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第32話 トオルの過去 中編その2


 二時間後、エコーチームは合流ポイントである、日干しレンガ製の高い外壁に囲われた廃墟にて、第五小隊のアルファ分隊に所属する分隊員一三名と、四体の女性型軍用アンドロイドと合流する。分隊のアンドロイドは全て第四世代型の量産機である。


 海兵隊は、砂漠地帯用マーパットの上にオリーブ色のチタン合金製アーマーを着用し、小型の自動小銃を装備していた。


「……司令部、こちらエコーチーム、海兵隊と合流した。これより、海兵隊と共にアカフの排除に向かう」


 ――了解。こちらアルマ、通信感度良好。アカフの位置座標を送る――


 瓦礫の上に座っていた海兵隊の一人がエコーチームを非難する。

 それは、おおよそ予測していた言葉だった。


「まさか、ガキ共を寄越すなんてなぁ。連合政府軍も落ちぶれたぜ。……なあ、二〇号機」


 二〇号機と呼ばれた、女性型軍用アンドロイドは頷いた。


 そのエコーチームの誰もが予測していた言葉を、ただ一人ブチ切れた男がいた。

 いつも五月蠅いギルベルトである。


 ……こりゃあ、面倒くさいことになるぞ。


「んだとゴラァ!」ギルベルトが非難した海兵隊員に掴みかかる。


「ギル、落ち着いて。見返したいなら僕達の力を見せれば良いだけだよ」


 ブライに宥められたギルは舌打ちし、海兵隊員を離す。


 全く、ブライが居なかったら状況が最悪になっていたぞ。


「それで、そちらの隊長は?」


 トオルは、海兵隊の分隊長と今後の行動を決めるべく話を切り出す。

 そして、四十代ぐらいの海兵隊が名乗りを上げた。


「オレがエリック。三等軍曹で分隊長だ。お前がエコーチームの隊長か」


「よろしく」


 トオルはエリックと握手をする。隊長同士が握手をすれば、少しはお互いの隊内の不満が消えてくれるだろう。だが、思い通りにはいかなかった。


 アルファ分隊の分隊員の一人である、赤毛ショートヘアの女性がトオルを睨みつけ威嚇してきた。


「トオル、アカフの現在位置は、ここから南東一八キロのザフタ地区にいるわ」


 ザフタ地区、カディア族の特徴的な建築物が立ち並ぶ市街地だ。

 その特徴は、日干しレンガ製の壁で囲われており、その中央には、これまた日干しレンガで出来た二階立ての白い箱状建築物だった。

 

 それは暑く乾いた気候である、カディア族の母星、カルセムに適した建築物であった。


 エコーチームは、アルファ分隊とアカフの位置座標データを共有した事を確認すると、マザフ地区に向け、アルファ分隊と共に前進を開始する。


「なあ、セイ。マテバは今でも使ってるのか?」


「常に私のホルスターにはマテバが入ってる。何せこれは、私にとって幸運の銃だからね」


 セイにとって、マテバオートリボルバーは幸運の銃だった。彼女の名前の、セイと同じ発音をするこのリボルバーは、当時の士官候補生だったトオルとセイを巡り合わせた。


 セイは士官学校の屋内シューティングレンジで、マテバオートリボルバーのリプロダクト品を使っていた。そのリボルバーを使って、精密な射撃をする彼女の周りには、多数のギャラリーが群がっており、トオルもギャラリーの中の一人だった。


 それを見たトオルは勇気を出してセイに話しかけ、その翌日から交際が始まったのだ。

 そんな他愛のない出会いである。


 前進開始から一時間三〇分後に、ザフタ地区入口から約三キロ地点の標高一七三メートルの岩山に到着する。既に日は高く昇っており、気温が摂氏二八度まで上昇していた。


 現在は、その岩山の林の中でアカフの動向を探っている最中である。

 エコーチーム四名もまた、林の中で姿勢を低くし待機していた。

 

 アルファ分隊の一人が、虫型マイクロドローンを飛ばす。

 直にアカフの詳細な位置座標と、音声ログが入手できるだろう。


「ねえ、トオル、カディア族ってなんで子どもでさえ戦場に送るんだろうね。……僕にはそれが分からないや」


 ブライが伏せたまま、ザフタ地区の様子をスコープで覗いている。倍率を五〇に調整されたスコープの先には、樹脂ストックの自動小銃を担いだ少年兵が見える。年齢は巻角の大きさと背丈からして、十一、十二歳ぐらいか。


「まあ、子どもを洗脳しているんだろう。アカフはいつもドーム状の礼拝堂で、戦争を呼び掛けているんだとさ。これは聖戦だ……ってな」


 トオルのHUD上に、虫型マイクロドローンから得られたアカフの位置座標が送られる。音声ログの内容は、いつも通りの演説だった。


「アカフの場所は市街地中央の礼拝堂か。……よし、エコーチーム移動する。セイ、司令部に連絡してくれ。ここからは連絡している暇も無くなるだろうからな」


 アルファ分隊からの情報によれば、ザフタ地区にいる武装テロリストは一〇〇人以上、二〇〇人未満の部隊らしい。


 エコーチームは、セイが司令部に連絡したのを確認すると岩山を降り、アルファ分隊と共に市街地に侵入する。そして、エコチームとアルファ分隊は裏通りから礼拝堂へ移動を開始した。


「……人の気配がないのが気になるな。ギル、敵を発見したら撃てよ」


「わかってらぁ」


 市街地の外縁部には、敵の気配が無かった。

 礼拝堂にいるアカフを護るように配置しているのだろうか。だとしたら、中央に向かうほど銃撃戦の可能性が高くなる。


 このような場合は砲撃で制圧してから突入したいのだが、過度に厳格化された陸戦法規では民間人に対する無差別攻撃は禁じられている。それ故、民間人が混じった市街地への砲撃は出来ない。それが任務をさらに困難なものにしていた。


「トオル、先行しているアルファ分隊の斥候から連絡が来たわ。裏通りを出た先の宮殿に敵がいる。数は一八名」


 直後、連続する発砲音が鳴り響く。アルファ分隊が交戦を開始した音だ。


 だが、交戦が早すぎる。偵察に出た斥候が見つかったか?

