第34話 トオルの過去 後編その1
意識が朦朧とするエコーチームの眼前には、右側頭部の角が無いカディア族の男、アカフと金髪碧眼のアンドロイドが立っていた。
トオルは、ゆっくりと目を開ける。そして置かれている状況を把握する。
エコーチームは、手足を縛られた状態で鉄の杭に拘束されていた。強化戦闘服も脱がされている。トオル達は黒い上下のインナ―を着ているのみであった。
さらには、武装テロリストの姿も見える。数は六名、内一名は手にビデオカメラを持っている。
エリックもエコーチームと同じように拘束されていた。だが、ケイトの姿は見えない。そして、今いる場所はドーム状の礼拝堂前の広場であった。
俺達は見せしめの処刑か、それとも晒し首か。いや、まだ諦めるのは早い。
「トオル、起きたか。このままでは不味い事は分かるな?」
エリックがトオルに小声で話しかける。トオルには、彼の目の奥に光るものが見えた。この窮地を脱出する作戦でもあるのか。
「ああ、テロリストが核を使うとはな。ケイトはどうなった? ブライは……まだ気絶しているのか?」
ブライがピクリとも動いていない。
「ケイトは、お前達が気絶した後、オレの指示で隠密行動を取ってもらっている。お前達を助けるためにな。……残念だがブライは死んだ。多量の失血の上に、チップの誤作動だ」
「……チップの誤作動なんて聞いたことないぞ」
「お前達がEMPで動けなくなる時、見ている事しか出来なかったが、誤作動の原因は敵のアンドロイドによるハッキングだ。あのアンドロイドは第四世代より上だ。こんな作戦を取るのだから当たり前だが、EMP対策は施してあるのだろう」
敵のアンドロイド、金髪碧眼のアンドロイドか。
「だが聞け、トオル。あの時は助けられなかったが、今なら助ける事が出来る」
「それで計画は? セイとギルは生きているのか?」
セイとギルまで死んでいたらと考えると頭が真っ白になる。
やり場のない怒りに手が震える。
「安心しろ。あの二人は生きている。……アカフ達は、先に離脱した第三班を捕縛しに戻った。第三班をオレ達の前で処刑をするらしい。だがな、そこが逆にチャンスになる。奴らが自分達が勝ったと安心し、高揚して周りが見えなくなった時に、ケイトがアカフと護衛を撃つ」
エリックの作戦は理に適っている。
だが、もはやトオルにとっては、クソッタレのアンドロイドとアカフが死んでくれるのなら何でも良かった。
アカフとその護衛が、オープントップのトラックに乗ってこの場所へ帰ってきた。
アカフの隣には金髪碧眼のアンドロイドもいる。
「お前達、捕虜をトラックから引きずり出せ」
護衛が銃を突き付けながら、手を拘束されたアルファ分隊の第三班、四名をトラックの荷台から降ろした。アルファ分隊の第三班が、トオル達の前に引きずり出される。
「よし、そこのお前、カメラは回しておけよ。そっちのお前は、寝ている奴を起こしてやれ。解体ショーを見逃すのは可哀想だろう?」
ビデオカメラを持ったテロリストが録画を開始する。もう一人がセイとギルに水を掛けて起こし、ブライに気が付く。
「偉大なるアカフ様、この男か女か分からない奴は死んでおりますが」
アカフは、その報告を聞くと唾を飛び散らせて激怒した。
「死んでいるだと? 根性なしが! ユーリヤ! その死んでいる奴の首を刎ねろ!」
ユーリヤと呼ばれた金髪碧眼のアンドロイドは、腕のブレードを展開する。
「ブライに何をするつもりだ、ヒツジ頭! おいやめろ! やめてくれ! やめろぉ!」
ギルが悲痛な叫び声を上げる。今まで以上に絶叫する。ギルは、泣き叫び懇願するがユーリヤは、それを意に介さない。
既に事切れているブライの前に立ったユーリヤは、ブレードを振り上げ、彼の首に振り下ろした。
テロリスト達が歓喜に打ち震える。銃を天に掲げて叫ぶ。
ギルは目の前に転がった、ブライの首を見て啼泣し、泣き叫び、怒り狂った。
しきりに、殺してやるぞと何度も叫び続ける。
セイは、冒涜的な光景に目を背け涙を流し怒りに震えていた。
拘束されているアルファ分隊の第三班、四名もまた絶望し目に生気は無い。
「トオル落ち着け、オレの拘束具は瓦礫の破片で何時でも切れるようにした。お前達を何時でも助ける事が出来る。だから奴に挑発なんてするんじゃないぞ……!」
「このままじゃ第三班も殺られるぞ!」
「だから待て! チャンスは必ず訪れる。オレを信じろ!」
テロリスト達の歓喜の叫びの中、ユーリヤが足を負傷しているアルファ分隊の前に立つ。
「どうだ! これが我々に人類の文明を強制させた結果だ! 人類は己の傲慢さによって我々カディア族の神々を冒涜し汚したのだ! よってこれは神のさ――あがっ!!」
アカフの右腕が吹き飛ぶ。クソッタレな奴を撃ったのはケイトか。
ケイトは姿を見せる事無く、周りのテロリスト達の頭を吹き飛ばしていく。
「……ぐぬぅあぁあ! 人類共、許さんぞ! ユーリヤ!」
右腕を吹き飛ばされ、血を噴出させたアカフをユーリヤが素早く抱え撤退していく。
「トオル、今すぐ拘束を解いてやる」
「ああ、助かった」
エリックによって、ブライ以外のエコーチームは拘束から解き放たれた。
「……ブライ」セイが沈痛な面持ちで静かに涙を流している。
「ちくしょうが……! あいつら殺してやる、殺してやるぞ!」
ギルが怒りに吠える。そして、テロリスト達の自動小銃を手に取る。彼の目は憎しみに染まっていた。
「まずは、ケイトと合流しよう。エコーチームもそれでいいな? それと今はブライの事は忘れるんだ、いいな?」
「ああ、分かってるさ」
エコーチームは、テロリスト達の自動小銃を持ち、エリックと解放したアルファ分隊第三班と共にケイトとの合流地点へ向かう。
ケイトとの合流地点は、地下の下水道だった。
「ご無事で何よりです」
ケイトは、選抜狙撃銃を抱えながらエリックに握手をした。
彼女はアカフ達の隠れ家の場所を突き止めていた。
それは、ザフタ地区に張り巡らされた下水道を通り、宮殿と礼拝堂の間の地下にある。
「ケイトも良くやった」
「……それで、エコーチームは」
トオルはケイトにブライが死んだ事を伝え、奪われた装備は何所にあるのか質問する。
「あなた達の強化戦闘服は、ここに四着あるわ……」
……四着か。少し前まで、あいつは。
トオルは溢れ出そうになる感情を抑える。チームリーダーである自分が冷静さを欠けば、生き残ったセイ達を死なせることに繋がるからだ。
だが、本当はクソッタレと叫びたかった。
「エコーチーム、強化戦闘服を着たらアカフの後を追うぞ」
エコーチームは、アルファ分隊の生き残りと共に下水道を通ってアカフの隠れ家へと向かう。




