第19話 尊大な褐色小娘 前編
納屋の中には、小型弾薬製造機を使って各種弾薬を製造しているキューがいた。
この小型弾薬製造機を簡単に説明すると、弾薬製造専用の3Dプリンターである。
火薬さえあれば、この3Dプリンターが作りだした空薬莢と弾頭で弾薬が作れるという代物だった。
ご丁寧にイラストの説明書付きである。
説明書の表紙には『女性でも安心! 説明書を読めば扱えます!』と書いてある。
「って、キューは何してるんだ」
いつの間にこんなものを持ち出していたのやら。アルバさんの納屋が弾薬庫みたいになっている。
アルバさんはよく許可したな……
しかも、使用人の衣装では無く、普段の両脇に黒と緑のラインの入ったボディスーツ姿だった。メノックス製のボディスーツは、破れた個所が絹のような動物繊維製の布で修繕されていた。
メノックスとは防寒と対火に優れた素材である。アンドロイドのボディスーツは大概、このメノックスで作られていた。
「弾薬は消耗品ですので、作っていたところです」
「大破した脱出艇から持ち出していたのか」
キューは、やはり気の利くアンドロイドだな。
後はもうちょっと俺に優しくなってくれれば完璧なんだが。
「はい。トオル様の魂が抜けていた間、この小型弾薬製造機を回収していました」
「そうか。それでその恰好は?」
使用人姿はとても可愛かったのに勿体ない。
「このボディスーツはラナリ様に修繕してもらいました。この姿でならキューも戦えます」
ふむ。キューに貴族の護衛をさせるのも有りか……
護衛の仕事は幾らぐらい稼げるのだろうかと考えていると、トオルとキューを呼ぶアルバの声が聞こえた。
トオルは、キューの弾薬製造を一時中断させて共にアルバの元へと向かった。
アルバは仕事の割り振りのために呼んだのであろう。
「トオル、キューの嬢ちゃんも来たか。お前達の客人が外で待ってるぞ」
俺達に客人? 俺達に会いに来る人がいるほど未だにロネの街に馴染めていないのだが、そんな俺達に会いに来る客人とやらは何の用だろうか。
「俺達に客人って、キューは知り合いでもいるのか?」
「いいえ。キューに知り合いなど、友人のラナリとアルバ様ぐらいです」
ラナリと友人関係になっていたのか。だから、二人は仲が良さそうに見えたのだな。
キューに社交性があった事を驚きつつ、入ってきた客人を見る。
トオル達の客人は、全身を覆うボロ切れのようなものを纏っていた。
そいつはトオルを尾行し、さらにはサマーソルトキックを見舞ってくれた、あのクソガキであった。
「おまえ……あの時のクソガキじゃねえか!」その姿を見るやトオルの額に青筋が立つ。
「ここに"人類"が、いや、お前達に頼みたいことがあって来た」少し低めの女性の声だった。
「頼みたいことだあ? 何言ってんだ、人様にサマーソルトキックをしておいて」
トオルは頭に血が上っており、"人類"というワードに気がつかなかった。それに、大人げない態度である。
「あの時は、お前が変質者のように近づいてきたのが原因だろう」
「この野郎、人を変質者扱いしやがって……」
トオルの額の青筋が増えた。これでは一ミリも話が進まないのは明白であった。
「トオル様、今は彼女の話を聞きましょう」
「首ポロ従者、よく言った。頭の悪い主人では、さぞ苦労していることだろう」
「こいつ……!」
「トオル様、落ち着いてください。事実です」
「お前はどっちの味方だよ!」
やれやれといった様子で、クソガキは依頼の説明を再開した。
「頼みというのは、この大陸に二箇所ある遺跡についてだ」
「遺跡? なんだそれ」
この大陸に遺跡があるのは初耳だ。
「その片方の遺跡にある装置を破壊してもらいたい」
「破壊する必要がある装置とは、何をする為の装置なのでしょうか」
キューが疑問を口にする。キューはとても興味深そうにしていた。
「悪いが、今は話せない」
話せないだぁ? なんだか、このクソガキの態度に腹が立つ。
そっちは隠し事があるのに、協力するとでも思っているのか。
「……おい、クソガキ。今すぐここから立ち去れ」
「トオル様、いいのですか? 彼女の話を聞かなくても」
こんなクソガキの話すことなんざ、どうでもいいことに決まっている。
尊大な態度も、多感な時期によくある奴だ。所謂、厨二病ってやつだ。
「こいつの話を聞いたって、俺達が得することなんてない」
「……分かった。また明日ここに来る」
ボロ切れを纏ったそいつは明日来ると宣言して立ち去り、最後まで己の姿すらも晒さなかった。




