第35話 トオルの過去 後編その2
アカフの隠れ家は宮殿と礼拝堂の間の地下にあった。その隠れ家は、権力者用の核シェルターを改造した軍事拠点であった。
「隠れ家なんて良く見つけたな……」
「エリックから作戦の説明を受けた後、散った仲間の装備からこれを拝借したの。あなた達を救出する事が出来たのも、これのおかげ」
ケイトが、トオルに見せたそれは虫型のマイクロドローンだった。
宮殿でアンドロイドに惨殺された分隊員が持っていたものだ。
……死んだ戦友の装備を拝借するのは、どんな気持ちなのだろうな。
下水道を先行しているエリックの"止まれ"のハンドサインで、エコーチームとアルファ分隊は物陰に隠れ警戒し、屈む。
約一五〇メートル前方には直径一〇メートル四方の巨大な合金扉がある。その扉が螺旋状に回りながら開き、自動小銃で武装したテロリストが四名出てきた。
テロリストが四名、それぞれ割り当てられた場所に配置につく。
「敵が四名、見張りだ。エコーチームとケイトに対処を任せる」
トオルは、エリックから指示を受けた後、各々の対処する目標を定める。
「了解した。セイ、ギルは右側の敵を、俺とケイトは左側を殺る」
四名の見張りを撃ち斃した後、エコーチームとアルファ分隊は巨大な合金扉の前へと移動する。この扉の向こうにアカフがいる。あの金髪碧眼のアンドロイドも。
分隊員の一人が扉のパネルを操作し、扉が螺旋状に回りながら開いた。
「一気に突入する。行くぞ! 行け! 行け! 行け!」
エリックの合図で、扉の左右から一気に内部へと突入する。内部は道幅が広い一〇〇メートルほどの通路と、コンクリート製の柱が等間隔に複数あった。さらには、通路奥のひと際明るいホールに土嚢を積み、待ち構える小隊規模の敵がいた。
エコーチームとアルファ分隊は柱に隠れ、お互いをカバーしながら、目の前の敵を次々と撃ち倒していく。
乾いた銃声が屋内を連続して反響し、銃弾が飛び交い、跳弾し、空薬莢が散乱する。
通路の奥に土嚢を積んだ機関銃巣が見える。軽機関銃を連続して発砲していた、その敵をケイトが選抜狙撃銃で仕留める。敵の弾幕が弱まる瞬間が出来た。トオルはこの機を逃さず命令する。
「エコーチーム、先行して活路を開く! 突撃!」
エコーチームは電撃的に突撃する。突撃しながら、応戦する敵を撃ち抜き、一挙にホールまで躍り出た頃には、敵は戦意を失っていた。
エコーチームとアルファ分隊は、降伏し武装解除した敵六名を拘束する。
ギルが降伏した敵の一人の顔をぶん殴り、胸倉を掴むとアカフの居場所を問った。
「アカフの屑野郎は何所にいやがる!」
「……あ、アカフはお、奥の部屋だ。ここから真っ直ぐ行った扉の先の部屋だ。頼む、撃たないでくれ」
トオルは、情報を吐いた捕虜をギルが自動拳銃で撃ち殺そうとするのを、彼の手首を掴み止めさせる。
「ギル、止めとけ。こいつを殺した所でどうにもならないだろ」
「わかってんだよ! お前に言われなくてもな!」
ギルがトオルの胸をどつく。目の前に仇がいる状況に興奮しているのか、狂犬のようになっている。
「トオル、ギル、そこまでよ。さっさと決着をつけて終わり、分かった?」
「ああ、分かってる。次で終わりだ」
「エコーチーム聞け、オレ達が壁に爆薬を仕掛けブリーチングし一気に突入する。中には、あのアンドロイドもいるだろうが最悪の場合、アカフだけ殺せればいい」
「あのクソビッチは俺がぶっ壊してやる……!」
エリックは、静かに怒るギルの肩を叩き「好きにしろ」と言うとアルファ分隊に指示を出し配置につかせる。エコーチームも続いて配置についた。
分隊員の一人が壁にC4爆薬をセットする。
そして、壁を爆破し閃光発音筒を投げ入れる。中にいたアカフ達の視覚と聴覚を奪う。
「行け! 行け!」エリックが合図する。
エコーチームとアルファ分隊が突入し、アカフと護衛二名を撃ち殺し内部を制圧した。
アカフの手には、セイのマテバが握られていた。もの珍しさから自分の物にしようとしたのだろう。セイがマテバを拾う。
「トオル、終わったわね」セイが微笑む。
だが、この部屋にあいつがいない。金髪碧眼のアンドロイドがいない。
あのアンドロイドは何所にいる?
