって血が出れば死ぬし、どんな船だって弾が当たれば沈むのよ。よってセーズが心配する事は一切無いから」
ナカジマは、論戦は終わりだと言わんばかりに極端な話を持ち出した。
「ナカジマ、太陽系連合政府の連合司令部付き旗艦から艦隊全体にレーザー通信です」
「話を聞こうじゃない」
セーズが、通信を繋ぐと初老の男の声が艦内に響いた。
――聞け、諸君らよ。我々は、これから初の星間戦争を経験する。だが、恐れることは無い。己が培った経験を信じ、助け合い、来たる未知の領域へ臨もうではないか――
「これって政府が勝てば、わたしの名前も英雄として語り継がれるって事よね」
ナカジマは、目を輝かせて英雄として有名になる事を期待した。
「ええ、語り継がれますよ。慰霊碑に名前が刻まれますから」
セーズが、肩を竦めて首を横に振りながら皮肉った。
「SSUC観測艦コンラッドが所属不明艦隊を捕捉。……コンラッドとデータリンク中」
「おかしいわね……レーダーに何も映ってないけど」
SSUC観測艦コンラッドが、所属不明艦隊を捕捉したがレーダーには影形も無い。
「所属不明艦は、プラズマの力場で船体を覆っているようです。熱源探知に切り替えましたら、こちらでも捕捉できました」
所属不明艦は大小の違いはあれど、全ての艦が曲線美の美しい流線型をしており、船体がメタリックで青白く輝いている。人類とは、全く違う技術体系による艦艇であった。
「彼我距離と数は?」
「所属不明艦隊との距離、およそ二万キロ。所属不明艦は全部で二七隻です」
こちらの約三割ほどの戦力であった。ナカジマは、ほくそ笑んで勝利を確信する。
「たったの二七隻なんて楽勝ね」
「超大型の所属不明艦から連合政府の全艦隊に向け、映像付きの通信が入ります」
スクリーンに映し出された異星人は、下あごから短い牙の生えた厳つい顔をしており、三角の鼻は潰れている。そして、肌が全体的に灰褐色で三メートル近い筋肉質な三メートルを超す巨体だ。
さらに、その巨躯を重厚な朱色のアーマーで覆っており、その井出立ちが好戦的に映る。
「こいつが異星人か……なんていうか、物凄く不細工」
「人類の美的感覚からすれば不細工ですね。彼らの中では美男子かも知れませんけど」
「不細工ゴリラの前に出てきたのは、人類が見ても美人じゃない?」
巨漢の異星人の前に出てきた異星人の女性は美形だった。その女性は、金色の長髪に赤い目をしており、肌は病的なほど白く、耳は長い。そして、体のラインが出る白い装束が彼女のスタイルの良さを表していた。
その異星人の女性は、巨漢の異星人の前に立ち、カメラの位置をガチャガチャと調整している。そして、調整が終わると巨漢の異星人にサインを出す。
「……一部始終映っちゃってるけど、これって放送事故?」
ナカジマが鼻で笑っていると、巨漢の異星人が低い濁った声で話し出す。彼が何を言っているのか言葉の意味を理解できなかったが、恐らくは宣戦布告のニュアンスだろう。身振り手振りを交えた彼の演説が終わると通信がぷつっと切れた。
通信が終わった直後、所属不明艦の一隻から紫色の光弾が放たれた。その所属不明艦の敵対行為を確認した連合政府の艦隊はこれに応戦し、敵艦隊に対して一斉射撃を敢行する。
これにより、太陽系連合政府とゲネシスによる、ファースト・コンタクト戦争が勃発した。時は西暦二四三六年である。
連合政府の重空母級を中心とした機動部隊が、フリゲート艦や戦闘機級を発艦させ前方に展開させていく。艦載機隊、艦載艦隊はハの字に隊列を組み、敵の重空母級の半円型の艦載機と交戦を開始した。
彼我の艦隊の間を、紫の光弾と橙色の軌跡が交錯する。暗い宇宙を亜光速で飛び交う軌跡は、見る者を圧倒させた。誰もが、大規模な艦隊戦を経験した事など今まで無かったからだ。しかも、相手は異星人の艦隊である。だが、艦隊全体に蔓延した、ある種の高揚感も直ぐに焦りへと変化した。
連合政府の機動部隊から放たれたフリゲート艦や戦闘機級の大部隊は劣勢だった。敵の艦載機を一機をやっと落とす前に、五倍以上の被害が出ている。数では押しているはずだが、あっという間に数もイーブンである。この調子であれば、連合政府の空母級達は置物と化すだろう。
「……ナカジマ非常に不味い状況です。こちらの攻撃は全て、敵艦が展開しているプラズマフォースフィールドによって阻まれています。要するにエネルギーシールド技術というやつです」
セーズが、友軍艦隊の砲撃結果を報告した直後、エイトフラッグ号の右舷上部を紫の光弾が掠めていった。そして、通り過ぎた紫の光弾は、あろうことかエイトフラッグ号の八〇〇キロ後方にいた重戦艦級を一撃で葬り去った。
流れ弾に当たった重戦艦級が、小さな恒星のように瞬き爆沈する。付近にいた小型艦艇や戦闘機級も、重戦艦級の爆沈によって発生した大量の破片に巻き込まれ、次々と誘爆していった。
それを目撃したナカジマは、さっと血の気が引いた。口を半開きにして、放心している。
「重戦艦級ニューハンプシャーが爆沈しました。続いて、駆逐級ハル及びマクドノーも爆沈。重巡航級エトルリアも被弾後、弾薬が誘爆し漂流中です」
ナカジマは、次々と報告される友軍艦の訃報に耳を塞いだ。
「そんな一辺に言われても、分かるわけないでしょ!」
「ナカジマ、悠長にしている時間はありません。セーズ達だけでも撤退するかを決めなければ……」
「セーズ、付近の友軍艦艇にどれでもいいからレーザー通信して」
ナカジマは、レーザー通信で付近の友軍艦艇と連絡を行う。これは、敵艦隊に一矢報いる為の通信であった。エイトフラッグ号からの通信に中年の男性が答えた。




