表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/154

第15話 続、異文化交流 後編


 右へ左へ路地を走っている内に、アルバの宿屋にたどり着く。


「……っへ。何とか追っ手を撒いたな」


 トオルは、ぜえぜえ息を切らしながら、宿屋の前で勝利宣言をした。


「トオル様、なにを喘いでいるのですか? 公衆浴場でも覗きに行っていたのですか?」


「って、そうじゃない!」

 

 宿屋の前に、使用人衣装のキューが箒を持って立っていた。キューは、半目で心底不審そうにこちらを見ている。


「では、なんなのですか?」キューがトオルの喘いでいる理由を問う。


「誰かが、俺を尾行していたんだよ」トオルは後ろを振り返る。


「大方、トオル様がまたやらかして、自警団の方に追われていたのでは? ……覗きがバレてしまったとか」

 

 キューが疑惑の目をこちらに向ける。


「だから、覗きじゃねえよ!」

 

 このままではキューの自分に対する信用が地に落ちそうだと危惧したトオルは、尾行してきた者と思われる足音を思い出す。


「なんかこう、子どものような軽い足音だった気がする」……多分、きっと。


「そうですか。それならば、少し様子を見て来ましょうか」


 キューが街道に立ち、周辺をキョロキョロと見渡す。


「――見つけました。トオル様から七時の方向一二メートルの木箱の陰ですね。背丈から察するにプレティーンの子どもでしょう。容姿の詳細は、全身をボロ切れのようなもので、隠していて分かりません。……この街の貧困層の子どもでしょう」


「……なんだ、犯人はやっぱり子どもじゃないか」


 俺を尾行した子どものご尊顔でも見てやろうか――と大人げない感情が芽生えた。

 

 トオルは向き直ると、息が整うのを待たずに犯人が隠れている木箱の影へ歩く。

 はぁはぁ喘ぎながら木箱へ近づくトオルの顔は、幼気な子どもを誘拐する変質者のようだ。

 

「そのボロ切れを剥ぎ取って――ふごっ!」


 トオルが、ボロ切れのようなものを掴もうとした瞬間、子どもの見事なサマーソルトキックがトオルの顎に叩き込まれた。

 視界が上下逆さまになり、盛大且つ無様に尻をつくトオル。

 

 成人しているトオルがプレティーンの子どもに負けた情けない瞬間が、そこにはあった。


 キューの表情が、どことなくトオルを哀れんでいるような、形容しがたい冷めた表情をしている。

 トオルのちっぽけなプライドは既にズタボロである。


「おい! 待ちやがれクソガキ!」


 ボロ切れで全身を覆った子どもは、既に遠くへ走り去っていた。


「はぁはぁ喘ぎながら近づけば、誰だって変質者だと思って攻撃しますよ」


 キューが溜息を吐きながらトオルを起こした。

 

 トオルは、この街の子どもは皆あんな感じなのかと思い、腰に手を当て大きく溜息をつく。


「あのクソガキめ……覚えてろよ」


 トオルは、大人げのないやられ役のような台詞を吐いた。 


「おいトオル、そこで何やってんだ」アルバが宿屋の窓から怪訝な顔を覗かせる。


「いやちょっと子どもと遊んでただけですよ。ハハハ」


「そうかい。キューの嬢ちゃんは、トオルの強化戦闘服とやらを直したんだろ? なら丁度いい、畑を荒らす害獣駆除の仕事をやってくれないか? 本来は俺も所属している自警団の仕事なんだが、今回はお前らが代わりにやってくれ」


「そうでした。トオル様、強化戦闘服の修理は全て終わっています。配線が切れていただけでしたよ」 


「それと、ラナリも連れて行ってやってくれ。偶にはあいつに狩猟でもさせたほうが、暇だ暇だと愚痴られなくて済むんだ」


 あんな子が戦えるのか? まあ、ラナリのお守りも仕事の内みたいなものか、とトオルは勝手にラナリを過小評価した。

 

 トオルは、キューが持ってきた強化戦闘服を手際よく着る。

 ヘルメットを展開しHUDを起動した。


「よし、ちゃんと起動できるな。スキャン機能異常なし、分析機能異常なし。バイタルモニター異常なし。自動小銃の残弾も、ちゃんとHUDに表示されてる」


「私もいつでも行けるよ」


 トオルがぶつぶつとシステムチェックをしていると、ラナリ達の部屋から武装をしたラナリが歩いてきた。ラナリは、いつもの服に、印象的な金の装飾の入った、白いグリーブと胸当て、長めの手袋を身に着け、複合弓を携えていた。手に持つ弓にもまた、同じような金の装飾が入っている。

 

 ラナリの武装した姿は、とても堂に入っていた。


「ラナリの服とかに入ってる刺繍ってどんな意味があるんだ?」


 金の刺繍や装飾はどれも同じ花を模しており、どれも高価に見える。


「これは母さんが好きだった花の模様なんだ。身に着けてるこれも全て、母さんのお下がりだよ」


「ちょっとだけ身分の高い人だったから」とラナリは控えめに笑う。

 

 ラナリに、亡くなった母を思い出させる真似をワザとではないにしても、させてしまっただろうか――

 トオルは迂闊な質問をしたことを少しだけ悔いた。


「……よし、じゃあ害獣駆除に行くか」


 トオル達三人は、害獣駆除へ向かうべく南門から問題の畑へ向かう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