第23話 聖遺物 -Artefact-
トオル達は、キューを先頭に遺跡の最奥へと進む。
道中の通路に、ボル族の女性の死体があった。
死体は杭の弾丸で壁に貼り付けられている。
赤い血が滴り、死体の足元には血だまりが出来ている。
四脚の守護者か、防御ドローンにでも殺られたか。
それにしても、三人の先客は全員あの世行きか。スレクトの言った通りだったな。
その死体を見たトオルは「成仏してくれよ」と手を合わせる。
「諦観した種族にしては、肝が据わっているようだ」
スレクトが死体をライトで照らしながら、ラナリを褒める。
「うん。まあ、喋る生首とか見た事あるし……」ラナリは苦笑いで答えた。
喋る生首……あの時のか。
あの冤罪事件は、今でこそ笑い話になるだろうが、あの時は必死だったな。
「真っ直ぐ行った先に、広間があるようです」
通路を抜けた先に広間を発見した。二千人は収容できるぐらいには広い。
広間の内装がラナリの琴線に触れたのか、口を開けて感嘆の声を上げている。
そこは通路と同じように、床や壁に青い光が走っている。
明かりの色は星色で明るい。空中に舞う埃がその光を反射し輝いている。
そして中央にある"十字架のようなもの"から四つの道が伸びている。
この広間は一見すると、円形の荘厳な礼拝堂のような印象を受けるだろう。
だが、周りの壁に不明な言語が書かれている複数のホログラムが、ゆっくりと辺りを浮遊していた。
……本当にこの遺跡は何なのだろうか。
ラナリやスレクトの種族の建造物とは、余りにも違い過ぎる。
キューが、ホログラムに書かれている言語を解析出来ず、腕を組み首を右へ左へ傾げている。
「破壊すべき装置は、この先の通路の奥だ」
スレクトが指し示す方向へ、トオルとキューは進んでいく。
装置の場所は、広間から少し距離があった。
「これを俺達に破壊してほしいのか」
その装置は黒く八翼が生えていた。どこか天使の様にも見える。
これがどんな装置なのか、皆目見当も付かない。
しかし、これをどうやって破壊するか……そこそこ大きい上に硬そうだが、キューのブレードなら真っ二つにできるだろうか?
「キュー、あれをブレードで壊せそうか?」
「……壊せるかもしれません」
「あの黒い装置は、我々が結晶炉と呼んでいる機関によって動く。その機関は負荷が掛かる程に脆くなる性質を持つが、逆に負荷が掛かっていない場合は恐ろしく強固だ」
「おい、スレクト簡潔に言え、簡潔に」
スレクトは、キューに緑の四角い箱を手渡した。それは梱包爆薬だった。
「あの機械の外装を引き剥がして、これを突っ込んで起爆しろ」
爆破とは非常にシンプルだな。シンプルで実に解りやすい。
「この手に限るってか?」
「ワタシは、この手しか知らん」
梱包爆薬を受け取ったキューは、黒い機械にブレードを突き立てる。
出来た小さい穴を両手で広げた。中に巨大な青い結晶が煌めきながら浮遊している。
この浮遊している結晶が、スレクトのいう結晶炉という機関なのだろう。
人類の核融合炉とは、似ても似つかぬ未知の機関だった。
「お前のアンドロイドは、かなり優秀だ。すばらしい」
偵察から戦闘、果てには爆破工作までこなすキューに対し、スレクトは感心頻りだった。
「……まあな」
キューが優秀なのは、所有者である俺が一番分かっている。
「爆破準備完了しました」キューが、梱包爆薬を設置した黒い装置から離れる。
「十分に離れて起爆するんだ」
キューはスレクトの指示に従い、五〇メートルほど離れて爆薬を起爆した。
爆発から引き起こされる爆轟が通路を軽く揺らし、熱風が巻き起こる。
その爆発で青い結晶は砕け散り、黒い機械の八翼が力なく折りたたまれた。
どうやら装置は壊れて、完全に停止したようだ。新たな敵が出てくる気配も無い。
トオルは、もう戦闘は無いだろうとヘルメットを格納する。少し埃っぽい匂いがした。
そういえば、ラナリはどこに行ったのだ。広間の見学でもしてるのか?
「キュー、ラナリはどこにいるんだ?」
「ラナリは広間を見学しているようです。大丈夫、無事ですよ」
「そっか、安心した」
キューの説明通り、ラナリは広間の中央にある"十字架のようなもの"を観察していた。
右手を顎に当て、とても興味深そうに眺めている。
「ラナリ、それが気になるのか?」
「うん。すごく綺麗だなって」
確かに若干青い光を帯びていて、装飾もかなり凝っている。芸術的価値もありそうだ。
トオルは、じっと眺めているとその"十字架のようなもの"は吸い込まれそうな美しさだと思った――
「おい! なにをやっている! それを今すぐ離せ!」
――唐突にスレクトが怒鳴る。
なんで怒鳴ってんだ……ってラナリ!?
スレクトの怒鳴り声にハッとしたトオルは、目の前の光景に驚愕した。
――ラナリは"十字架のようなもの"に触れていた。
それに触れているラナリの目は生気が無く、体は凍ったように硬直している。
さらには、無数の青い光の筋が螺旋を描きながらラナリに纏わりつく。
万人から見ても、これが異常事態だと分かった。無論、トオルも理解した。
今すぐ、ラナリをその"十字架のようなもの"から引き離さなければ――
「ラナリ!」トオルは"十字架のようなもの"からラナリを引き剥がす為に飛びつく。
――そしてラナリに触れた直後、意識を失った。




