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第4話 最初の”first contact”はクソッタレ 前編


 ロネの街に住む、ホプリス族のアルバは、目前の光景に困惑していた。

 アルバに収集された、街の男達十八名もまた同様に困惑している。

 そればかりか、この光景に憤っている者もいた。

 

 彼らが松明で照らした先には、見た事もない家ほどの大きさの鉄塊と、その上には年端のいかない少女のものと思われる、首なしの遺体があった。少女の遺体が身にまとう服は、所々破れていて白い肌が見えている。

 

 さらに彼らの目前には、血濡れた首を抱えた顔の見えない男が、こちらの足元を白い光で照らしていたのである。アルバ達は、困惑せずにはいられなかった。

 

「アルバさんあれって……」


 アルバの隣に立っている若い男が、首のない遺体と血濡れた首を、振るえる手で交互に指をさす。震える男の背後には、この光景に吐いている者もいた。

 

 アルバは、状況を理解し憤慨した。それは、ある種の正義感に似たものであった。

 

 アルバには、亡き妻に似た美しい娘がいる。そして娘を溺愛していた。

 ここにいる男達が、何人か嫁入り前の十四歳の娘に求婚した際には殴って追い払うほどであった。

 

 そして、彼は子育てを通じて男手一つで娘を育てる事の大変さ、嬉しさを、誰よりも知っていると自負するほどになった。


 そんなアルバの目前に、少女の血濡れた首を持った男が立っていた。

 アルバからしたら、これは許しがたい光景である。

 

 ゆえにアルバは、この状況に対してある種の正義感に似た気持ちで憤慨したのだ。


「横に広がって奴を包囲しろ。殺された娘の親の前で懺悔させてやる……!」


 殺された少女の親の無念を思い、アルバは男達に指示を下した。


 武器と松明を持った男達はアルバの指示に従って、ゆっくりと目前の人殺しを包囲していく――


***


 時は少しばかり遡る。

 

 トオルは引き続き、夜の草原を歩きキューのボディと不時着した脱出艇を探し歩いていた。

 空は大きな月が出ていて明るい。ステーションでは見ることの出来ない綺麗な月だった。

 

 喉の渇きを癒すため、ヘルメットを強化戦闘服に格納し、水筒から水を飲む。トオルは、命のやり取りをした後の水は、いつもより美味しく感じたのか三分の一まで飲んでしまった。

 

 トオルは水筒を仕舞って、ヘルメットをまた展開しヘッドランプをつける。ヘッドランプが目の前の小さい花を照らす。そのスポットライトに照らされた可憐な花は、少しだけ緊張したトオルを和ませた。


「トオル様、一度に沢山飲んではダメですよ」


「わかってるさ。それより、ボディの電波は受信できたか?」

 

 ただ歩いて探しているだけでは、埒が明かないと判断したトオルは、キューにボディから発せられる電波を受信させていた。


「先ほど電波発信源から、ボディの場所を特定しました。体を二時の方向へ向き直ってください。そこから約二〇〇〇メートルの距離を直進です。……ボディが有れば、バッテリー切れを気にせず高度な演算ができるのですが……」


 キューが、完全な性能を発揮できないことをぼやく。


「少し急ぐか」トオルは歩くスピードを速め、目的の場所へと急いだ。


「脱出艇も、早く見つける必要がありますね。あれには非常用装備各種と予備弾薬、そして三か月分の食料と水もあるはずです」

 

 脱出艇にある物資を確保できれば、当分の間は生きていけるだろう。

 それから、物資を使って簡単な拠点を構築し、救出を待てばいい。

 脱出艇には、救助要請を行うための通信設備もある。

 

 トオルは、このような思考経路で案外簡単に生還できるのではないかと思い始めていた。

 今後を楽観的に考えながら、ひたすらに歩いて行くと、小高い丘がトオル達の視界に入った。


「あの丘の先に、キューのボディがあります」


「あの丘の先はどうなっているんだ?」トオルは、丘の前で足を止める。

 

 トオルは、不用心に丘を越えたら、さっき戦った原生生物の巣でした、なんてこともあり得ると思考する。今度こそあれが複数で襲ってきたら、間違いなく無残に喰われるだろうことも容易に想像できた。


 トオルは、その無残に喰われる自分を想像し恐ろしさに身震いした。


「現在のキューではそのような高度な分析は出来ません」


「そりゃそうか」トオルは、諦めて溜息をつきながら丘を登り始める。


 トオルは、丘の頂上に到着し、ぐっと腰を伸ばした後、丘の裾野に目を向けた。

 丘の裾野は谷間のような地形になっていて、そこに前部が半壊した楕円形の脱出艇があった。

 

 脱出艇上部にはキューのボディが仰向けに転がっており、ボディスーツは所々破け白磁のような冷たさを放つ肌が露出していた。


「あー、やっぱり服はボロボロになってるな」


 その言葉を聞いたキューが、見るからに不機嫌な顔をしたのを見たトオルは、これ以上キューの機嫌を損ねないように急いで丘を下る。これ以上、彼女を不機嫌にする訳には行かなかった。


「ボディの損傷を確認します。――損傷は確認できず」


「さすがは最新鋭のアンドロイドだな」


 トオルは、ここぞとばかりにキューをおだてる。だが、キューの恨み節は続いていた。

 

「適当なお世辞を言っても、キューをこんな目に合わせた事実は消えませんよ」

 

 さて、無事に脱出艇とキューのボディを見つけたトオルは、グルグルと脱出艇上部へのルートを探し始めた。しかし、残念ながらビル二階分の高さもある脱出艇上部へのルートは見当たらない。


「なあ、キュー、梯子って積まれてたっけか?」

 

「テレスコピックラダーなら、脱出艇後部の貨物室に積まれているはずです」


 トオルは、キューに軽いお礼を言いながら、脱出艇の破孔部を右手で掴み思いっ切り横に引く。みるみるうちに、破孔部が大きな音を立てて広がっていく。少し高めの青年が通れるほどの穴が開いた。


 これで少しは現状が楽になるはず……だったのだが、どうやら神様はそうさせてはくれないらしい。

 キューによる警告が、トオルをそのように思わせた。


「警告します。後方に複数の生命体を感知しました」 


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