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第38話 力の一端 前編


「この街は、ほんと綺麗だよなあ。坂が多いのだけが難点だが」


 トオルが、ロネの街を散策したのは、これで二度目になる。トオルの目には、ロネの街が今の人類では作れない芸術的な美しさを感じていた。白壁に赤色の木組みの家々と朱色の煉瓦や石畳、このロネの街は、発展した人類が失った技術の塊であると言えた。


「トオルはこの街には慣れた?」


「そうだな。おかげ様で慣れたよ」


 彼らに捕まった時は、この世の終わりな気分だったと記憶している。

 しかし、ラナリやアルバがトオル達の事を、街の人々に説明してくれた甲斐もあり、街の人々と馴染むことができた。正直なところ、この街の人達に排除されるのもトオルは覚悟していた。


「この街は人口が少ないのに、城塞都市として機能するのか?」


 トオルの後ろから、スレクトのロネの街に対する疑問が聞こえてきた。

 

 ロネの街というのは、二五〇年ほど前までは、人口も今より六倍以上もいた。

 当時の領主は王族の家系であったらしく、王都ネベランへ続く要衝であるこの街を、莫大な金額と労力を掛けて、城塞都市として作り上げたのだ。

 

 だが、アネス大陸が現在のイーギス王家に統一され、王権が集中し、平和になった後は街の人々がより豊かな土地を目指して、積極的に開拓をして行く事になる。郊外に広がる畑などもその名残だ。


 その結果、今のような人口に落ち着いた。

 

「戦争なんて、今はもう起きないから大丈夫じゃないかな」


「……そうか」ラナリの答えにスレクトのトーンが低くなる。


「スレクト様はホプリス族の事を、"諦観した種族"だと仰っていましたが、それはなぜなのですか?」


 キューの、その疑問ついてもトオルは、ずっと気になっていた。なぜ、彼らがそのように呼ばれているのだろうかと。トオルは、スレクトの説明を歩きながら耳を傾ける。


「それは、未だに産業革命を経験していないばかりか、遺跡の聖遺物にも興味を示さない。そして、外国との国交も断っているだろう。だから、ワタシ達には全てを諦めたように映るのだ」


 トオルは、スレクトから見たこの国の状況の説明を聞き、彼女から朝にズーニッツ帝国の目的を教えてもらった事を思い出していた。帝国は、この国を保護するのが目的でホプリス族の文明を急速に近代化させるとも言っていた。


 トオルは、彼ら帝国の傲慢とも取れる目的に呆れを抱く。そして、同時に帝国が先進的な文明と戦う未来にあるという事実を思い出し、トオルの気分が徐々に落ち込んでいった。


「では、無理やり開国させようと考えなかったのですか?」


「それも一度は考えただろう。だが、この国の遺跡の秘密が発見された時に帝国は方針を変えたのだ」


 トオルは、足を早めて街中を歩く。折角、息抜きの散策だと言うのにスレクトとキューの御堅い話なんぞ聞きたくは無いと言わんばかりに、早歩きで進んだ。さっさと進んでいくトオルの右手が握られた。トオルが振り返ると、ラナリの手がトオルの右手を掴んでいた。


「トオル、待って。……キュー達とはぐれるよ?」


 トオルは、ラナリの心配そうな声に返事をする。


「俺は息抜きに来たんだ。あんな話は聞きたくない」


 トオルは、ラナリがいる方向に向き、キュー達の姿が見えない事に気が付くと、良いことを思いついた。ラナリと二人で街を回れるのなら良い息抜きになるだろう。トオルは若干の邪まな考えを巡らせて、彼女に提案した。


「な、なあ、丁度いいから一緒に街でも――」


 トオルのぎこちない誘い文句は、街の人々の悲鳴に上書きされてしまった。

 トオルは誘い文句が上書きされたことに対して、内心舌打ちをしながら、悲鳴がした場所に首を傾け視線を投げた。


 視線の先には、ボル族の男がホプリス族の女の子を攫い走り去っていく、まさに人攫いの瞬間であった。トオルは、ぎょっとして女の子を攫っていくボル族の男を見た後、ラナリの顔をちらっと見た。ラナリなら、積極的に女の子を助けようとするに違いないと思ったからであった。


 そして、トオルの予感は的中した。やはりラナリという女性は、好奇心旺盛で肝が据わってるばかりか曲がった事が嫌いなようだと、諦めに似た感情を覚えた。


 トオルが、ラナリを説得しようと横を向いたときには彼女は既に走り去っていた。トオルは急いでラナリの後を追う。


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