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第20話 尊大な褐色小娘 後編

 

 次の日の朝、そいつは宣言通りに宿屋の前で待機していた。


「トオル、例の客人が来てるぞ」


 アルバの呼ぶ声に、またかよと思いながら店の前へ行く。

 

「トオル様、キューも興味がありますので同行します」


 キューは、あの話に興味があるようだった。


「首ポロ従者も来たか。この男だけでは、話が進まないと思っていたところだ」


 キューは少しムッとした声色で、「キューは首ポロ従者などではありません。多目的支援アンドロイドです」と訂正した。

 

 その訂正に浮浪者のクソガキは驚いた様子で「アンドロイド? いや、聞いたことがあるぞ。機械仕掛けの自立人形らしいな。お前がそうなんだな?」と念を押すように問いかけてきた。


 アンドロイドを知っているのか、と口を開きかけたトオルを遮るようにキューが答える。


「そうです。ところで、昨日の遺跡についての話なのですが、とても興味があります」


 キューの食いつきがすごい。遺跡に装置という言葉に惹かれたのだろうか。

 それとも、ラナリの好奇心が移ったかな? 

 

この惑星から脱出不可能だと分かってから、俺といる時間よりラナリと一緒にいる時間のほうが増えた気がする。キューはラナリに対して興味を持っているのか、良く談笑をしているのを見かける。


「では、依頼だが……」


 ぼろきれをまとったまま、何事もなかったかのように不遜な態度で話を続けようとするクソガキに無性に腹が立った俺は、「いやまて、人にものを頼むならそれ相応の態度があるだろう」と、いら立ちを隠しもせずに言った。

 

 クソガキは一瞬険呑な雰囲気になったが、その言い分に納得したのか、ボロ切れを脱いだ。

 ぼろきれの中身は、褐色の肌に銀髪をポニーテールとして纏め、黒い軍服のような堅苦しい服装に、国旗らしき紋章の入った赤い腕章をつけた背の低い少女だった。

 

 こちらを強く見つめる青い蛇眼、長く伸びた耳、白く透いた宝石のような鱗で、ほんの一部が覆われた手が、ホプリス族ではない事を強く意識させた。おそらく、この星においてホプリス族以外で文明を獲得した種族の一つだろう。

 

 一見すればちんちくりんなコスプレをしたクソガキだが、その立ち振る舞いと眼力は、その恰好が伊達ではないという凄味を醸していた。

 

 ホプリス族以外の種族を実際に見たのは、これが初めてだ。


 こいつは軍人なのか? 軍人のようではあるが、子どもがコスプレしているようにも見える。……この惑星に仮装の概念があるのか解らないが。


「ワタシは、"諦観した種族"の住むこの大陸では珍しい姿をしていてな、目立ちたくないので隠していた」


 ……なるほどな、確かにこの大陸では目立つだろう。

 背の高さはキューより一回り低いのも、より注目を浴びる原因のようだ。

 身長は一五〇センチもないほど小柄だった。人類の尺度で測れば小学生ほどだ。

 "諦観した種族"というのは、この大陸を治めているホプリス族のことだろう。 


「で、名前は?」男の性で、少し見とれてしまったのが悔しい。


「そういえば、名前をまだ名乗っていなかったな。ワタシの名前はスレクトと言う」


「では、話の続きをスレクト様」


「この話は、お前達にも関係することだ。遺跡にある黒い装置を破壊すれば、お前たちが宇宙に帰るチャンスが必ず訪れる」


 宇宙に帰れると来たか。こいつは俺達が宇宙から来たと知っているのか?

