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第2話 不時着したトオルとキュー(生首) 前編

現用のと混同する為ボディアーマー表記を強化戦闘服に変更。


「困ったな……」


 トオルは、黒髪ショートボブの生首を左腕に抱えたまま、顔全体を覆うヘルメットのヘッドランプで地面を照らし、生首の持ち主を捜していた。彼は、二時間ほど捜し歩いても一向に改善しない状況に苛立ち、足首ほどの草を蹴りながら舌打ちする。辺りに若草特有の青臭い匂いが充満した。

 

 辺りは一面草が広がっている。ヘッドランプで照らされる植物は背丈が低く、ここが草原であると物語っていた。


 一先ず、マグマ煮えたぎる活火山に堕ちなかっただけマシと思うことにした。


 トオルが夜の草原を真っ直ぐ進んでいると、彼の左腕に抱えられた生首が目を開けた。


「やはり安物の中古船では無理がありましたね」


 トオルは、左腕に抱えられた生首に非難される。しかし、彼にとって彼女に非難されるのは良くある事であった。というのも、トオルは三年前に彼女を初めて起動してから早々に、彼女から能力の低い人間だと、レッテルを貼られたのだ。端的に言えば、出会った時から彼女のトオルに対する評価は、最低に近かったのである。そして、その評価は今も継続中だった。


「お、キュー起きたか」


 トオルは、省エネモードに切り替わった生首状態のキューに説明を求められた。彼は、遂に話すときが来てしまったかと、面倒臭そうに左腕に抱えられた彼女を見る。


「トオル様、キューが機能停止していた間に、何が起きたのか説明しては頂けませんか? 特にボディが無い事について、詳しくお願いします」

 

 トオルには、キューの精巧な緑眼が自分に対しての失望の色が見えた気がした。

 彼は、その非難を含んだ視線に気まずくなり、目線を右に逸らす。


「……それは」


 トオルは、罰が悪そうに歩きながら、キューが機能停止していた間の出来事を説明する。     

 

 彼の説明は、不時着時の衝撃で、キューが頭部を打って機能停止した事。ぐったりしたキューを引きずりながら、大破した脱出艇を離れた事。そして、脱出艇から離れた直後にトオルは、背後から怒り狂った大型の原生生物に襲われ、生き延びる為にキューの頭部をボディから外して遁走した事などであった。


「要するに、キューのボディを囮にして逃げたのですね。失望しました」

 

 トオルは、キューにはっきりと危機回避行動に対する評価を下される。アンドロイドと言うのは見た目は人間にそっくりだが、人間の心の機微までは模倣できてない。事実、アンドロイドは皆往々にして、はっきりと物を言い過ぎるきらいがある。それはアンドロイドであるキューも例外では無かった。

 

 トオルは情けない言い訳を心中だけに留めた。アンドロイドと口論しても、打ち負かされるのは確実だからである。それだけ、トオルの知能と人工知能の間には越えられない壁があった。


「今は悪いと思って、ちゃんとキューのボディを探してるじゃないか」


「背中のそれを使えば現在のような面倒臭い事には、なっていないと思いますが」


「背中の?」


 トオルは、キューに指摘され思い出す。背中には、自身の命を守るうえで大切なものがあった。

 ありていに言えば長方形の自動小銃(アサルトライフル)だ。この自動小銃は、銃床部分に機関部が内蔵されている。所謂ブルパップ方式の自動小銃である。大層な名前もこの自動小銃にはあるのだが、トオルには撃てればどうでも良かった。


「……忘れてた」

 

 トオルは、顔が恥ずかしさで朱に染まる。暗闇から背後を襲われてパニックになったとはいえ、武器の存在を忘れてしまうとは、なんとも情けないとも思えた。

 

 トオルは、あの時自動小銃を使って応戦していればと自問する。

 応戦していれば、ロボットの頭だけで脱出した直後のようなキューのボディを、わざわざ逃げたルートを戻ってまで、探すはめにはならなかったはずだ。加えて、今は月の出ていない夜であり、見知らぬ土地を闇夜に徘徊するという事は、自殺に等しい行為だった。


「よほど、冷静さを失っていたのですね。トオル様はいつもそうです」


 トオルは、キューの言葉に抗弁できなかった。確かにトオルは、イレギュラーな出来事が起こると冷静さを欠く。彼女とは、三年来の長い付き合いなのだから尚更である。いつもそうだと言われても反論できず飲み込むしかない。

 

 トオルのテンションが最下降していると、不意にキューの緑水晶のような両眼が、ゆっくりと青く輝いた。それは、分析の準備が完了した事を告げる合図だった。

 

「トオル様、分析の準備が整いました。周辺の分析を行いますか?」

 

 トオルは、いつもより準備の時間が掛かった理由を考えた。普段ならば、この手の分析はいつの間にかに、やり終えているのがキューである。最終的に彼女の控えめで小さなボディには、演算補助チップと超小型リアクターがある為、頭部だけだと補助バッテリーの減りが早いのだろうとの結論に至った。

 

 もともとアンドロイドは、頭部だけでも完全には機能が停止しないように作られている。

 

 それは、ボディを用途別に付け替える、言わば機能的側面と、着せ替え人形のようなある種のファッション的側面によるものである。世にいる変態と云われる人種は、恐らく後者を理由にあげる事だろう。

 

 トオルは、そんな他愛のない事を考えながら、両脇に黒と緑のラインが入った白のボディスーツを着た、慎ましやかなキューのボディを思い出す。そして、彼女のボディが何所にいってしまったのかと、トオルは、歩きながら頭を抱え溜息をついた。 


主人公の受難の始まり


~登場人物紹介~

トオル

本作主人公。年齢は21歳で身長は少し高め。年齢に似合わず若干ガキっぽい一面がある。

灰色の強化戦闘服は、衝撃吸収、各種分析、自動止血などなど多機能。所謂、強化外骨格である。

ヘルメットは強化戦闘服と一体化しており、収納、展開して着脱する。なお中古品である。トオルの自動小銃はFS2000モチーフの架空銃。

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