第11話 この惑星は――
トオルは、この惑星で初めて晴れ晴れとした朝を迎えることが出来た。
この惑星に不時着して数日、本当に心休まる日が無かった。
運気は最悪だと言わんばかりに、激動の連続である。
紫髪目の異星人の人々で賑わう通りを見ながら、トオルはこの惑星に不時着する前の事を振り返る。
地球の日本で生まれたトオルは、太陽系連合政府の航宙アカデミーを卒業し、一攫千金を夢見て宇宙を飛び回っていた。アカデミー在学中の記憶は、あまり覚えていない。
採掘における優先的な狙いは、氷の層が露出している小惑星か、ニッケルの産出が期待できそうな金属小惑星である。そういった金になる小惑星を採掘して生計を立てていたのだ。
そして見知らぬ惑星に不時着する前も、普段どおりの労働をトオル達はしていた。
「キュー、宙域分析装置で手つかずの小惑星を探してくれ」
トオルは、左に頬杖をつきながらキューに指示を飛ばす。
「了解。一〇天文単位内の質量を分析します。――艦前方、約〇.二天文単位内に巨大質量を確認。太陽や月のような反応もあります」
キューの分析結果に、トオルは強烈な疑問を感じる。船外の景色はただの暗い宇宙である。
すぐそこに太陽や月があるとは到底思えないのだ。
トオルもタッチパネルで船外カメラを起動し、次々と船外の映像を映し出すが、どこにもそれらしい天体は確認できなかった。
「キューよ、それは本当か? こっちのモニターに何も見えないんだが、というか望遠カメラに何も映っていない。ただの故障じゃないのか?」
ステーションのマーケットで中古を買ったのが原因で変なものでも掴まされたかと中古部品屋のニヒルな顔の店主を思い出す。
「故障ではありません。この宙域分析装置は中古とはいえ空間の揺らぎも観測できるほど高性能です。トオル様の直感よりも信頼できます。光学系では観測不能ですが、確かに質量を探知しております」
キューはこのように説明するが、目の前にあるはずの巨大な質量を持つ天体は、何所にも見当たらない。辺り一帯は無である。
トオルは考え込む。このような事は故障以外考えられない。
何がどうなっているのか――
「警告。後方に空間の歪曲および重力波を感知――」キューが警告する。
重力波ということは何かがワープして来たと言うことなのだが、後方をモニターで確認しても何もいなかった。
「キュー、本当に後ろに何かいるんだろうな。俺をおちょくってんじゃ――」
突如としてトオル達の乗っている、深宇宙探査艦が暴走し勝手に速度を上げていく。
船内の警報が鳴り響き、室内灯が非常事態を示す赤に染まる。
急変する状況に驚いたトオルは頬杖を勢いよく外し、左の肘関節がごりっと痺れ、痛みに悶える。
トオルには、いったい何が起きているのかさっぱり解らなかった。
「トオル様、今すぐに脱出艇で退艦を。強化戦闘服も早く着てください」
「退艦って、この船買ったばかりなんだが!?」
この深宇宙探査艦"宗谷丸"はトオルが本格的に、小惑星採掘業を始めようと一年前とちょっと前に買ったばかりである。莫大なローンだって残っていた。
「……ローンだってまだ残ってるってのに!!」
トオルは"宗谷丸"を購入するに当たってローンを組んでいた。普通に働いていては、完済までに何十年かかるか分からない額だ。キューは簡単に艦を捨てると言うが、トオルには即決できないことだった。
「残念ながら何者かの干渉により艦は制御不能です。早急に退艦します。無様にこの艦に張り付くようであれば、力尽くでも連れて行きます」
「嫌だ! 俺は"宗谷丸"から降りない!」
「いかなる時も助けうる人命を無視してはならない。アンドロイド規定第一条が発動しました。強制的に救助活動を実施します」
トオルは警報が鳴り響く中、キューに引きずられながら脱出艇へと辿り着く。
引きずられている間のトオルは、魂が抜けたかのようにずっと項垂れていた。
こうして二人は脱出艇に乗り込み、艦後部から脱出艇を切り離し、暴走する"宗谷丸"から脱出した。
そして、暴走した"宗谷丸"から無事脱出したトオルを待っていたのは、キューの平然とした耳を疑うような説明であった。この言葉にトオルは呆気にとられる。
「トオル様、前方に惑星が出現しました――」
地球のような惑星が出現した――
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