 

「その装置を破壊したら、なんで戻れると分かるんだ。俺達は宇宙から来たんだぞ」


 トオルは上を指さす。トオルの顔は、この話を信じていない顔だった。


「お前達の望む形の脱出方法ではないだろうが、宇宙に帰れるというのは保証する」


「キュー、こいつの言ってること、分かるか?」


「……色々と聞きたいことはありますが。スレクト様、本当にキュー達は帰れるのですね?」


「保障しよう」スレクトは腕を組み、大仰に頷く。


 スレクトという奴は、一つ一つの動作が尊大だった。

 自分達の種族は、偉いんだぞと言っているようだ。


「で、仮に俺達が黒い装置を破壊するとして、その遺跡とやらはどこにあるんだ」


 だが、もし帰れるというのなら、この尊大褐色娘の話を聞いてみてもいいかもな。

 ……それに今日また断ったら、明日も来る気がする。

 

 いや、明日だけではない、承諾するまで永遠とこいつは来ると直感が言っていた。

 ここに通われても、面倒臭いから承諾してしまうか……


「それについては、ワタシの後についてくればいい。それと、ちゃんと武装をするんだぞ」


「トオル様は、スレクト様の提案を了承するのですね?」


「ああ、まあ暇だしな。暇つぶしに話に乗ってやろうと思う」


 遺跡探索の準備をしようと宿屋に入ると、壁にもたれ掛かっているラナリがいた。

 スレクトの話の一部始終を聞いていたのだろう。


「ラナリ、さっきの話聞いてたのか」


「うん。……トオル達が家に帰れる手助けになるのなら、私も手伝いたい」


 その目は、絶対について行くという決心した眼差しだった。

 ラナリは弓の腕も確かだ。付いて来てくれるならば心強い。

 心強いが、やはり弓だけでは少し心配だった。


「分かった。ラナリに渡しておきたいものがあるから、先に用意しててくれないか」


「渡したいもの?」ラナリが小首を傾げる。


「……きっと役に立つものだ。だからほら、行ってくれ」


 ラナリは「準備してくる」と小さな声で言うと、自室へと入っていった。

 

 さて、こちらもさっさと強化戦闘服を着て遺跡探索とやらに行きますか。


 トオルが準備を終えて一階に降りると、準備万端の三人がいた。

 スレクトの獲物は、木製ストックのスコープ付き半自動小銃のようだ。

 このような銃火器は、ホプリス族の街では見たことがない。

 

 なるほど、ラナリ達ホプリス族より文明のレベルが上のようだ。

 ホプリス族と比べたら三〇〇年は進んでいる。


「ラナリにはこれを渡すよ。護身用に丁度いいはずだ」


 トオルは、ラナリにマテバのレプリカの入った、腰に着用するホルスターと弾薬ポーチを渡す。

 

「それとこっちは、スピードローダーが入ってるポーチな」


「トオル様、それを渡しても良いのですか?」


「俺にとって大切な物だったとしても、覚えてないんじゃなぁ。既に半自動拳銃は持ってるし、ラナリに渡したほうが有効に使ってくれるだろ」


 トオルの言葉にキューはまだ何か言いたそうにしていたが、それ以上は言葉を発しなかった。


「これってどうやって使うの?」


「キューが分かりやすく教えてくれるはずだから聞くといい」


 キューがマテバの操作方法と構え方、オートローダーの使い方などを、分かりやすく教えていく。

 ラナリはそれを直ぐに吸収していった。知識の飲み込みがかなり早い。

 マテバを素早く構えるラナリは、中々に格好がついていた。


「準備は終わったか? そろそろ行くぞ」スレクトが、宿屋横の馬屋へと歩き始める。


~登場人物紹介~

スレクト・アギ・ザーナグ

種族の大半をヴァイツ族で構成されるズーニッツ帝国の軍人。階級は人類でいう所の少尉階級である。

彼女は一見すると子どものような外見だが、大人。年齢は20歳(人類換算)で身長は145cm 体重42kg 

青の蛇眼で銀のポニテのエルフ耳。肌は褐色であり、手足に宝石のような白い鱗が多少。

蛇眼とエルフ耳と手足の鱗はヴァイツ族の特徴である。

使用武器はGew43半自動小銃モチーフの架空銃とマンリカ式半自動拳銃に似た物。

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