 

 エコーチームもアルファ分隊を援護するため、壁を蹴って上り、家屋の屋上へと移動する。


「このまま屋上を飛び移って裏通りの出口まで突っ切るぞ」


 エコーチームは次から次へと屋上を飛び移り、ブライ以外が裏通りの出口へ躍り出る。選抜射手のブライだけは屋上に残り、宮殿の敵を狙えるポジションに移動し狙いを定める。

 

 宮殿三階のバルコニーと、屋上から自動小銃を撃っている敵が見えた。

 アルファ分隊八名が、半壊した背の高い壁を挟んだ状態での撃ち合いをしている。

 分隊のいる壁から宮殿までの距離は約一五〇メートル。


 ブライ以外のエコーチームも、アルファ分隊のいる壁へ素早く移動する。


 アルファ分隊の一人が右大腿部を負傷していた。その分隊員は、止血帯を使った応急手当を受けている。命に別状はないだろうが、赤く染まった右大腿部が痛々しい。

 

 エリックはエコーチームが到着したのを確認すると、銃撃戦になった経緯を説明した。


「エコーチームか! 斥候を出したんだが、そいつらが見つかってしまったおかげでこの様だ。だが、有益な情報もある。宮殿の中に奴らの軍用アンドロイドがいる」


「何だって? アンドロイドは人類以外には手に入らないはずだろう」


 軍用アンドロイドは人類以外は購入できない。なので、鹵獲品かコミーが流したか。


「軍曹、他の分隊員は? 四体のアンドロイドも見当たらないみたいだけど」


 セイが、何故ここには八名だけなのかと尋ねる。


「第二班の四名は、半包囲射撃をする為にアンドロイド四体と宮殿の南側へ移動しているはずだ。ここにいるのは第一班だ」


「それなら、ブライにバルコニーと屋上の敵を始末させるわ。このままだと、足止めされている間にアカフは逃げる」


 ――ブライ、敵は見えてる? 三階バルコニーと屋上の敵を排除して――


 ――了解。目標を排除する――


 セイからの要請を受けたブライは、屋上から選抜狙撃銃を九回発砲する。


 ブライの発砲が終わった直後、敵からの銃撃が止んだ。


 ――ブライ良くやった。降りて来い――


 流石は射撃の天才と呼ばれたブライだ。正確無比な射撃で、素早く制圧してくれる。


 ――了解。そちらへ移動するよ――


 ブライが合流したのを確認し、エコーチームは一気に宮殿の入り口へ駆ける。

 

 エコーチームが宮殿の入り口をクリアリングし、敵がいない事を確認するとエリックに一階は安全だと伝えた。


 ――了解した。負傷兵一名を含めた四名は、この戦闘区域から離脱させる。俺を含めた五名がそちらに向かう――


 エリック率いる、アルファ分隊第一班がエコーチームと宮殿一階で合流する。

 それと、ほぼ同時に第二班と軍用アンドロイド四体が南口から侵入し、エコーチームと合流した。


「なんだガキ共は、まだ生きてたのか。てっきり俺の二〇号機の出番かと思ったんだがな」


 開口一番にエコーチームを非難した、あの海兵隊が二〇号機と呼ばれたアンドロイドのハイレグの尻を触りながら、自らの出番が無かったことに対して悪態を付く。


「ベネット伍長、彼らは歴とした兵士だ。あまり茶化してやるな」


 エコーチームとアルファ分隊は宮殿内の残党を制圧するべく、カバーしながら横幅が広い階段を上る。


 宮殿の二階は、天井が開放された広間になっていた。青空だけを見ると、戦争など忘れてしまいそうだが、この広間は三階の廊下から狙いを付けられる構造になっている。

 迂闊に広間には出られない。そこで、アルファ分隊の軍用アンドロイド四体を先行させる。

 

 ベネット伍長の命令で、四体のアンドロイドは散開し、一飛びで広間から三階の廊下へ上がる。テロリスト達の発砲音と同時に断末魔が聞こえてきた。


「どうだ、ガキ共のお前らよりアンドロイドのほうが役に立つ。よし、二〇号機戻って来い」


 ベネット伍長の嫌味にギルが再び切れそうになるが、ブライに制止される。


「よし、広間に出るぞ。エコーチーム前進」


 エコーチームの後をアルファ分隊が続く。

 血濡れになったアンドロイド四体が、三階廊下から広間へ飛び降りた。


 ……やはり、アンドロイドの戦闘能力は規格外だな。

 

 そのアンドロイド達を見たベネット伍長が近寄ると――エリックの怒号が飛んだ。


「ベネット伍長! 止まれ! 一〇時の方向、屋根の上! 敵のアンドロイドだ!」


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