表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/154

第30話 トオルの過去 前編その2

 

 ステーション・タウ士官学校の食堂にトオルはいた。白い簡素な長テーブルには、同じ班のメンバーが座っていた。この士官学校では一つの班は四人で構成される。


 トオルが、味の濃いボリューミーなチキンをナイフとフォークで切り分けていると、トオルの右隣に座っているバーコード状に頭を剃った男が話し掛ける。


「なあ、トオルよお。例のあれ持ってるか? 例のあれだよ」


「ギルベルト……例のあれじゃ分かんねえよ。あれってなんだよ」


 ギルベルトと呼ばれた男は頬を膨らませて、ブゥっと音を鳴らした。この男は、いつも物を強請るときは"あれ"で説明してくる。分かりにくいったらありゃしない。


「ギルは羊羹が欲しいんじゃないかな。トオルが昨日の訓練終わりに自室で食べてたでしょ」


 昨日俺が食べていた物は、羊羹か。まさか、至福の時を見られていたとは。


「あー羊羹か。悪いな昨日で最後だわ。てか、ブライはこいつの適当言葉が良くわかるな」


 ブライと呼ばれた、少し小柄の中性的な男は肩を竦める。


「まあ、ギルとは長いからね。それに僕は、班の皆が訓練終わりにどんな行動をするのかを毎回見てるんだ」


「さっすがブライ! 俺の事良く分かってんなぁ!」


 ギルの大声が耳に突き刺さる。周りの士官候補生も一斉に何事かとこちらに視線を向ける。


「うっせえバーコード禿! 急に声荒げるな」


「禿じゃねえよ! 剃ってんだよ!」


 トオルとギルが、ぎゃあぎゃあ言い争っていると白い長テーブルがバン! と鳴らされた。突然の物音に三人は居直った。


「あんた達うっさい! ニュースが聞こえないじゃない!」


 テーブルを叩いて一喝したのは、トオルの前に座っていた女性だ。


「あー、すまん……セイ」「俺もすんませんしたセイさん」「……僕もごめん」


 怒られた三人は体を小さくして謝罪した。ブライは、とばっちりな気がするが。


 セイと呼ばれた、黒髪ショートボブの女性は慎ましい胸の前で腕を組み、咳払いを一つする。そして彼女はグレーの目で三人を睨む。……ああ、説教が始まる。


「大体、あんた達はいつも──ちょっと待って、食堂のテレビを見て」


 ん? テレビ? 三人はセイの目線の先にある、食堂中央の天吊りタイプのモニターを見る。


 それは信じられない光景を映し出していた。

 ステーション・タウの四番コロニーが無残に破壊されている。

 

 ニュースのキャスターは、地球時間の今日、一八時一五分にカディア族に乗っ取られたカーゴシップが宇宙港で核自爆したと報じている。死者は現時点で数百万人に上るとも。


「……信じらんねえ。トオル、やっべえよこれ」ギルが大口を開けてテレビを見つめる。


「ああ、そうだな」こんなテロは生まれて初めてだ。


「……トオル」セイがトオルの右手を握る。その手は震えていた。


 トオルは、セイを安心させるために左手で握り返す。


「セイ、大丈夫だ。俺達の訓練期間はまだ終わっちゃいない。最前線に行くことなんてないさ」


 まだ訓練期間は五か月もある。確実に戦争になるだろうが、戦争に行くことなんてない。


「トオル、セイ。恋人同士でいちゃついてるところ悪いけど教官殿が入ってきたよ」


 ブライの言った通り教官が、お付きの士官をつれて入出する。

 トオルはセイの手をそっと離し起立後、気をつけする。三人もまた同じように気をつけをした。


 士官候補生達の全員が気をつけしたのを確認すると、お付きの士官が敬礼の合図を出す。

 その合図で、食堂にいた数百人の士官候補生達は、靴で快音を一つ鳴らし一糸乱れぬ敬礼をした。


「諸君、和やかな食事中にすまないな。だがニュースを見たものは、気づいただろう。一時間ほど前に四番コロニーでテロがあった。カディア族のカルト共の仕業だ。そして、政府はステーション・タウ主導による報復戦争を行う事を決定した」