トオルが、背を見せているエリックに意見を聞こうと彼の肩に手を置く。
「エリック――」トオルが彼の肩に手を掛けた瞬間、彼の首が切り裂かれた。
「……んな!?」トオルは自動小銃を構え警戒するが、敵の姿が見えない。
突然の彼の死に、ケイトが悲鳴を上げる。見えない敵からの奇襲にアルファ分隊が混乱する。
「部屋の中から出るんだ! 早く!」
トオルの焦りの混じった怒号で、エコーチームとアルファ分隊が我に返り、部屋から脱出する。脱出した彼らの前には、陽炎のような人型の影が立っていた。
その人型の陽炎が、ゆっくりと姿を現す。金髪碧眼のアンドロイドであった。
そして、トオル達に話しかける。
「……どうも、初めまして。アカフ様にはユーリヤと言う素敵な名前を頂いております。第六世代のプロトタイプとして戦闘データを本国に送らねばなりません。ですから全力で抵抗してくださいね」
ユーリヤは喋り終わると、恭しく、美しく、軽やかにお辞儀をした瞬間、消えた。
ユーリヤに一番近いアルファ分隊一人の前に姿を現し、ブレードで彼を紙のように縦に裂く。
遅れてエコーチームとアルファ分隊は応射する。縦に裂かれた分隊員の隣に居た一人の手首が銃ごと飛び、首が飛ぶ。
痺れを切らしたギルが吠えながら自動小銃を片手で撃ち突撃する。
ユーリヤに弾を弾かれ、逆に右腕のブレードで腹部を貫かれ抉られた。ギルの意識が遠のく。
だが、ギルは元来の根性で己の腹部を貫いているユーリヤの右腕を掴み、固定し左手に隠していた手榴弾のピンを歯で抜いた。
「捕まえたぞクソビッチ……!」
ギルはユーリヤを巻き込み自爆した。アルファ分隊に安堵の空気が一時流れる。
しかしそれは、背中を手榴弾による破片で損傷しつつも尚も健在であるユーリヤの姿を見るや絶望に色を変えた。ユーリヤは手榴弾が爆発する寸前に、右肩の関節を外し後ろを向き頭を庇い致命傷を避けていた。
「……やってくれますね。値が高いんですよこのボディ」
ユーリヤは右腕の関節を戻し、ギルの腹部から抜き去ると近場にいるアルファ分隊に襲い掛かる。
「撃て! 撃て!」
アルファ分隊が応射する。エコーチームもそれに続く。弾丸が当たる気がしなかった。
アルファ分隊がまた一人、二人凶刃に体を裂かれ斃れる。
「……お前! ぶっ壊してやる!」
今までエリックの傍で泣いていたケイトは、立ち直ると選抜狙撃銃でユーリヤの左肩を撃ち抜いた。
ユーリヤにダメージが入るが、致命傷には至らず、ケイトは腹部を貫かれた。
ユーリヤがブレードを抜き払い、ケイトが血を流し床に転がった。
「人間は脆弱なので、裂くより貫いたほうが早いですね」
ユーリヤは実験結果を確認するかのように独白すると、トオルに突貫する。
「トオル!」セイが撃ちながら叫ぶ。悲痛が混じっていた。
トオルは自動小銃を撃つ。弾が切れ弾倉を交換しようとした瞬間に左大腿部が切り裂かれた。猛烈な痛みが走り、床にうつ伏せに突っ伏し、単純な言葉で悲鳴をあげるしか出来なかった。
「あと一人、いえ二人ですけど、アカフ様から人の感情に関する興味深い事を、教えてもらった事を思い出しました」
ユーリヤがセイにゆっくりと近づく。セイの自動小銃の残弾が切れていた。予備弾倉も無い。
「何をするつもりだ! セイに近寄るんじゃねえ!」
「恋人同士は片割れが目の前で殺されると、酷く苦しむそうですね。それをやってみようかと思いまして」
ユーリヤはそう言うと、しばし考え「あなた達は恋人同士ですよね?」と首を傾げながら訊ねた。
直後にユーリヤのブレードがセイの腹部を貫く。
トオルは慟哭し、叫び、怒り狂った。しきりにセイの名前を呼び掛けた。
「いいデータが取れました。最後にあなたを始末して、本国に帰還するとします。カディア族のテロリスト達も核を使ってしまいましたから、連合政府を本気にさせてしまいましたし、手の引き時ですね」
ユーリヤがこつこつと歩き、うつ伏せで倒れているトオルに近づく。
そして、トオルを仰向けに転がして異変に気が付いた。
「気づくのが遅かったな。コミーのポンコツめ……!」
トオルの右手には、閃光発音筒が握られていた。
ユーリヤの眼前に投げられた閃光発音筒が爆発し、彼女の視界と聴覚の異常を発生させる。トオルは間髪入れずに、ユーリヤの足を払い仰向けに転倒させ、ユーリヤの頭を三度殴り、完全に破壊した。赤いオイルと破壊された部品が散乱する。
「……セイ、今行くからな」
トオルは左足を引きずりながら、セイの元へと歩く。彼女のボディアーマーを外部から操作し、ヘルメットを格納させ顔を見る。
セイの目に光は無く、命が尽きようとしていた。
「……トオル、ごめんね」
「……俺は」
トオルは涙を流しながら歯を食いしばり、セイの手を取る。そして、死にゆく彼女を看取った。