 ステーション・タウ主導か。なるほどな、確かに世論はこれから報復に傾くのだろう。

 こんなテロを見れば誰でも怒り狂う。


「我々も攻撃に参加する事を決定した。よって訓練期間は本日で終了。地球時間、明朝五時に諸君らは惑星揚陸艦セント・マタイアスに乗艦してもらう。……以上だ」


 教官は簡単な説明を終えると、お付きの士官と共に食堂を退出した。


 報復戦争に参加すると聞いた士官候補生達は動揺する者、やる気を出す者、喜ぶ者など様々な反応を見せる。そんな中でトオルは半ば諦めた表情をしていた。


「まあ、仕方ない」トオルは頭を抱えて後頭部を撫でる。


 ……腹は括った。なってしまった物は仕方ない。


「俺達戦争に行くのかよ!」ギルが叫ぶ。とても五月蠅い。


「セイは大丈夫? 僕はまだ腹を括れてないけど」


「ええ、大丈夫よブライ。トオルが腹を括ったんだもの、私もとっくに括ってる」


 セイは、力強く頷くと席を離れ自室へ戻った。


 その日の夜。消灯時間になり、トオルは皆が就寝したのを見計らうと女性寮前へ向かう。

 食事が終わり自室で休んでいたトオルを、セイがPCメールで呼び出したのだ。


「トオル、誰にも見られてない?」


「ああ、見られてない。んで、話がしたいってどうしたんだ?」


 セイは悪戯っぽく笑う。そして、トオルの首に両腕を優しくかけ手を組み、額を合わせた。


「前に話したでしょ。子どもの話よ」


 ……子ども? おい、まさか。


「もしかして、出来たのか?」


「っふふ、違うわ。前に話したでしょ? トオルは子どもが嫌いだから、好きになるように頑張って、てさ」


 セイは両腕をトオルの首から離す。その顔は笑っていた。


「思い出した?」


「ああ、思い出した。……すまん、てっきり出来たのかと。子どもを好きになる努力はするさ、約束する」


「うん、信じてる。……じゃあ、お休み」


「ああ、また明日な」


 翌日の地球時間七時に、惑星揚陸艦セント・マタイアスは士官候補生三〇〇〇人を乗せ、カディア族の母星であるカルセムの惑星軌道上へワープした。


 他の惑星揚陸艦も続々と、カルセムにワープする。

 

 カルセムの惑星軌道上に、ワープアウトした政府軍の艦艇の数は百を超えていた。

 艦艇はどれも長細い箱型で、後部にイオンスラスターがある。壮観な光景であった。


「トオル見ろよ! あんな数の大艦隊見た事ねえんだけど、やばくね?」


 ギルが部屋の窓から見える政府軍の大艦隊を前に興奮する。

 

 よりによって、五月蠅いギルと同室になるとはな。


「かなりの大艦隊だな。まあ、テロリストの勢力がカルセムの三分の一を掌握してるって話だ。これで丁度いいんだろうよ」


「三分の一ってまじかよ! それって敵はどれくらいいるんだ?」


「約四〇万って話だ。だが、ガキの兵士も入れたら五〇万は行くんじゃないか」


 カディア族は頭から巻角を二本生やしたヒューマノイド型である。肌は茶系だ。

 そして、カディア族のカルト共は、角の生えていない幼い子どもでさえ兵士にしてしまう。


 奴らは、子どもを兵士にする事に躊躇いは一切ない。さらに、カルセムは砂漠と荒野の多い惑星だった。決して戦いやすい地形ではない。激戦が予想される。


「……やべえな」珍しくギルの声が小さくなった。ガキの兵士というワードにビビったか。


「政府軍は三五万の兵力だ、心配する事はない。それに、ガキの兵士が目の前に必ず現れるって訳でもないだろ」


 トオル達の自室のドアがノックされる。


「トオル、ギル、そろそろドロップシップに搭乗する時間よ。準備して」


 声の主はセイだった。声色から緊張しているのが分かる。

 実戦を前に緊張しているのは、他の士官候補生達も同じだ。

 兵士としての訓練していたとはいえ、つい最近までは学生だったのだから誰だって緊張するし、恐怖するだろう。


「分かった、すぐに向かう。ほら、ギルも行くぞ」


 未だに、船外の大艦隊を見ているギルの背中を叩き、格納庫へ移動する。


 トオル達の班は格納庫に搭載されている、無骨な四角いドロップシップに搭乗する。これから、第七〇二降下部隊のエコーチームとして、命のやり取りをするのだと四人とも真剣な面持ちであった。


ブクマ有難うございます。随時、改稿もやっていきますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